巨額赤字転落の発表を受けて会見を行った丸紅の柿木真澄社長(中央)はコロナショックの影響について「SF映画のような出来事が起きている」と表現した。(記者撮影)

コロナショックで商社に巨額減損の嵐が再来するのかーー。

最初に直撃したのは丸紅で、3月25日に巨額減損による業績下方修正を発表した。2019年3月期に過去最高となる純利益2308億円を叩き出したが、2020年3月期は一転して大赤字に転落する。これを受けて、ほかの総合商社も大幅な業績悪化に陥る懸念がくすぶっている。

3月25日に会見を行った丸紅の柿木真澄社長は、「(新型コロナウイルスの景気影響は)これまでの金融危機、地政学的危機とは異なるもので影響は多方面、多岐にわたる」と強調。いずれコロナ影響が収束するにしても、「足元の環境悪化だけでなく、将来のビジネス環境についてもかなりの程度、悪化するとみなした」(柿木社長)と下方修正の理由を説明した。

石油・ガス事業で1450億円の減損

丸紅は2020年3月期の最終損益見通しを2000億円の黒字としていたが、今回、それを3900億円下方修正し、過去最大となる1900億円の赤字になる見通しだ。

損失の大半は、メキシコ湾や北海での石油・ガス開発事業や米・穀物事業で発生した減損損失だ。最も大きい石油・ガス事業での下方修正額は約1450億円におよび、下方修正額全体の約4割を占める。資源事業のウエートが小さい丸紅がこれだけの巨額減損を出したことに業界関係者の間で驚きの声も上がった。

目下、資源の中でも特に価格下落が激しいのが原油だ。一段と市況が落ち込むきっかけは3月上旬。サウジアラビアなどの産油国による話し合いがまとまらず、2017年から実施していた協調減産体制が終了することで需給の緩みは不可避となった。さらに中東最大の産油国であるサウジは、減産どころか大増産を表明。これで原油価格は急降下した。

足元の原油価格は、年初に比べ半分以下の1バレル20ドル台(WTI)で推移している。原油相場の大幅な変化を受けて、長期の価格想定や事業計画を見直したことで巨額減損が発生した。今回の減損で丸紅はメキシコ湾プロジェクトの想定原油価格を引き下げた。従来の想定価格は明らかにしていないが、新たな想定原油価格は1バレル39ドル(2020〜2023年度の平均価格)だ。

現状の1バレル20ドル台という価格は産油各国にとって生産コストに見合う水準ではない。そのため、どこかのタイミングで産油国は原油価格の回復を図るために減産へ動き出すとみられる。

協調減産へのカギを握る2国の財政均衡価格は、サウジが1バレル80ドル、ロシアが1バレル40ドル程度とされ、少なくとも40ドルより高い価格を目指して2国が主導する形で協調減産を再開する可能性がある。そうした意味では、2020〜2023年度を1バレル39ドルとした丸紅の事業計画は、これ以上の減損を回避する慎重な見立てと言えそうだ。

かつても資源事業の大幅減損

丸紅に続き、三井物産も700億円程度の損失が出る可能性があると3月27日に発表した。損失の過半を占めるのは石油・ガス開発事業で、アメリカのシェールガス・オイル事業やイタリアのテンパロッサ油田などが減損対象になる。

「資源商社」とも称される三井物産は、石油・ガスの持分生産量が日量25万2000バレルと丸紅の約7倍(2018年度時点)。それぞれの油田の採算性や事業計画における従前の想定原油価格などから減損金額も変わってくるとみられ、原油急落に関しては丸紅に比べて三井物産の傷は浅くて済んだといえる。

商社の資源事業の大幅減損というと2015年度の悪夢が思い起こされる。2014年秋に1バレル100ドル弱だった原油価格が2016年1月に30ドルを割り込むなど資源バブルの崩壊に端を発し、三菱商事や三井物産が初の赤字を計上した。

このときは銅事業による減損も大きかった。銅価格(LME)は2011年のピーク時に1トン当たり1万ドルをつけていたが、2016年1月には4300ドル台と半値以下に下落。当時、三菱商事はチリの銅事業で2710億円、三井物産も銅事業で1180億円の減損を計上した。

現在もコロナ影響で銅価格が下がっている。年初は1トン当たり6200ドル前後あったが、今は4700ドル台へ2割ほど下落した。今回の丸紅の減損にも、チリの銅事業が600億円ほど含まれている。

資源安のほかにも損失の懸念が

今後、原油価格の低迷や銅価格の下落が続くようだと、ほかの商社でも減損発表が相次ぐ可能性もある。ただし、減損に至るか否かは、会社によって事業計画の前提にしている資源価格や権益取得額といった条件が異なるため一概にはいえない。過去に減損し、すでに事業資産の簿価が小さくなっている場合もあるからだ。

資源ビジネスでは、市況悪化以外にもコロナ影響の懸念がある。3月26日に住友商事は、ボリビアの銀・亜鉛・鉛事業、マダガスカルのニッケル事業の操業を一時停止すると発表した。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

両国とも新型コロナウイルスの感染拡大防止のため外出禁止令などが出されており、操業再開がいつになるか見通せていない。操業停止が長期に及べば、減損に至る可能性もある。住友商事の事例に限らず、各商社が投資している海外の権益での操業が停止するリスクはくすぶる。

2015年度の資源バブル崩壊による大赤字の反省から、商社各社は資産の入れ替えなど市況悪化に強い資源事業確立に努めてきた。コロナショックという未知のリスクが増幅する中、その耐久力が問われることになる。