3月27日には土日に備え、都内のスーパーにも長蛇の列ができた。新型コロナウイルスの影響の大きさをどう考えればいいのだろうか(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの流行が広がっている。特に、遅れて感染者数が急増した欧米諸国の状況は、かなり厳しい。筆者は祈ることしかできないが、早期の収束を願う。

また、最前線でこの病気と対峙しておられる医療関係者の方々のみならず、諸国の政府でこの問題に昼夜問わず取り組んでおられる方々、また必要な物資を供給しておられる生産者、物流業者、小売業の皆様には心より感謝したい。加えて多くの企業や自営業者には、売り上げの激減や資金繰りで、心労がかさむ向きを多いことと拝察する。

主要国の株価はすでに「底値圏」を形成しつつある

ここから先はいつものコラムと同様、市場動向の展望に限って述べる。前回の3月16日のコラム「日米の株価が『底値圏』に達したと言えるワケ」では、日本やアメリカの株価は、最近の最安値を若干下回るリスクは残るが「底値圏」にある、すなわち最安値を大幅に下回る可能性は限られているのではないか、と述べた。加えて、その週の日経平均の高値見通しを1万9500円とした。

実際には、日経平均株価が予想と逆にザラ場安値1万6358円(19日)まで下押し、安値を更新してしまった。それでも下振れは限定的にとどまり、翌23日からの週に日経平均は持ち直した。結果として、その週のザラ場高値は1万9564円と、1週間遅れてしまったが、ほぼ予想レンジ上限まで株価が回復した。読者の皆様に、多大な迷惑はおかけせずに済んだのではないかと思う。なぜ株価が「底値圏」だと考えたかは、繰り返すのもしつこいので、前回コラムをご覧いただければ幸いだ。

こうした筆者の「底値圏」との見解に対して、読者の方が疑問を抱くのは、当然だろう(ある専門家の見解に対し、ことごとく賛同が集まるとすれば、それは危険だ)。

とりわけ、「馬渕さんはかなり前から、日経平均は1万6000円に落ちると、念仏のように繰り返してきた。しかしそうした見通しを唱えた時点では、新型コロナウイルスの流行は予想していなかったはずだ。想定外の大きな悪材料が生じたのだから、下値予想を1万4000円や1万2000円に下方修正すべきではないのか」とお考えの方も、多いだろう。

ところが、想定外なのは、悪材料だけではない。日米欧などの諸国で、さまざまな対策が打ち出されている。たとえばFED(米連銀)がこれほど急速に政策金利をゼロにまで引き下げる、というのは、誰も想定していなかっただろう。想定外の悪材料だけをことさらに注目し、想定外の好材料を軽視するのは、バランスを欠いている。

当初は経済対策について、市場は冷たい反応だった。なぜなら、連銀の緊急利下げのように「マクロ的に(全般的に)経済を支えよう」、という策が中心だったからだろう。ところがその後は、最前線で戦っている医療への支援や、経済的に打撃を受ける産業・企業、ならびにそこで働いている労働者といった、痛みの大きいところに向けた策が、次々と打ち出されてきている。

財政面では、打撃の大きい産業や基盤が弱い中小企業に向けての補助金や低利融資、減税、税納入期限の延期、労働者への所得補填、雇用を維持しようとする企業への支援、失業保険の増額などだ。金融政策も、企業の資金繰りを支援するため、CP(コマーシャルペーパー)や社債の買い入れなどが実施、あるいは検討されている。

リーマンショック時の経済政策との違いは?

加えて、今回の経済対策を、2008年のリーマンショック時と比較することには、かなりの意味があると思う。

リーマンショックの際は、アメリカの政府・中央銀行の対応に、失策があったと考える。リーマンブラザーズが経営危機に陥った際は、米政府・連銀は「私企業を救済することはできない」として、他の民間金融機関への同社の売却を仲介はしたものの、公的資金の注入には後ろ向きだったと言われる。

そのため、リーマンブラザーズは2008年9月に破綻申請に追い込まれた。これが、他の金融機関の破綻を連鎖的に引き起こすとの懸念を広げ、世界的な混乱を招いたと言える。

これに対して今回は、企業の資金繰り倒産の恐れを政府・中央銀行が想定し、すでに前述のような資金繰りの改善策を打ち出している。リーマンショック時の反省を、アメリカの政府・中央銀行は、活かしていると言える。

他にも、リーマンショック時の経験を踏まえた点は、多々ある。今回の主要国の政府や中央銀行の動きは迅速だと評価できるが、その一例を挙げると、述べた通り、米連銀はCPの買い入れを早々に打ち出した。なぜすぐにこうした策が取れたかと言えば、このCP買い付け制度(CPFF、Commercial Paper Funding Facility)は、リーマンショック直後の金融市場の混乱期のなか、2008年10月28日に創設されたものだ。既存の制度を活用する形で、即時の対応が可能だったと解釈できる。

加えて、たとえばアメリカの社債市場で、特に格付けの低い社債が売られ、価格が大きく下落している。リーマンショック前であれば、アメリカの銀行がこうした社債にも大いに投資を行なっていて、巨額の損失を被り、金融機関の経営破綻につながりかねない、という憶測を招いていただろう。

ところがオバマ政権時に、リーマンショックの反省を活かし、「ボルカールール」が制定された。これによりアメリカの商業銀行は、原則として資産運用は融資と国債のディーリングに限られ、運用としての株式や社債の売買、ヘッジファンドなどへの資金運用委託はできなくなった。したがって、証券市場の混乱からアメリカの銀行の経営が遮断され、金融システムの安全度は、リーマンショック時よりかなり高まっている。

日本株の上昇は「日銀の買いのおかげ」なのか?

ところが「新型コロナウイルスという想定外の材料が現れたのだから、主要国の株価はこれからもどんどん下落するに決まっている」、と思い込んだ向きは「日本株が上昇しているのはおかしい」と唱えているようだ。そうした向きは、「日銀が株式ETF(上場投資信託)を買い、無理やりに株価を上げている」と主張していると聞く。

しかし、3月16日に日銀が臨時の金融政策決定会合を開き、株式ETFの買い付け枠を当面2倍にすると発表、実際には17日から買い入れ額を増やした。日銀の買い入れ額と日経平均の前日比騰落幅はどうだったのかを見てみよう(以下の数字は前者が日銀のETF買い入れ額、後者が日経平均の騰落幅)。

17日:1204億円、9円高、18日:ゼロ、284円安、19日:2004億円、173円安、23日:2004億円、334円高、24日:ゼロ、1204円高、25日:ゼロ、1454円高、26日:2004億円、882円安、27日:ゼロ、7243円高)。

このように、日銀が買った日は上がっても300円幅強で、むしろ900円近く下落したことがある。逆に日銀が買わなかったが、1000円以上日経平均が上昇した日が2日もある。どうも「日銀が買って株価を押し上げているだけだ」というのは、的を射ていないと言えるだろう。

おそらく、短期的な売買は別として、基調としては、内外の長期投資家が企業実態と比べて安くなり過ぎた現物株をじっくりと分析し、ゆっくり買っているのではないだろうか。

引き続き「現物でコツコツ買う」ことを勧める

述べてきたように、日本株は総じて「底値圏」にあると考える。今は現物の株式や株式ファンドを、現金でコツコツ買っていく局面だろう。とは言っても、最安値を若干割り込むリスクは残っていると想定しながら、買うべきだ。また、今後も株価指数が大きく上下に荒れる展開が続くと懸念され、信用取引やレバレッジをかけたCFD取引などは、勧めない。

これまでも当コラムでは「短期的な株価予想の数値にこだわり、それに賭けるのは危険だ」と述べてきた。その一方で、当コラムの最後の「今週の株価の予想レンジ」の数字だけしか読まない読者も多いと聞く。

筆者として「短期的に賭けるべきではない」と述べながら、目先の予想数値を掲げるのは、自己矛盾だと以前から考えていた。また重要なのは予想数値ではなく、その背景となる要因分析だとも考える。したがって、今回から、短期的な予想レンジは書かないことにするのでご了承いただきたい。

中長期で見れば株価は底値圏にあり、しばらく底固めをした後、上昇基調に向かうと予想している。今年末までには、日経平均は2万円を大きく超えていくだろう。