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21世紀の民間核融合炉開発に先駆けて、いち早く民間を目指した企業がある。物理学者ノーマン・ロストーカーを含む数名の科学者によって設立されたTAE Technologiesだ。

ポール・アレン、ロックスター財団などから出資を受けた同社は、長らく「秘密主義」を貫いてきた。しかし、ここ数年になり、その全貌を少しずつ明かし始めた。

TAE Technologiesは、磁場反転配位(Field-Reversed Configuration)の衝突合体による核融合炉を目指している。融合温度の最も低いD-T燃料を使用するアプローチが多いことに対し、同社はD-T反応が多量の高エネルギーの中性子発生を伴うため、燃料点火の物理条件は容易でもさまざまな困難が生じると考え、より高温を必要とする中性子非発生燃料を使用する。FRCは核融合研究の歴史のなかで比較的早い時期から研究されてきたが、同社の最近の実験ではプラズマの閉じ込めについて、これまでのFRCのスケーリングよりも1桁以上高いという成果を得ている。

そんなTAE Technologiesの設立は1998年にさかのぼる。当時の主流であったトカマク方式に対して「異端」の方式をとったロストーカーは米国政府の予算での研究開発を諦め、民間に転身した。

現在TAE Technologiesの最高科学責任者を務めるのは、レーザー加速器の世界的権威である田島俊樹だ。彼はカリフォルニ大学アーヴァイン校で、ロストーカーの初期の教え子のひとりだった。ロストーカーと初めて出会った73年に「もうプラズマの理論は構築され終わったよ。これからは、それを使った応用(社会インパクトとここでは言ってよいかもしれない)だよ」と告げられたという。

田島がTAE Technologiesで役職を引き受けることにしたのは2011年だ。

「ロストーカー先生から何度か説得を受けたんです。09年に先生とお会いしたとき、『わたしは先が長くないからレガシーを引き継いでくれ』と言われているように感じました。もし断れば彼の意思を継ぎ、会社を発展させていく願いを聞き入れることはできなくなってしまう。その場ですぐ引き受けることにしました」

14年に亡くなったロストーカーの哲学のひとつに「End in Mind」という考えがある。

「単に科学として核融合研究をするのではなく、エネルギーを電気として取り出すという終着点から考えよ、と。中性子非発生燃料を軸に据えることは三重水素の核反応の30倍のエネルギーを必要とする困難がある。けれども、金属や超電導マグネットを激しく壊すことがなく放射性廃棄物もほとんど出ない。人類がほしいと思う電気製造機をつくるという目的から考えるんです」

また、TAE Technologiesは商用核融合炉の実現に先駆け、研究開発の過程で出てきたアイデアをヘルスケアなどの領域に応用する「TAE Life Science」を立ち上げた。

「技術が洗練され研究が煮詰まれば、自ずと応用例が出てくるんです。目先の果実を食べつつも、終局(End)の核融合炉の実現を目指していきます」