人に伝わりやすく、かつ面白い文章を書くには? (写真:CORA/PIXTA)

書いた文章が「つまらない人」と「面白い人」の違いはどこにあるのか? 人に伝わりやすく、面白い文章を書くための方法を、コピーライターの橋口幸生氏による書籍『言葉ダイエット』から一部抜粋・再構成してお届けします。

文章は面白くないと読んでもらえません。ところが当たり前のように、「ビジネスなのだから、面白さなど必要ない」と思っている人が大勢います。こういう誤解が、ビジネス文章を読みにくくしているのです。

どんな会社や職業であっても、文章の目的は同じです。読んだ人の感情や行動に何らかの影響を及ぼすために、あなたはキーボードに向かっているはずです。面白くないものが影響力を持つことはありません。

面白いといっても、笑いを取れとか、オチャラけろと言っているのではありません。「面白い」という言葉は人によって解釈がさまざまで、しばしば誤解を生みます。筆者もよく営業から「このクライアントに、面白いコピーはいらないんです。かたくてマジメじゃないとダメなんですよ」と言われます。しかし「面白いこと」と「かたくてマジメなこと」は、両立可能です。本記事における「面白い」という言葉の定義を明らかにしたいと思います。

「面白い」とは、「発見」があることを指すのです。

「発見」がある文章は、面白い

突然ですが、江戸時代の武士は門限が早く、夜6時だったことをご存じでしょうか? いざというとき、戦いに駆けつけるため、というのが理由です。言われてみれば、なるほどと思いますよね。同じ理由で夜遊びも禁止だったそうです。

あなたは今、「武士の門限が夜6時」という文章を読んで「面白い」と思ったのではないでしょうか。それは、新しい事実を「発見」したからです。

ちなみに「武士の門限は夜6時」という豆知識は、「鬼平犯科帳25周年記念動画 鬼へぇ」というウェブムービーをつくったときに調べたものです。ビジネスとは関係ないですが、ぜひ見てみてください。時代劇好きの上司との雑談のネタにはなると思います(笑)。


画像:YouTube「劇画『鬼平犯科帳』25周年記念動画「鬼へぇ」」https://www.youtube.com/watch?v=M136XGzk8YEより

話を「発見」に戻します。

僕はよく新人コピーライター研修で「亀のコピーを書きなさい」という課題を出します。すると、ほとんどの人が

「マイペースで行きましょう」

……みたいなコピーを書いてきます。

このコピーがつまらないのは、亀は動きが遅いという誰でも知っていることを、広告コピーっぽい体裁で言い換えているだけだからです。「発見」がまったく無いのです。

それでは、次のコピーを見てください。

●「世界最高齢の亀は、186歳」※2019年時点 
●「5月23日は、世界亀の日」
●「カメの性別は、卵の中にいた時の温度で決まる」

※参考:https://tenki.jp/suppl/rsakai/2019/05/23/29112.html#sub-title-b

どのコピーも、明らかに「マイペースで行きましょう」より面白くなっています。少なくとも読み手に「発見」を与えようとする姿勢があります。

ビジネスであれ何であれ、文章を書くときは読み手にとって「発見」があるよう意識することが大切です。話をカメの性別に戻すと、卵が28℃以下の場合はオス、28〜29℃の場合はオス・メス半々、30℃以上の場合はメスになるそうです。

発見には2種類ある

「発見」というだけではわかりにくいので、より掘り下げましょう。「発見」は「主観的発見」と「客観的発見」の2つに分けられます。

「主観的発見」とは、人の気持ちの中にある発見です。僕の手がけたコピーを例として挙げます。

●「父が涙もろいことは、テレビが教えてくれた。」


スカパー! 2018年のコピー(画像:『言葉ダイエット』より)

●「集中には、きっかけがいる。」


FRISK 2018年のコピー(画像:『言葉ダイエット』より)

どちらのコピーも「言われてみれば、確かにそうだな」と読み手に共感してもらうことを狙っています。心のどこかで思っていることを言い当てる、ということですね。僕はこれを、ちょっと難しい言葉で「潜在的感情の顕在化」と呼んでいます。

「主観的発見」は、基本的に「経験」の中から探します。直接経験したことはもちろん、友達に聞いた話などでもいいでしょう。上記のコピーを見ればわかるように、特別な経験である必要はありません。むしろ、いつもの毎日のほんのささいな瞬間を、一歩踏み込んで考えることが大切です。

例えば「子どもの頃、一緒にテレビを見ていたとき、父はよく涙ぐんでいた」というエピソードであれば、誰でも心当たりがあると思います。そこを一歩踏み込んで考えて「一緒にテレビを見なかったら、泣いているお父さんなんて目にする機会無かったかもな。父が涙もろいことは、テレビが教えてくれた、とも言えるな……」と「発見」に育てていけばいいのです。

それでは、どうやって「主観的発見」で文章を面白くするのか? エントリーシートの「学生時代に頑張ったこと」を例に見てゆきましょう。

私は学生時代、海外でのボランティア活動に力を入れました。力仕事が多かったのですが、子ども達の笑顔に元気をもらいました。この経験を通して、私は人の役に立つ喜びを学びました。

いかにも就職活動らしい文章ですが、「発見」が無いので読み手は退屈です。次のように書き換えてみましょう。

私は学生時代、海外でのボランティア活動に力を入れました。力仕事が多かったのですが、子ども達の笑顔に元気をもらいました。考えてみたら、それまで子どもの笑顔を直に見る機会なんて、ありませんでした。子どもの笑顔にこんな力があるのかと、本当に驚きました。日本に帰ってから電車で泣いている子どもを見ても、イライラしなくなったほどです。卒業した後も、子ども達の役に立つ仕事をしたくなり、貴社を志望いたしました。

一見、ありきたりなエピソードにも、深く考えれば「発見」があることがおわかりいただけたと思います。

「発見」の有無で企画書の印象も変わる

企画書も「発見」があると無いとでは、印象がまったく変わります。例えば、次の文章を読んでみてください。広告会社がスニーカーメーカーに、販促キャンペーンを提案している企画書です。

御社のスニーカーは10代の若者がターゲットです。入学シーズンは繁忙期なので、需要増が見込めます。若者の生活に合わせたメディアでコミュニケーションをすることが大切です。

強いて言えば3文目が「発見」ですが、後はすべて「前提の共有」であり、読み手が知っている内容です。こんなスライドが2、3枚続いたら、すっかり飽きてしまいます。そこで、次のように書き換えます。

御社のスニーカーは10代の若者がターゲットです。入学シーズンは繁忙期なので、需要増が見込めます。しかし、若者たち本人にとっては、繁忙期なんて関係ありません。青春を謳歌するうえで必要だからスニーカーを買うだけです。コミュニケーションにおいても、若者のリアルな生活に合わせたメディアを選ぶことが大切です。

提案するメディアプランの内容が同じでも、その前のスライドに「発見」があれば、より「面白く」感じると思います。

「前提の共有」も大切ですが、それに終わらず、「発見」を入れるように意識してみてください。

「主観的発見」が自分の中にあるのとは対照的に、「客観的発見」は外の世界にあります。

先に例として挙げた「カメの卵は28℃以下の場合はオス、28〜29℃の場合はオス・メス半々、30℃以上の場合はメスになる」というのは「客観的発見」です。読み手の知らない事実と言ってもいいですね。

事実の中に面白いものはいくらでもある

僕の書いたコピーだと、次のものがあります。


●「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」(ANA 2018年)

このコピーは子ども達と一緒に読んだ『ツバメのたび─5000キロのかなたから─』(著:鈴木まもる)という絵本から着想を得ました。

絵本では「つめたい さむい とばされる でも いきたい いかなければ」と、はるか5000キロを乗りこえて日本にやってくるツバメの旅が描かれています。

比べると飛行機での移動は、おいしい食事があって、映画を観れて、ぐっすり眠れて、なんと幸せなのだろうと思ったのです。

「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」は、僕のひらめきでも何でもありません。ただの事実です。

世界を見渡せば、面白いものはいくらでも発見できるのです。

「客観的」と「主観的」、2種類の「発見」はどちらがより面白いというわけではありません。厳密に区別できないこともあります。次に挙げるのは、2種類を組み合わせた例です。

●「最初にわかったのは、「オランダ語は横に読む」ということ。
●「最近ありますか? 検索しないで、自分で気づいたこと。」
(「風雲児たち」 2018年)


「風雲児たち」ポスター 2018年(画像:『言葉ダイエット』より)

「風雲児たち」は1979年のシリーズ開始以来、現在も連載中の歴史大河マンガです。2018年のお正月に、杉田玄白や前野良沢らが西洋の医学書を翻訳し『解体新書』を出版した際のエピソードがドラマ化されました。ドラマに合わせて原作マンガを広告するために作ったのが、このポスターです。

大事なのは共感もできる「発見」

キャッチコピーの「最初にわかったのは、『オランダ語は横に読む』ということ。」は「客観的発見」です。実際に翻訳したときのエピソードから拾ってきています。

一方、「最近ありますか? 検索しないで、自分で気づいたこと。」は「主観的発見」です。「最初にわかったのは、『オランダ語は横に読む』ということ。」だけだと、歴史好きにしか届かないポスターになります。そこで誰でも共感できる「発見」を追加したのです。