新型コロナの影響により、トヨタのアメリカの主力生産拠点、インディアナ工場も生産休止を余儀なくされた。現地の事態はさらに深刻化し、再開予定日も4月20日まで先延ばしした(写真:トヨタ自動車

「こんなにも、世の中がガラッと変わることがあるのか」──。日本自動車工業会が3月19日に開いた定例会見。会長を務める豊田章男・トヨタ自動車社長は、冒頭のあいさつの中で、新型コロナウイルス感染拡大による社会の混乱をそう表現した。

中国から始まった感染は、今やヨーロッパ全域やアメリカ、東南アジアなど全世界レベルにまで拡大。各地で経済活動が停止し、日本の製造業を代表する自動車産業への影響も一段と深刻なものになってきた。

ヨーロッパではイタリアやフランス、スペインなどで感染者が急増。人の移動が制限されたことを受け、3月16日以降、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループなど主要な自動車メーカーが相次いで域内生産の一斉休止を発表した。

日本勢も追随し、トヨタはヨーロッパの主力生産拠点であるイギリスやフランスを含め、6カ国の工場の稼働を停止。ポルトガルを除き、再開時期は決まっていない。日産自動車やホンダ、スズキも完成車工場を休止した。

米自動車ビッグスリーも生産停止に

さらにアメリカでも感染の拡大を受け、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の米自動車ビッグスリーが3月18日、3月末まで生産を停止すると発表した。全米自動車労働組合の要請を受けた措置で、北米にある全工場の操業を止めた。

日系自動車メーカーも操業休止の意向を表明し、トヨタは部品生産拠点も含め、アメリカ、カナダ、メキシコの全14工場の生産を休止(当初の休止期間は3月23日から4月3日)。ホンダも北米にある全12工場の操業を停止した。日産やマツダ、SUBARUも追随し、北米にある日系自動車メーカーの工場はすべて操業が止まった。


その後、アメリカでの感染者数はさらに拡大。3月26日時点では8万5000人にまで拡大し、中国やイタリアを上回って世界で最多になった。FCAは同日、カナダとアメリカでの生産停止を4月14日まで延長すると発表。トヨタも同日、北米地域の生産停止を4月17日まで延長することを明らかにするなど、事態はますます深刻化しつつある。

自動車メーカーの生産が停止すれば、伴って進出している部品メーカーも同じように厳しい状況に置かれる。あるホンダ系部品メーカーでは北米やヨーロッパ、インドなど、日本と中国以外の大半の工場が止まった。同社幹部は「いきなり需要が蒸発した。海外売り上げがほとんど立たない中で、とくに生産規模が大きいアメリカは人件費など固定費の負担が非常に苦しい」と悲鳴を上げる。

ドル箱市場のアメリカで販売激減

日本の自動車産業にとって、アメリカ市場の混乱はとりわけ痛い。何しろ日本の自動車メーカー6社(三菱自動車を含む)は昨年、アメリカで計643万台もの新車を販売。ホンダと日産は世界販売台数に占める北米比率がいずれも3割を超える。SUBARUに至っては7割超だ。トヨタは比率としては3割を切るが、アメリカ市場でGM、フォードに次ぐシェアを誇り、現地販売台数は年間238万台に上る。


しかもアメリカでは、新車需要の7割以上を値の張るSUV(スポーツ用多目的車)やピックアップトラックが占め、1台当たりの平均単価が他地域よりも高い。台数、金額の両面において、アメリカは文字どおりの“ドル箱”市場なのだ。

しかし、外出の自粛要請などで新車販売店への客足は多くの地域でほぼ途絶えており、3月以降の販売激減は避けられない。韓国・現代自動車のグローバルCOO、ホセ・ムニョス氏は米紙のインタビューで、「3月の全米の新車販売は前年同月比で15〜20%減り、4月には同50%にまで落ちるだろう。新型コロナの影響が7〜8月まで続くことを最悪のシナリオとして想定している」と強い危機感を示した。

ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、新型コロナによる社会・経済の混乱で、アメリカの新車販売の冷え込みは長引く可能性があると指摘する。「トランプ政権が早期に混乱を収束できなければ、休業や失職によって、車のローンやリースを組めない人がこれから大量に出てくる」。

過去を振り返れば、金融機能がマヒした2008年のリーマンショック時にも、自動車産業は大きな打撃を被った。しかし、当時と今とでは状況がまるで違う。「当時は中国市場が世界を牽引し、グローバルではバランスが取れていた。今回は牽引役が期待できない」(豊田社長)。

リーマンショック時には世界需要を支えた中国だったが、今回は新型コロナの発生地として大混乱に陥り、いまだ非常事態モードが続く。中国政府の公式統計上は感染者拡大のピークを過ぎ、工場の操業再開などが進みつつある。だが、物流や人の移動には依然として厳しい制限がかかり、サプライチェーンの復旧は道半ばだ。

こうした状況下で自動車が売れるはずもなく、2月の中国内の新車販売は前年同月より8割近く落ち込んだ。3月に入って減少率は5割以下に縮まるなど改善傾向にはあるが、今年1年間でみれば大幅な前年割れが確実だ。世界最大の市場だけに日系自動車メーカーが被る打撃は大きい。

ただし、日本経済への影響度で言えば、アメリカ市場が崩れたことのほうが深刻である。日系自動車メーカーの中国事業は基本的に現地生産・現地販売なのに対し、アメリカで販売される日本車の3割弱は日本で生産して輸出しているからだ。昨年その台数は172万台に上った。国内生産台数のうち、スバルは5割、マツダは3割、トヨタと日産も2割超をアメリカに輸出しており、アメリカ市場の冷え込みは国内工場の操業度低下に直結する。

トヨタもついに国内減産に踏み切る

その懸念はすでに現実のものになった。トヨタは3月23日、新型コロナ感染拡大による海外販売不振に対応して、4月3日から最長で同15日まで愛知県の高岡工場、堤工場、田原工場など国内5工場の7ラインを対象に生産を一時停止すると発表した。

期間中の減産は3万6000台だが、生産委託先である日野自動車を除く4工場の2019年の生産実績は約160万台と、トヨタの国内生産の半分弱を占める。トヨタが海外での需要減少を理由に国内工場を停止するのはリーマンショック時以来のこと。従業員には特別休暇を付与し、給料も全額支払う。

停止期間は稼働日ベースで最短2日間だが、高級車ブランド「レクサス」を製造する子会社のトヨタ自動車九州の第1ラインは4月15日まで9日間休止する。レクサスは世界販売の4割をアメリカが占めるだけに、アメリカ市場の混乱が直撃した格好だ。

マツダも3月24日、国内の全2工場で生産調整を実施する計画を明らかにした。広島の本社工場と防府工場(山口県)において、3月28日から4月30日までのうち13日間は操業を休止するなどして、輸出車を中心に大幅な生産調整を行う。期間社員を含め、雇用を維持し、従業員には通常の給料の9割相当の休業手当を支払う。事務などの間接部門は業務を続ける。


広島にあるマツダの本社工場。マツダは国内の全2工場で4月末までに13日間操業を停止するなどして、生産調整を行う(記者撮影)

マツダの今回の停止期間は、2011年の東日本大震災(5日間)やリーマンショック時(10日間)を上回る異例の長さだ。帝国データバンク広島支店によると、マツダとそのグループ会社の製造部門の下請け企業(資本金3億円以下)は849社で、そのうち5割近くが広島県を中心とした中国地方に立地する。マツダの生産調整が長引けば、地域経済への影響も避けられない。

日産自動車も国内外の需要が低迷しているとして、国内の3工場で長期間減産することを決めた。海外向けブランド「インフィニティ」や国内向けの高級車を生産する栃木工場は4月6日〜5月1日のうちの14日間、小型車を生産する追浜工場(神奈川県)は4月3日〜5月1日のうちの4日間で生産を停止する。SUVなどを生産する子会社の日産自動車九州では、昼夜2交代勤務のうち、4月中の大半の日で夜勤での車両生産を取りやめる方針だ。

サプライチェーンの寸断も発生

新型コロナの影響で海外の部品生産に支障が生じ、国内工場が停まるケースも出ている。いわゆる“サプライチェーンの寸断“だ。ホンダは4輪車の狭山工場(埼玉県)で4月16〜17日の2日間、生産を停止する計画だ。今後の部品調達が滞る可能性が高まってきたことが原因という。三菱自動車も同様の理由で、軽自動車を生産する水島製作所(岡山県)の第1ラインの稼働を3月27日から4月10日まで停止することを決めた。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

自動車は裾野が広く、日本経済の屋台骨を支える産業でもある。国内で完成車や部品の製造に携わる従業員は約90万人。鉄やプラスチックなどの関連素材を含めると就業者数は約140万人に上る。

豊田社長はかねて「国内生産は石にかじりついてでも守る」と発言してきたが、それはあくまで平時での話だ。アメリカなど主要市場での需要減少やサプライチェーンの混乱が長引き、自動車メーカーの国内生産がストップする事態が続けば、その下請けや周辺産業を含めた国内の雇用にも大きな悪影響が及ぶ。