「年齢とともに手放すものがあってもいいのだと諦めることができるようになったのは、いいことだなって思います」(撮影:初沢亜利)

写真拡大

新型コロナウィルスの自粛要請で、本日千秋楽を迎えることになった『サンセット大通り』。主演(W主演)の安蘭けいさんにとっては、3度目の再演になる。4度目の受験で宝塚音楽学校に入学、首席で卒業するも、トップになるまで15年という長い道のりだった安蘭さん。不屈の精神はどのように育まれたのか? 宝塚歌劇団を卒業、女優として歩み始めて10年今、聞いた。(構成=内山靖子 撮影=初沢亜利)

【写真】天国と地獄を行き来していないと、生きている感じがしない

* * * * * * *

「もっと世の中のために」と思える年齢に

まもなく芸能生活30周年を迎える節目として、2019年6月に祖国の韓国でチャリティーコンサートを開きました。覚えていらっしゃる方も多いでしょうが、2001年に、東京・新大久保駅のホームから転落した日本人を助けようとして、韓国からの留学生、イ・スヒョンさんが亡くなりました。そのスヒョンさんの遺志を継いで設立された奨学会にチャリティーの収益金を贈って、韓国をはじめ、アジア諸国から日本に語学留学に来ている若い奨学生の方々を少しでも支援したいと考えたのです。

自分が韓国籍であることの意味と言いますか、「日本と韓国の架け橋として、私だからできることがあるんじゃないか」という思いは以前からずっと抱いていました。「お前なら、絶対できるはず」と、亡くなった在日二世の父にも常々言われていましたし。でも、いったいどうすれば自分が“架け橋”になれるのか、具体的な方法がなかなか見つからなくて……。

その思いが、念願かなって実現したのは、この奨学会との出会いがあったことに加え、私自身の年齢が関係しているのかもしれません。人生は、もちろん自分のためのものですが、「人のために、自分の仕事を役立てたい」という思いが、ここ数年、とみに強くなってきて。自分自身のことだけじゃなく、もっと周りを見なきゃいけない、世の中にも貢献したい、と思うようになってきたのです。

年齢を重ねたことで、女優としての意識も変わってきましたね。宝塚を退団した10年前は、まだまだ夢見る夢子ちゃん気分で(笑)、「清純なヒロイン役が来たら、どうしよう?」なんて能天気に構えていたことも。

でも、もはや今の私には、『ファントム』のクリスティーヌのような若くて未来を見つめているヒロイン役は絶対に来ない。そんな現実も受け入れられるようになり、今の自分にオファーがあるならこういう役だなということも自ずとわかってきました。

もちろん、常に見られている仕事ですから、いつまでもきれいでいたいとは思っています。そのために、週に2回は筋トレに通い、女性らしいしなやかなボディラインを保つためのトレーニングを。冷えを防ぐために、足首を常に温めるようにしたりもしています。

でも、シワが1本できたからといって、もはや「消さなきゃ!」とは焦らない。「シワができたなら、できたなりにきれいでいよう」って。正直な話、トシをとってよかったと感じることはひとつもないけれど(笑)、無理に年齢に抗う必要はない。年齢とともに手放すものがあってもいいのだと諦めることができるようになったのは、いいことだなって思います。

そういう意味では、この3月に3度目の舞台を踏む『サンセット大通り』のノーマ・デズモンドは、今の私にピッタリの役。ノーマはかつての栄光にすがっているハリウッドの元大女優で、劇中では50歳という設定。私も今年同じ年齢になるので、リアル・ノーマになっちゃう(笑)。

トップの座からどん底まで落ちてしまったけれど、もう一度上を目指したいと野心満々の彼女の心境も、同じ女優としてよくわかります。ちょっぴり背伸びをしていた8年前の初演よりも、今のほうがきっと違和感なく、みなさんにも観ていただけるはず。年齢を重ねれば重ねるほど、いい味のノーマが演じられそうなので、今回の舞台もとても楽しみです。

天国と地獄を行き来して

とはいえ、性格的な面では、若い頃とぜんぜん変わってないですね。ヘンに頑固なところとか(笑)。団体生活が大の苦手なので、宝塚時代も「寮に入るのは絶対にイヤ!」と、ずっと一人暮らしをしていました。

負けず嫌いなところもまったく変わっていません。3回落ちて、4度目の正直で受かった宝塚音楽学校の入学試験も、先に受かった人たちに負けたくなくて、半ば意地になって受け続けていました。さすがに、3度も落ちたときは、もう諦めようと思ったんですよ。もし4度目も落ちたら、どんだけ自分がヘコむんだろうって。

でも、そのときに「もう1回チャンスがあるのに、そこに賭けなくてどうする?」って父から言われて。「今まで3回やってきたんだから、あと1回なんて簡単だ」って。

在日二世として、苦労して財を成した父はワンマンで、とても厳しい人でした。そんな父に対して私は常に反抗的で、そのときも「受けろ!」「いや、受けない!」って、ものすごく抵抗したんですよ。それでもやっぱり諦めたくないという思いで4度目の受験を。受かったからよかったものの、もし落ちてたら、どれだけ父を恨んだことか。(笑)

宝塚に入団してから、15年間トップになれなかったときもそうですね。ずっと二番手に甘んじていたので、「もうやめよう」と思ったことも何回もありました。あるとき、今度こそやめようと思って、当時、親しくしていた下級生をご飯に誘い、その場で打ち明けようとしたんです。

なのに、「実は私、次でやめるんです」って彼女のほうから先に切り出されてしまって。しかも、やめるという彼女の決意の固さが私よりはるかに上だった。それに比べたら、こんな生半可な思いで自分がやめることはできないと、それで思いとどまることにしたんです。

でも、そこでまた私の負けず嫌いな性格が頭をもたげて、「トップになれないなら、劇団にとって値打ちのある役者になろう」「『こういう役を安蘭にやらせたい』と劇団が思うような役者になってやろう」と、トップを目指すことを一度諦めて、自分の中でシフトを変えたんです。そうしたら、なぜかトップ就任の話がやってきて。不思議ですよねぇ。

振り返ってみると、何に対しても自分の思いがあまりにも強すぎるのかもしれません。車で言えば、常にトップギアに入れてグワーッと突っ走っているので、もう少しニュートラルでいればいいのかなって。

ただ、この年齢になったことで、少し大人の余裕が生まれたといいますか。以前は、良くも悪くも大波が次々と押し寄せる日々だったのが、このところ穏やかなさざ波になってきている。ただ、時折、そういう自分が自分じゃないような気もするんですよ。

穏やかな波が続くと退屈になっちゃって、自分を痛めつけたくなってくる。天国と地獄を行き来していないと、生きている感じがしない(笑)。占いによれば、私には波瀾の星がついているそうなので、常に新しいことにチャレンジしたいと思うのは仕方ないことなのかもしれません。

同じ状態が続くと環境を変えたくなる

何か新しいことをしたくなったとき、私にとって一番手っ取り早い方法が引っ越しです。宝塚を退団後、東京に来てから10年の間に引っ越ししたのは3回。4軒目の住まいである今の家も、すでに引っ越ししたくてウズウズしています。ただ、猫を飼ってしまったので、ペット可でいい物件がなかなか見つからなくて。引っ越しできないなら、いっそ家具を全部取りかえちゃおうかと思っているところなんですよ。

私の性格上、ある一定の期間、同じ状態が続くと、環境をガラッと変えたくなるんですね。ロングだった髪をいきなりショートにしたりとか。じゃないと、ダムのように、自分の中にどんどん水が貯まってしまい、あるときダムが決壊し、自分が爆発してしまう。そうならないよう意識的に環境を変えてダムの水を放流するんです。チョロチョロじゃダメ。一気に放流しないと。

実際、引っ越すのは面倒ですが、何もかも断捨離できるのでスカッとします。毎回、同じ業者の方に頼んでいるので、「どんだけゴミが出るんや! 今回も、ゴミ用のトラックを用意しとかなきゃアカン」って呆れられるほど。なのに、新しい家に移ると、家具も服もまたどんどん買い込んじゃう(笑)。

少しでも隙間があると、そこに何かを入れたくなるので、必要もないのにラグジュアリーな椅子を買ってしまったり。一見断捨離、結局、ずっとモノがあり続ける暮らしです。アンティークショップをのぞくのが好きなんですけど、また何か買いそうで怖いから、なるべく行かないようにしています。

でもね、人間だけは違うんです。友達は、長年、慣れ親しんだ人じゃないと本音でつきあえない。宝塚を卒業して以来、「新しい友達って何人増えたかな?」っていうくらい。こんな性格なので、結婚もご縁があればですけど、実は今、最高にモテ期なんですよ。うちで飼っているロシアンブルーのオス猫「てん」と「くう」が私にベッタリで(笑)。これからも猫たちと楽しく暮らせれば、それでいいかなって。

この先、どんな未来が待っているかはわかりませんが、安蘭けいは安蘭けいでしかない。波瀾の星と共に、女優としても、一人の女性としても、私にしか歩めない道を歩んでいきたいと思っています。