コロナで休校! 母親たちの本音は?

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〈母親たちの非常事態宣言〉くればやし・ひろあき

 中国武漢から始まり、今や世界中を巻き込んだコロナウイルスの狂騒。日本では一斉休校を要請する首相の鶴の一声で、突然やってきた「異例の春休み」。本来の終業時期を目前にして萩生田文科相から原則再開が宣言されましたが、文科相の調査によればこれまでに、公立小中学校と高等学校の99%で休校措置が取られたとのことでした。

 インターネットのニュース記事では、休校措置直後に「働くお母さんはどうするのか?」といった批判的な声が多数見受けられました。では実際、どんな影響が出ていたのでしょうか。

 母親たちの悩みに日々寄りそうことを仕事にしている僕のスマホには、多数の「お母さん」のメールアドレスがあります。休校状態が日常になったころ、彼女たちの状況を取材しようと、片っ端からメールを送りつけました。当然、「困っているお母さん」の存在が浮き彫りになると考えたのです。ところが、取材を重ねるうちに見えてきたのは、意外な実態でした。

コロナで休校! 母親たちの本音は?

一斉休校措置で困っているお母さんを探せ!

 まずは、岐阜にお住まいの看護師さん。介護福祉施設にお勤めの2男1女のお母さんです。

「ウチは小学校に隣接された学童保育で預かってもらえるから困ってないんだよね。保育園もあるから下の子も大丈夫。仕事にはいつもと変わらず朝から行ってるのよ」

 とあっさりしたお返事。

 周りで困っている母親がいないか尋ねたのですが、

「祖父母に預かってもらっている人もいるし、自宅でお留守番をしている子もいるかな。ウチもいざとなったら兄弟がいるからお留守番をさせても平気。それに、お姉ちゃんには子供用の携帯電話を持たせているから、何かあれば連絡あるし」

 とのことで、特に困っていることはなさそうです。

 兄弟姉妹がいるとお留守番ができてしまうようです。では一人っ子は?

 次は静岡にお住まいの小学生の一人息子を持つ働くお母さん。きっと一人では留守番させられないはずです。

「最初の1週間だけお留守番をさせたの」

 なんだ、案外みんなお留守番させてるんですね。

「お昼のお弁当だけ作っておいたんだけど、友達の家に遊びに行きっぱなしで快適な春休みを過ごしてるみたい。最近は母が泊まりに来てくれるようになったので任せてます。ちょうど父の仕事がコロナの影響で週1日になっちゃって。それで、お母さんも思い切って家を空けられるって喜んでたよ」

 仕事をしている旦那様の身の回りのお世話をしていたお母様。「仕事がないなら、自分のことは自分でやりなさい」とばかりに、今はお孫さんのお世話を焼くことに一生懸命なんだとか。

「職場で一緒に勤務されている方で困っている人はいないの?」と尋ねると、「保育園がやっているからスタッフで休んでる人はいないなぁ」とのことでした。

 学校が休校措置になった後も、保育園や学童保育は活動を継続してくださっていました。「学校が休校になったのに!」と否定的な意見もあるようですが、共働きの子育て世帯の生活を守るためにがんばってくださったわけです。しかし感染拡大の影響で北海道や千葉などではこれらの施設が臨時に閉所されたとのニュースもありました。

 そこで千葉に住むお母さんにお話を伺いましたら、

「ウチの子、発達障害を抱えているから療育が必要なのだけど、療育施設は普通に受け入れてくれていますよ」

 とのこと。母親たちと子供たちの日々の営みを瀬戸際で守ってくれている人がいるのだなと思いました。

 それでも「いや、きっと困っている人はいるはず」と思い込みを増長させてスマホの電話帳をスクロールさせておりましたら見つけました。中1、小4、保育園児の男の子3人を育てるお母さん。小学4年生なら学童保育の対象外。男の子3人の子育てなんて、いかにも大変そう。そのうえフルタイムでお勤めとのこと。父母も義父母も近くにいない。これならきっと困っているはず。泣き言を聞いてあげるのが僕の役目です。

「ウチは旦那が夜勤だから、昼間は子供たちにご飯作ってくれてるの。私の仕事が終わるの18時ぐらいだから、夕方だけはお留守番かなぁ」

 実は、この取材中唯一、休校対策で実働する「お父さん」が登場したご家庭でした。「休校期間中、子供のことどうしてるの?」の問いの答えに、このご家庭以外は父親の影はなし。困っているお母さんの声を聞こうとした今回の取材ですが、「結局、子供のことはお母さん」という「ああ、な」な風潮の再確認をすることになりました。

シングルマザーと濃厚接触者

「母親たちの非常事態宣言」というタイトルにしたのに、非常事態のお母さんを見つけるのは、なかなか難しい。そうだ、シングルマザーはどうだろう。

 連絡がついたのは、中1と小4の娘を育てるシングルマザーの保育士さんです。

「下の子は仕事に行く途中で実家に寄って母に預けてます。でも、家にいるのも飽きちゃったみたいで、今は友人とお互いの家を行ったり来たりして楽しんでいるみたい。中学生のお姉ちゃんもいるし、不安はないかな」

「困ってないの?」

「困ってない!」

 そう断言されて、勝手にションボリ。それでも、ともう1人、保育園児と小4を持つシングルマザーへ。

「下の子は保育園が変わらずあるから問題ないよ」

 うん、それはわかっています。問題は上の子です。上の子は困るでしょ?

「う〜ん、それが困ってないのよ。小学校のお友達が遊びに来る日はお留守番させてる。祖母が近くに住んでるから、それもあって心配はしてないかな。あと緊急事態のときは職場に連れてっちゃうし」 

 僕が拍子抜けしていると感じたのか、彼女はこんなヒントをくれました。

「保育園や学童保育がやっててくれるから、夏休みと同じなんだよね。働くお母さんはそんなに困ってないんじゃない? 困っているのは専業主婦かもね……」

 確かに、それはあるかもしれません。夏休みを「地獄」と表現していた専業主婦の皆さまもいらっしゃいましたし。

 ところで、次々にメールを送っているうちに、介護福祉施設にお勤めのお母さんから

「ウチの施設、コロナが出ちゃって。私、濃厚接触者なんです」

というお返事をいただきました。

 コロナウイルスって実際に感染した人にはそうそう出会えません。正直、どうも実感を伴わないとも感じていましたが、初めて「濃厚接触者」との遭遇。違う意味で「困っている人」だなと思い、あれこれと話を聞きました。

「誰かに話したいけれど、偏見を持たれると思うと気軽に話せることでもないし。話せて少し落ち着きました」

 偏見や差別を生みやすい昨今の情勢。他人には打ち明けづらいですよね。なるほど、感染した方や濃厚接触者に出会わないのは、そんな理由もあるのかもしれません。

「今、保健所の観察対象になっていて自宅待機中なんです。私も子供たちも絶賛引きこもり中で。来週からは仕事も再開するので、子供たちは学童ですね」

 気丈に振る舞う彼女でしたが最後にポツリ、

「自分が感染しなかったのは何よりだったけど、数名亡くなられてしまったんですよね……。さすがに悲しみに暮れました」

専業主婦たちの苦悩

 働いている母親たちから「困っているお母さん」を見つけることを断念した僕は、専業主婦に絞ってコロナ騒動と戦う現場の声を探ろうと考えました。 

 そんな折、つながったのは、学校がない子供たちの一日の過ごさせ方に四苦八苦しているお母さんたちのために立ち上がった一人の女性。2人の子供を育てる聖子さんは、自身が運営するレンタルスペースを拠点に、子供たちを預かる取り組みを始めました。

 これまでの取材を通して、保育園や学童保育など十分に支援が行き届いているように感じていた僕をたしなめるように、彼女は口を開きました。

「ウチの市の公立の小中学校は自由登校なのだけど、校舎を開放してくれるだけなのね。おしゃべりは禁止。先生は特に何かをするわけでもないから自分たちで勉強の用意を持っていって静かに過ごすの。それじゃ子供たちも飽きてしまうでしょ? だから、学校に行きたがらなくて親も困ってるみたい」

 なるほど。確かに一日中座らされて自習では、大人だって息が詰まりそうです。

「それにね、例えば下の子に障害のあるご兄弟がいてね。上の子を受け入れ可能な施設では下の子はダメ。下の子を受け入れ可能な施設では上の子がダメ。お母さんは身体が一つだから連れていけない。そんなこともあるのよ」

 彼女は何も行政を批判したいわけではありません。行政のやることには限界があるのです。どうしても手の届かないところがあるのも事実です。

「だからこそ、私たちみたいな人間がその穴を埋めていってあげることって重要だと思うの」

 彼女の活動は、仕事で止むを得ず子供の面倒を見ることができないお母さんに手を差し伸べるためにスタートしたのですが、始めてみるとどうも様子が異なりました。利用する人は専業主婦が多いのだそうです。

「専業主婦なら子供を預ける必要あるの?」――そんなご意見もあるかと思いましたので、さらに根掘り葉掘り聞いてみることにしました。

「お母さんにだって生活リズムがあり、マイルールがある。子供が家にいると、それが全部覆されるのよ。そういう気持ちって男性にはわからないかもしれない」

 はい、なんかごめんなさい。全国のお父さんを代表して謝ります。

「子供たちに自分の船のオールを奪われてしまう感じ。その点、働くお母さんは自分のオールは自分で握ってる。そこが大きな違いよね」

 一人だったら手抜きでよかったお昼ごはんも、子供がいるとそれなりのものを作らねばなりません。お買い物だって、サッとコートを羽織れば出かけられた一人っきりのお買い物も、子連れとなると出発までに2倍も3倍も時間がかかります。

 さらに時と場所にお構いなく「のどが渇いた」だの「トイレに行きたい」だの。子供にペースを完全に奪われてしまいます。しかも専業主婦だからこそ、これが四六時中続くわけです。

「もう、お母さんたちね、いっぱいいっぱいなのよ」

 ここでようやくたどり着いた「母親たちの非常事態宣言」でした。

失われた「地域で子育て」の風景

 聖子さんの子育て支援の取り組みは、小学生は子供だけでも参加できるのですが、未就学児には大人1人の付き添いが必要です。大人の目を増やそうという試みなのですが、中にはただ子供を預けるだけではなく、運営自体を「手伝わせてください」というお母さんたちも現れ始めているのだそう。

 これは一体どういうことなのでしょうか。

 実はお母さんたち、決して子供と過ごすのが嫌で子供を預けているわけではないのです。

 例えば兄が「サッカーをしたい」と言い、妹は「ブランコがしたい」と言う。子供たちは折り合いをつけることが苦手であり、自分の主張を押し通す生き物です。でも、お母さんの身体は一つ。こんなことで困った経験は、どこのご家庭にもあるのではないでしょうか。 

「1人の大人で子供2人の遊び相手になるのは大変なのよ。でも、5人の母親で20人の子供を見るのは案外難しいことじゃないの」

 現代では難しいと思われた「みんなで子育て」がここにありました。マスクの転売騒ぎやトイレットペーパーの買い占め、イベントの自粛、経済活動の先行き不安など、私たちの生活に負の影響を与えた新型コロナウイルス。その影響の休校措置で、子供を取り巻く現場での新たな可能性を感じることができました。

 テレワークなど新しい働き方により、家族で過ごす時間が増えたという声も聞きます。「ピンチをチャンスに」などと申しますが、母親たちの抜群の連携とたくましさはこの未曾有の危機を乗り越える原動力となっているのかもしれません。

 レンタルスペースの前には、小規模な公園があります。そこを元気いっぱいに走り回る子供たちの姿を見つめるのが好きという聖子さん。

「なんかさ、私たちが子供だった頃みたいな感じかな。この取り組みが始まって、地域の人みんなで育ててる感じがするんだよね」という言葉が印象的でした。僕らがまだ幼かった頃、近所にカミナリ親父や口うるさいおばさんがいて、悪さをすれば叱ってくれる赤の他人は普通でした。放課後には自然と公園に人が集まり、複数の大人の目がありました。地域社会みんなに見守られながら、子供が子供らしく生きられるのは、理想の子育て環境だと思います。

 宿題もなく習い事もなかった今回の休校。もしかしたら子供たちは最も「子供らしい生活」を楽しんだかもしれません。我が子たちもお昼ごはんを食べると、公園に行ったきり帰ってきません。いつもならゲーム三昧の子供たちも、異例の長い休みで、どうやら家で過ごすことに飽き飽きしている模様。

 桜の花がほころび始めた公園で、元気いっぱい汗だくになって遊ぶ子供たち。きっとコロナウイルスに負けない免疫力が育まれていることでしょう。

 心配なのは、ほとんど登場しなかった「お父さん」の存在。この非常事態、お父さんにとってはせっかくの活躍チャンスだったのにと思いました。

くればやし ひろあき1978年生まれ。「子育てしつもんコンシェルジュ」。2001年、愛知学院大学卒業後、公立中学校教諭。2012年には文部科学省派遣教員として上海日本人学校浦東校赴任。2015年帰国後、教諭を続ける傍らブログ、メールマガジン配信を開始、2017年にはフリーランスの教育者として独立する。お母さんが主役の「子育て万博」開催や、全国で講演・講座活動をする。

デイリー新潮編集部

2020年3月27日 掲載