2020年2月の決算発表での三木谷浩史代表取締役会長兼社長(写真:つのだよしお/アフロ)

「まるで農園領主の分割統治だ。出店業者を賛成派と反対派に分けて争わせている」――。

楽天が運営するECサイト「楽天市場」に出店する、東京の雑貨店の男性は楽天の送料一律無料化への不満をぶちまけた。この男性は、希望しない店舗などを除いて3月18日から始まった送料無料化に合わせて、数万点もある在庫商品の値段設定を調整するため、忙殺されたという。

「人手も商品管理の知識もある店舗はいいのかもしれませんが、人手不足のうちなんて休日返上で大変でしたよ」

現時点では、店舗側に送料を無料にするかどうかの選択権がある。とはいえ、楽天は一律無料化実施の姿勢を崩しておらず、それに反対する店舗との対立は収まっていない。

送料一律無料化が公取巻き込む騒動に

楽天が、約5万店舗に及ぶとされる出店業者に1回の合計購入金額が税込3980円以上の場合、送料一律無料化を求めたのは2019年1月のことだった。世界最大のECサイト、アマゾンに対抗する必要性を打ち出したが、出店業者側の一部は送料分が店側の負担になるとして反対。

彼らは昨年9月に任意団体「楽天ユニオン」を結成し、今年1月に送料一律無料化が独占禁止法の「優越的地位の濫用」にあたるとして、公正取引委員会に調査を依頼した。公取側もこれに反応し、2月10日に楽天に立ち入り調査をかけている。

それでも楽天側が3月18日に送料一律無料化を強行する姿勢を見せたため、2月28日に公取側が東京地裁に対し、送料一律無料化に対する緊急停止命令を申し立てた。その後、楽天に賛成する優良店舗からなる任意団体「楽天 友の会」が会見を開き、送料一律無料化の必要性を訴えた。

この直後、楽天側は「新型コロナウイルスの感染拡大による人手不足で店舗の送料無料化への対応が遅れる可能性がある」として送料一律無料化を延期し、5月に改めて方針を打ち出すとした。これを受け、公取も3月10日に申し立てを取り下げ、事態はいったん落ち着きを見せている。

今回の送料一律無料化をめぐり、一般消費者の関心を引いたのは、楽天への賛成派、反対派の対立構図がわかりやすかったことだろう。取材や会見で見えたそれぞれの意見はこうだ。

まず、公取側に意見を申し入れた反対派の楽天ユニオンが3月10日に開いた会見の内容を見てみよう。ユニオンによると、楽天はこれまでも違反点数制度などをはじめ規約変更を多く実施してきており、出店者に対する姿勢に問題がある。

さらに、今回の送料一律無料化の延期も楽天側に申請しない限り無料化が実施されるシステムのため、基本的な強行姿勢に変化はなく、5月に打ち出される方針で改めて一律実施を要求してくると警戒しているという。会見ではユニオン代表の勝又勇輝氏が楽天側から商品画像についての嫌がらせを受けたことも明らかにした。

冒頭の雑貨店を経営する男性はユニオンに加盟している。

「売上高の7割を楽天市場に依存していて今さら抜けるに抜けられない。システム利用料などの名目で楽天は何をするにも金がかかるんですよ。これはアマゾンなど、ほかのプラットフォーマーよりもひどい」と悲痛な叫びをあげる。

賛成派「経営努力で何とかなる」

続いて、賛成派の「楽天市場出店者 友の会」は名前からして楽天寄りの団体だ。

3月5日の会見によると、今回の騒動で楽天市場全体のイメージが悪化しているので、それを防ぐために結成したといい、楽天ユニオンがすべての店舗を代表するものではないこともアピールしたかったのだという。友の会の加盟社は楽天市場での受賞歴があるなど優良店舗が中心で、不満を持っているとは考えづらい。実際、今回の送料無料化にしても経営努力で何とかできる余裕があるのだろう。

友の会は2月末にメンバーで三木谷浩史社長とのテレビ会議を持ったといい、関係の近さがうかがえる。彼らが、新型コロナウイルスの感染拡大による人手不足を理由に一律無料化の延期を訴え、楽天が従ったというタイミングと相まって「公取に緊急停止命令を取り下げさせるための口実として“シンパ”を利用した」と言われてしまうのも無理はない。

このように賛成派、反対派をめぐって真っ向から意見が対立した送料一律無料化問題だが、筆者は今後の公取の出方に注目したい。

そもそも、楽天の送料一律無料化はアマゾンとの対抗策として打ち出されたものだった。楽天は2019年1〜12月期連結決算の売上高が1兆2639億円。そのうち楽天市場などのインターネットサービスセグメントは約6割を占める。

対するアマゾン日本法人は1兆7440億円(2019年の平均為替レート1ドル=109円で換算)とすでに大きな差が開いている。アマゾンの世界全体での売上高は30兆5745億円で、ここからすれば日本事業はたったの6%程度にすぎないにもかかわらずだ。

「世界中がアマゾンの箱で埋め尽くされる」という三木谷氏の問題意識も正しい。楽天との力の差が歴然としているわけで、どうやってしぶとく生き残っていくかを考えざるをえないからだ。

そういう意味では、送料無料化というわかりやすさを打ち出すことについてこれない「弱い」出店者を切って、優良な出店者だけでやっていきたいという三木谷氏の狙いは理解はできる。

ただ、拙速すぎる点もいくつかあった。ユニオンの言い分にもあるように、規約を突然変更し、出店者側の負担が増すことをなかば押し付けたこと。「送料無料ライン」という施策の呼称を公取対策もあり「送料込みライン」と言いかえても後の祭りだったこと。これでは、支持を十全に得られない。

公取がどのような判断を下すのか

楽天は5月に改めて方針を打ち出す見込みだ。ここで公取が強く規制する姿勢を見せれば、ただでさえ対アマゾンで“弱者”の楽天には打撃となり、EC市場での地位はますます低下する。近年は欧州を皮切りにGAFA規制の動きが強まっているが、公取が身を乗り出すほど、国内企業として成長途上の楽天のような「弱者」を結果的にたたくことになりかねない。

楽天ユニオンは年内をメドに、楽天だけでなくアマゾンやヤフーなどほかのプラットフォーマーも対象とした出店者による協同組合を立ち上げるとしている。公取の判断いかんによっては、プラットフォーマー側が規約変更することは出店者の完全な同意がなければ不可能になるという懸念もある。どこまで踏みこんだ判断を公取がするのか注目だ。

近代までの領主による分割統治の狙いは被支配者同士を争わせ、矛先が統治者に向かないようにすることにあった。ただ領主であったはずの楽天も、公取やアマゾンなどと戦っていかなければならない状況に追い詰められている。

三木谷氏が何が何でも実施すると意気込んでいた送料無料化。ここでつまずいてしまった楽天は難しい判断を迫られている。