北朝鮮の3代続く独裁者は欲望が抑えられない。新型コロナウイルスはその欲望が大好物だ


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「自分の命」が惜しい金正恩

 フランス国王ルイ14世が宣言した「朕は国家なり」という言葉は、絶対主義王制を象徴するものとして知られる。

 ルイ14世は最高国務会議、顧問会議を主宰し、国内のいかなる独立的権力も容認せず、行政、統帥、外交の全権、さらには高等法院を自己の権威のもとに屈服させた。

 北朝鮮の金王朝もブルボン王朝と同じで、金正恩氏自身が北朝鮮の体制そのものなのである。

 北朝鮮の体制そのものである金正恩氏は

.ーデターや暴動などによって「王位」を奪われること(それは「死」を意味する)

暗殺や新型コロナウイルスなどの疾病など「命」を奪われること

 を恐れているに違いない。彼が最も恐れるのは「王位」よりも「命」の方であろう。金正恩氏の「命」は「公的な命」でもあり彼個人の「プライベートな命」でもある。

 金正恩氏は中国やロシアとつながる航空便や鉄道の運行を停止し、韓国との交流窓口である開城(ケソン)の連絡事務所まで一時閉鎖し、新型コロナウイルスの流入に厳戒態勢を敷いた。

 北朝鮮当局が過剰とも思われる対策を取って「一人の犠牲者も出すな」などと呼びかけるのは2つの目的があるのではないか。

 第1は、飢餓状態で免疫力の落ちた「人民の命」の犠牲を最小限にすること。

 第2には、金正恩氏の「プライベートな命」そのものを守ることである。

 その優先順位は当然のことながら「人民の命」よりも金正恩氏の「プライベートな命」の方がはるかに重要なのである。

 それは、父の金正日が祖父・金日成の死亡直後の混乱期に、自らの王位継承を優先し、300万人とも言われる人民を餓死させた事実が何よりの証拠ではないか。

 2月1日付の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は社説で「人民の生命安全をしっかり守るのは朝鮮労働党と国家の最優先の重大事である。(中略)我が国ではたった一人の被害者も出ないようにして、人民の生命の安全が最優先される体制が整っている」などと強調しているが、これは完全な欺瞞だと筆者は思う。

 人間にとって最も大事なのは命である。歴史を見れば分かる通り、独裁者が最後に願うのは「不老長寿」だ。

 金日成も例外ではなく、この悲願達成のため1976年に『基礎医学研究所』(金日成長寿研究所)を設立し、全国から優秀な人材を集め、金に糸目をつけない奇妙な健康法に明け暮れた。

 金正恩氏はまだ若いが、長寿(命)についてのこだわりは祖父と変わるところはないだろう。

究極のセキュリティは粛清

 金正恩氏のみならず、金王朝3代にわたって、「王様」の命を守ることには病的・偏執狂的なほどの執念を見せた。

 金王朝を支えるのは軍であるが、特別に「王様」の身辺警護や首都である平壌直轄市の防衛を主管するために護衛司令部(兵力は9万5000〜12万人)と呼ばれる親衛隊組織を設けている。

 また、軍内にはクーデターの陰謀を監視するために総政治局を置いているほか、国家保衛省(秘密警察・情報機関)が津々浦々に配備した監視網で、全人民を対象に目を光らせている。

 それに加え、金王朝3代は、影武者までも使っていると言われる。

 金王朝3代は、自分に弓を引く可能性がある者は容赦なく粛清してきた。それゆえ「粛清の王朝」とまで言われている。

 金正恩氏の場合は、叔母・金敬姫の夫で権力の後見人でもあった張成沢氏を国家転覆陰謀のかどで粛正した(2013年12月)のに続き、腹違いの兄・金正男氏をマレーシアのクアラルンプール国際空港で顔面に神経剤「VX」を塗布して殺害させた(2017年2月)。

北朝鮮の世襲制度の弱点

 北朝鮮3代で、「王位」の継承は「白頭山の血筋」を引く男子が世襲することが定着した。

 世襲の弱点は血脈であろう。

 金正恩氏の子供たちは3人で第1子は男児と言われる。金正恩氏が結婚したのは2009年であり、長男は10歳以下であろう。

 この歳では後継は困難であろう。金正恩氏が何らかの原因で死ねば、その後継の様子は、豊臣秀吉と秀頼の関係(年齢差)に似ていて、北朝鮮の独裁体制は極めて不安定で危ういものになるだろう。

 筆者は、そのような事情から、「金正恩氏は重用している妹の金与正氏に過渡的な中継ぎの『女帝』にしようとしているのではないか」という仮説を立てた。

 兄の金正哲氏や伯父の金平一氏などよりも信頼できる。加えて、与正氏は結婚しておらず、子供もいない(これには異論もあるようだが、「与正氏の結婚と子供の有無」を示す信頼性の高い情報は見当たらない)。

 いずれにせよ、現在の北朝鮮の独裁体制を存続させるうえで、金正恩氏の「生命を維持・保全すること」は、死活的に重要な問題なのである。

斬首作戦やドローンより怖いウイルス

 上述のように、金正恩氏の命を守るためのセキュリティ体制は万全のように見える。

 軍によるクーデターや人民の暴動はもとより、米韓軍の斬首作戦やドローン攻撃に対しても金正恩氏は対処できる。

 金正恩氏が、地下100メートル以上の岩盤の中に建設された防空壕に潜り込めば 、米空軍の核弾頭型バンカーバスター(地中貫通爆弾)でさえも通用しない可能性がある。

 しかし、新型コロナウィルスにだけは万全とは言えない。なぜか。

 それは、新型コロナウイルが人から人へと感染するからだ。

 金正恩氏が地下壕に隠れて一人だけで自活するのは絶対に不可能だ。ボディーガードも、美人秘書も、料理人も付いてくる。

 限りない贅を尽くす金正恩氏の私生活は夥しい人によって支えられているのだ。

 新型コロナウイルスは“必殺仕事人”のように、核弾頭型バンカーバスターでさえも到達できない地下壕の中に潜む金正恩氏を、人から人へと伝って正恩氏に感染し殺すことができるのだ。

 新型コロナウイルスに感染すると、高齢者で糖尿病、高血圧、心血管疾患などの根本的な医学的併存疾患がある場合は重症化しやすく最悪死に至ると言われる。

 金正恩氏もそのタイプに該当するのではないか。金正恩氏の激太り(130キロ?)の外見を見るだけで、糖尿病・腎臓病説が出回るのが頷ける。

 金正恩氏は1日に3箱のタバコを吸うほどのヘビースモーカーでもある。年齢は36歳だが、健康年齢は高齢者に相当するものと思われる。

 金正恩氏自身も、「自分は新型コロナウイルスには危ない」と自覚しているはずだ。

 いかに、鉄壁のセキュリティ体制で守られていようと、新型コロナウイルスの接近・感染は万全とは言えず、戦々恐々の日々を送る金正恩氏にとっては、心配とストレスの種がまた一つ増えた。

 濃厚接触を我慢できるか

 祖父・金日成と父・金正日は女性との“濃厚接触”が格別好きだった。

 祖父の金日成は精力絶倫で、晩年には金正日の長男・正男と同い年の金賢(キム・ヒョン)という隠し子を直属の看護婦に産ませている。

 還暦を迎えた金日成と30代の息子・金正日が同じ時期に親子で“不倫”をしていたというわけだ。

 父・金正日の女性関係は、異常かつ複雑で、正室といえる金英淑のほか同棲した女性だけでも8人に上る。

 そのほか関係した女性は数え切れないほどで、万寿台芸術団の舞踏家、曲芸組、女優、官邸担当看護婦、執務室のタイピストなどを欲望の赴くままに“濃厚接触”を繰り返した。

 また、スウェーデンやドイツなど外国から金髪美女を呼び寄せ、“濃厚接触”を持つほどだった。

 さらには、金正日は街に繰り出し平壌女子高や高等師範の女学生を林道に連れ込んで“濃厚接触”することまでやってのけた。

 金正日は、道徳など全く持たず、自分の好みの女性を見つければ、人の女房・恋人であろうと奪い取る略奪婚・愛の常習者だった。

 金正日は、駐チュニジア大使の妻に言い寄り、不倫を遂げた。

 また、金正日は「ポイ捨て名人」で、弄んだ女性を次々に取り替え、「お手付き」の女性は保衛総局の将校や国家功労者に「払い下げ」られた。

 祖父・父と続く“濃厚接触” 嗜好のDNAを持つ金正恩氏はそれを我慢できるだろうか。

 金正恩氏の周りの女性はもとより、専属の運転手・看護婦や「同じ空気を吸う可能性のある」秘書などの健康管理は、異常なレベルで行われているのは間違いなかろう。

 そのことが一つの波乱・不安定要因となって、金正恩氏の身辺で激変を引き起こす引き金にもなりかねない。

金正恩感染で何が起きるか

 医療崩壊に瀕するイタリアの医師の悲痛な叫びの中で、「すべての人工呼吸器は黄金に変わる」と証言している。

 治療薬が開発されていない中で、最後の頼りは人工呼吸器なのだ。金正恩氏専用の烽火(ボンファ)診療所に人工呼吸器はあるのだろうか。

 北朝鮮は、新型コロナウイルスに効果があると言われるゾフルーザ、アビガン、カレトラ、レムデシビル、オルベスコ(シクレソニド)などを、八方手を尽くして金正恩氏のために入手しているかもしれない。臨床試験も済んでいないのに。

 1987年、軍の最長老の呉振宇が交通事故で瀕死の重傷を負った際は、金正日は呉をモスクワまで空輸し助命した。

 もちろん、軍を慰撫し後継争いに勝つためだった。

 金正恩氏が新型コロナウイルスに感染すれば、北京、モスクワ、パリなどに移送するか医療専門家チームを招聘することはできるが、治療薬もないままに外国に頼っても詮無いことだ。また、秘密を守るのが難しいだろう。

人民の命は鴻毛よりも軽い

 1977年、日本赤軍が日航機をハイジャックした際に、当時の福田赳夫首相は「人の命は地球より重い」と言った。

 一方で、中国前漢時代の歴史家の司馬遷は、「死(命)は鴻毛(おおとりの羽根)より軽し」と言った。

 北朝鮮においては「金正恩氏の命は地球より重いが、人民の命は鴻毛よりも軽い」というのが現実なのだろう。

 今回の新型コロナウイルスの出現により、そのことが一層はっきりと示されるだろう。

 北朝鮮では一切秘密にされているが、新型コロナウイルスが伝播・拡大しているのは間違いないことだろう。

 飢餓に陥っている数百万以上の人民の命は鴻毛のように扱われる一方で、金正恩の命を守るためには、国を挙げて新型コロナウイルスに対する厳戒態勢をとっているというわけだ。

 そのような視点で、北朝鮮の新型コロナウイルス対処の有様を見れば理解しやすいのではないだろうか。

筆者:福山 隆