少なくともここ日本において店頭販売は落ちていない(東洋経済オンライン編集部撮影)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響が経済に及んでいる。

自粛要請や外出禁止命令など国によって状況はさまざまだが、世界的に人の動きがとまり、飲食店や観光業から悲痛な叫びが聞こえてきている。一方で、必然的に恩恵を受ける側もある。消費者が飲食店や居酒屋での食事を控えるようになったため、スーパーやコンビニでの酒類の販売は比較的堅調なのだという。

この新型「コロナ」ウイルスの流行が、風評被害につながっている例も出てきている。メキシコ生まれの「コロナビール」だ。日本ではアンハイザー・ブッシュ・インベブ ジャパンが販売している、黄色いボトルが印象的なビールだ。

【2020年3月26日17時20分】初出時、日本における販売元に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

今年2月、アメリカのPR会社が「コロナビールを今は飲まないと答えた人が38%にのぼる」という調査結果を発表した。名前が似ているからとはいえ、あまりにひどい内容で、コロナビール側は、ビジネスに影響はないと反論している。

日本でも、コロナビールと新型コロナウイルスの名前からか、多くのメディアがコロナビールの風評被害を報じている。中には、コロナビールの販売が減少していると語った者までいる。

コロナビール店頭販売減の証拠はない

ところが、その根拠を調べてみても、それについては書かれていない記事がほとんどだ。世界の状況はわからないが、日本においてPOSデータでコロナビールの店頭販売が影響を受けているかどうかはわかる。

結果を言えば、コロナビールはこのコロナ騒動で店頭販売をむしろ急増させており、それはビール全体の伸びをはるかに凌駕している。

筆者は5000万人規模の消費者購買情報を基にした、True Dataのデータ分析ツール「ドルフィンアイ」を使ってビール市場全体やコロナビール単独の売れ行きを調べてみた。主要な全国のスーパーの2018年3月12日〜2020年3月8日のPOSデータを抽出した。

(外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

まず見ていただきたいのは、ビール全体の売上数量だ。これは、1店当たりのビールの売上点数を示している。


ビールは、春先の宴会需要、真夏の暑気払い需要、そして年末年始の年越し年明け需要で盛り上がる。前年比で少しの違いはあるものの、ここ2年はほぼ似たような動きだ。

そもそも、ビール業界全体としては、現在(2月から3月)はけっして好調な時期ではない。実際に2019年も2020年も、そのような推移となっている。

これに対して、同期間におけるコロナビールの売上点数を見てみよう。


絶対値は小さいものの、今年2月以降、明らかに売上点数が伸びているとわかる。1店当たりの売上金額で見ても同様で、新型コロナウイルスの騒動と重なる。

大幅に値引きされた様子はなし

念のために、この購買数の急増が、大幅な値引きによるものではないと見ておこう。価格の下落があれば、訴求性が上がり、それが購買につながった可能性も否定できないからだ。


これも結果でいえば、ほとんどコロナビールの平均売価は変化していない。グラフも縦軸をどの単位にするかでだいぶ印象が変わるものだが、非常に小さな幅で見てみても、ほとんどその売価に変化はないと理解できる。

日本でもコロナビールが販売不振であると書いた記事の著者が、どのようなデータを確認したのかがわからない。しかし、私がPOSデータを確認した結果では、むしろコロナビールが好調であると示す内容となった。

仮説であるが、次の3つの可能性が考えられるだろう。

(1) 名称ではなく単に中国が及ぼす業界全体への影響

巷間に流布する記事では、「名前のとばっちりでコロナビールが影響」とされているが、単にそれは名前の問題ではなく、世界的な自粛モードによる飲食店全体での影響ではないか。とくに中国は、中間層の所得上昇によりビールがぶ飲み国民になったが、彼らの消費意欲が低減したことによる影響だ。つまり、コロナビールだけではなく、名前のバイアスをなくすならば、ビール業界全体の不調と考えればおかしくはない。

(2)無意識的認知

それに対して、私が引用したPOSデータは日本のものだし、比較的に新型コロナウイルスを抑え込んでいる日本では、スーパーマーケットでの需要は劇的な落ち込みを示さないのも理解できる。だから、ビール全体の売上点数も昨年比で、さほど変化していない(むしろ外食分を取り込んで微増さえしている)。

さらに私が仮説として取り上げたいのは無意識的認知だ。Corona Beerと、coronavirusではだいぶ違うが、日本語では、「コロナ」「コロナ」と連呼されている。新型コロナウイルスがメディアだけではなく、人々の会話の中でも支配的になっている現在、この「コロナ」「コロナ」の連呼が無意識に刷り込まれ、スーパーマーケット等で買い物をする際に影響を及ぼしたのではないか、という点だ。

ファンが買い支えている可能性も

私の個人経験で恐縮だが、実際に、私はアルコール消毒でコロナを除菌する“願掛け”を兼ねて、先月にコロナビールを購入した。繰り返すと、単なる“願掛け”でしかない。ただ、それでも私のような人たちが数パーセントいるだけで売上点数は変わるだろう。

(3)ファンの存在

また、逆にコロナつながりで、縁起でもない、と理解する人たちもいるだろう。まさに、アメリカのPR会社が2月に「コロナビールを今は飲まないと答えた人が38%にのぼる」としたのも、名前の類似に、なんらかの心理的な影響を受けた可能性が高い。


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だからこそ、同商品(コロナビール)のファンたちは、いまこそ応援、買い支えるべきだと購買に走った可能性がある。消費者ができることは、購買によって1つの意見を表明することだから、日頃のコロナビールへの感謝を兼ねてスーパーマーケットで積極選択したとするものだ。とくにアメリカで逆風が吹いていたから、それを受けて行動したファンたちもいたはずだ。

私は実は(3)の可能性が高いと予想するのだが、どうだろうか。