「〇〇が陽性らしい」…根拠なき感染デマの恐怖、法的リスクも

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 新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見通せない中、SNSなどで根拠のない「感染認定」が広がり、一部で影響が出ている。

 「〇〇の社員が感染したようだ」「最近出勤していないのはまさか…」。事実無根にもかかわらず、削除要請などの対応に追われる被害者の苦労は計り知れない。刑事罰や損害賠償請求の対象となる可能性があるのは明らかだが、なぜこうした投稿が出回るのだろうか。(杉侑里香、森西勇太)

なぜかクルーズ船乗客に…

 「おたくの社長がウイルスをばらまいているんだろう」。2月末以降、静岡市清水区のねじ製造会社「興津螺旋(おきつらせん)」にこんな電話が寄せられた。

 心当たりのない内容。ただ同社担当者がSNSで社名を検索すると、理不尽な「筋書き」が見えてきた。

 静岡市が市内1例目となる60代男性の感染を公表したのは2月28日。男性はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していたという。

 その直後からSNSで騒ぎが起きていた。《興津螺旋の社長が感染したらしい》《社長はクルーズ船に乗っていたのでは》。投稿は瞬く間に拡散していた。

 だが興津螺旋の社長は47歳。クルーズ船にも乗っておらず、市の発表とは明らかな隔たりがある。なぜ社長が名指しされたのかは不明だが、どう考えてもデマだった。

 それでも噂は広がる。事実を確認する複数の電話があったほか、取引先からも問い合わせが相次いだ。

 対応に追われた興津螺旋は3月4日、ホームページに「(感染者が)弊社関係者という噂は事実無根です」とする文章を掲載。誤情報を投稿・拡散した人には削除を求めた。

 同社によると、現時点で削除依頼を拒否されるケースはなく、デマの広がりは収まりつつある。ただ依頼に応じてもらえない場合は、「法的措置も検討したい」(担当者)という。

刑事罰、損賠請求も

 根拠なく感染者と断定されるトラブルは、ほかにも長野県や秋田県の企業などでも確認されている。

 そもそも最初の誤情報の投稿が、悪意なのか思い込みに基づくものかは判然としない。だが、デマを打ち消すための関係者の労力や風評被害は計り知れない。

 こうした問題に詳しい小沢一仁弁護士によると、ネットのデマそのものを取り締まる法律は日本には存在しない。しかし「デマによって特定の個人を誹謗(ひぼう)中傷したり、企業の業務を妨害したりした場合は、刑事罰の対象になる可能性がある」とする。

 具体的には名誉毀損(きそん)罪や偽計業務妨害罪が該当し、売り上げの減少など具体的な損害が生じれば、民事上の損害賠償を請求されるケースが想定される。

 今回の新型コロナウイルスをめぐる騒動でも、デマ被害に関する相談がすでに小沢氏に寄せられているという。

善意の拡散、あだに

 SNSが盛んな昨今、摘発例も出ている。

 平成28年の熊本地震では《ライオンが逃げた》という嘘をツイッターに投稿し、動物園の業務を妨害したとして男が逮捕された。

 昨夏の常磐自動車道あおり運転殴打事件をめぐっては、無関係の女性を「同乗者の女」とするデマが拡散。女性側はデマを流した人を特定、法的責任を追及することを表明したが、これに愛知県豊田市の男性市議が関与していたことが明らかになり、市議は辞職に追い込まれた。

 SNSの活用などに詳しいウェブメディア評論家の落合正和氏は、情報の拡散は「9割の人は善意や正義感から行っている」と分析する一方、手軽さゆえに、正しい情報かどうかを判断しないまま流す人も少なくないと指摘。自身がデマの発信元にならないよう、「信頼できるソース(情報源)があるかを常に確認してほしい」と話している。