花粉交配用ミツバチの生育状況を確認する光源寺理事。養蜂業者の負担増を訴える(広島県東広島市で)

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 花粉交配用ミツバチが今春、不足する恐れが出ている。昨年相次いだ台風による巣箱流出や、暖冬で繁殖が活発になった寄生ダニなどが影響。一部地域では巣箱の盗難被害も出ている。今後、スイカやメロンなどの産地で授粉作業が本格化するため、養蜂業者は採蜜用を交配用に利用するなど身を削っている状況だ。

 「今年は全国で巣箱1万箱が足りなくなる」。日本養蜂協会の光源寺毅寿理事は警鐘を鳴らす。広島県三次市を拠点に養蜂園を経営する光源寺理事の下には、他県の養蜂業者から交配用ミツバチの不足情報が何件も届く。先日も寄生ダニなどの被害を受けた和歌山県の養蜂業者に巣箱160箱を貸した。全国有数の養蜂産地である同県への貸し出しは初めてだ。

 県内外の養蜂業者で協力し合って需給調整し、ぎりぎりでしのいでいるが、「全国的に大不足した2009年より状況が悪い」(光源寺理事)と指摘する。

 西日本最大手の熊本県八代市の西岡養蜂園は、今年の出荷量が例年の半分に落ち込む見通しだ。事業の7割が交配用の飼育で、影響は甚大だ。昨年から例年以上の寄生ダニ被害に遭った。昨秋に大発生した水稲害虫防除の影響もあると、同園は推測する。

 今月の九州地方を皮切りに、全国でメロンやスイカで授粉がピークを迎える。同園は、出荷が少ない中、昨秋からイチゴ生産者に巣箱の貸し出しや販売などをしており、「今は貸し出す巣箱は残っていない」。

 「足りない産地、農家のために」との思いから、通常1箱8000匹のところを6000匹に減らして対応。1箱単価が下がるが、箱数の確保を優先する。さらに不足すれば、「採蜜用を交配用に利用するしかない」とこぼす。既に採蜜用で対応している産地も多いため、養蜂業者の収入は減る一方だ。

手作業を覚悟 スイカ産地


 産地にも影響が出始めた。岡山県のJA岡山管内では、昨年11月ごろからイチゴの授粉作業が始まったが、県内のミツバチ不足で、生産者は巣箱を借りにくい状況だ。巣箱を購入して対応するが、「通常のリース代に比べると高く、負担が増えている」(JA営農指導課)という。

 鳥取県では4月からスイカの授粉が始まる。農家の9割近くが利用するため、JA全農とっとり果実課は早めの発注で対応する。万が一不足した場合は、「労力がかかる手作業しか選択肢はない」。

 ミツバチ不足を受け、巣箱の盗難も相次ぐ。日本養蜂協会によると、福島、熊本、鹿児島の各県で6件の被害があった。同協会は、各県の養蜂業者に盗難や害虫による被害状況などの実態を確認中だ。また、昨年の台風では東日本中心に巣箱が流される被害に遭った。

消耗減らす管理を 農水省


 農水省は、ミツバチの消耗を減らすため、園芸生産者にミツバチの管理徹底を指導しようと初めてマニュアルを作成、2月中旬にJAなどに配った。ミツバチの代替手段として、ハエの他、トマトなどに使われるマルハナバチの利用も促す。同省園芸作物課は「今から蜂が増え始めるのではないか」と望みを託す。

<メモ>

 花粉交配用ミツバチは主にセイヨウミツバチ。養蜂業者が増殖させ、イチゴやスイカの生産者に巣箱の貸し出しや販売をする。タマネギなどの採種にも使う。09年は寄生ダニ被害などでミツバチが大量に消失、オーストラリア産女王蜂の輸入停止も影響し、大きく不足した。農水省は需給調整システムを立ち上げ、不足県と供給可能県の情報を把握し、需給調整に努める。