2020年シーズン開幕で見つけた
今季要注目のJリーガー(8)
山根視来(川崎フロンターレ/DF)

 選手の移籍、なかでも各クラブの主力クラスの移籍は、シーズンオフの主な話題として注目を集める。だが、必ずしもそれらすべてがうまくハマるわけではない。Jリーグの歴史においては、”大型補強”が評判倒れに終わったケースはいくつもある。

 もちろん、移籍による補強が実際にうまくいくかどうかは、ふたを開けてみなければわからない。実績十分の大物が、移籍先で期待を裏切る例もあれば、それまでくすぶっていた選手が、移籍をきっかけに意外なブレイクを遂げる例もある。

 ただ、過去には、選手の特長とクラブが志向するサッカーのスタイルとを考えたとき、なぜこの選手をこのクラブが獲得したのだろうかと、首をかしげたくなる移籍があったことも確かだ。つまり、移籍による補強の成否は、単純に選手の実績やクラブの実力だけで決まるわけではない。いわば、選手とクラブの相性が大切なのだ。

 その点において、今季J1で移籍後の活躍が楽しみな選手がいる。湘南ベルマーレから川崎フロンターレへと移籍した、DF山根視来(みき)である。


川崎フロンターレに移籍して飛躍しそうな山根視来

 昨季の湘南はパワハラ問題に揺れ、J2降格危機に陥ったものの、「湘南スタイル」として知られるアグレッシブなサッカーは、以前から高い評価を受けていた。そこでは、DFと言えども、積極的に攻撃に関わる姿勢が求められる。

 高い位置からプレスをかけ、ひとたびボールを奪えば、縦に速い攻撃を仕掛ける。攻守両面でハードワークをいとわない湘南スタイルは、それゆえ、走力を全面に押し出したイケイケドンドンのイメージもある。

 しかし、そんななかで山根の存在が貴重だったのは、DFながら足元の技術に優れ、落ち着いてボールを動かすことができる選手だったからだ。

 3バックの右DFを務めていた山根は、最終ラインでパスをつなぎながら、タイミングよく縦パスを入れる、あるいは、前が空けば自らボールを持ち出すことで、攻撃のスイッチを入れる役割を担っていた。

 また、オフ・ザ・ボールのときでも、右アウトサイドMFと連係しながら、内側からインナーラップ、あるいは外側からオーバーラップと、状況に応じた効果的なポジションを取ることができていた。

“世紀の大誤審”が話題となった、昨季J1第12節の浦和レッズ戦(3−2で勝利)では、試合終了間際に決勝ゴールを叩き込んでいる。

 ひと言で言えば、非常に攻撃センスのいいDFなのだ。

 ウィザス高から桐蔭横浜大を経て、2016年に湘南入りした山根だが、小中学生時代は東京ヴェルディのアカデミーに所属していた、というのも頷ける。湘南での1年目こそ、リーグ戦での出場機会はなかったが、2年目以降はレギュラーに定着。昨季までの3シーズンでちょうど100試合(J1で63試合、J2で37試合)に出場しており、場数も十分に踏んできた。

 しかしながら、湘南時代の山根を見ていると、そのプレーからインテリジェンスを感じるからこそ、その一方で、3バックの右DFとしてスペシャリスト化していることがもったいなくも思えた。

 たとえば、日本代表を見ても、森保一監督は3バック(3−4−2−1)も併用するが、基本的には4バック(4−2−3−1)がベース。こうなると、山根がポジションを見つけるのは難しい。

 もし山根が4バックのチームでプレーしたら、どんな適性を見せるのだろうか。従前、彼のプレーを見ながら、そう考えることがあった。

 そこへ、今回の移籍の報である。

 川崎は4バックがベースであるのはもちろん、DFラインからしっかりとボールをつないで主導権を握り、攻撃を組み立てることを得意とする。山根が次なるステップに進むには好相性のチームに思える。

 山根は、湘南でレギュラーを務める過程において、確実に守備力も高めていた。場合によっては、センターバックに入ることもできるだろう。だが、身長178cmはセンターバックとしては物足りなく、それほどヘディングが強いわけでもない。

 山根が最大の武器とすべき持ち味は、プレーメイカー的な攻撃センス。最適なポジションは、やはり右サイドバックだろう。比較的プレッシャーを受けにくい位置から攻撃を組み立てつつ、自らも前線へ進出していく。そんなモダンなサイドバックになりうる素養を備えている。

 連覇から一転、昨季は4位に甘んじた川崎にとっても、右サイドバックはアキレス腱とも言うべきポジションとなっていた。

 J1連覇に大きく貢献した超攻撃的右サイドバック、DFエウシーニョがチームを離れて以降、昨季はDFマギーニョ、馬渡和彰を獲得するも、ケガもあり、人選は定まらずじまい。左利きのDF登里享平や、ボランチが本職のMF守田英正を起用することもあり、苦肉の策でどうにかやりくりする状態が続いていた。山根が、ピッチ上に開いた唯一の穴を埋めるラストピースになれれば、自然と川崎は王座奪還へ近づくはずだ。

 今季、これまでの試合を見る限り、新加入の山根がまだチーム全体の攻撃リズムに乗れない様子も少なからずうかがえた。それでも、時間ごとに効果的な攻撃参加の数を増やし、得点機に絡むことができるようになっている。これから先、周囲の選手、特に右FWや右インサイドMFに入る選手とのコンビネーションを磨いていけば、川崎でその名を高める可能性は十分にある。

 加えて言うなら、3バックの湘南に続き、4バックの川崎でも高いパフォーマンスを発揮できると証明したとき、その先には日本代表も見えてくるはずだ。

 すでに湘南のレギュラーとして3シーズンを過ごした26歳が、次なるステップへと歩を進めた。

 はたして、化けるか否か。楽しみにしている。