新型コロナ「世界同時株安」最もヤバいのは「日本人の年金」の可能性 パンデミック・マーケットと信用緩和

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パンデミックで金融市場大荒れ

WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について「パンデミック」を宣言した先週(9〜13日)の金融市場は大荒れの展開となった。

トランプ大統領が就任した2017年1月以降116回も史上最高値を更新し、世界の株式市場を牽引してきた米国株式市場も過去最大の下落と上昇を繰り返し、史上初めて5日連続で1日の当落幅が1000ドルを超えるなど大荒れの展開となっている。

週末の13日にはトランプ米大統領が国家非常事態を宣言し、政策を総動員する姿勢を示したことでNYダウは前日比1985ドル高と過去最大の上げ幅を記録したが、それでも直近の高値からの下落率が21.5%と「弱気相場入り」の目安といわれる下落率20%を超える水準に留まっている。

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東京株式市場も週間下落幅が3318円と過去最大となり、13日の日経平均株価の終値は1万7431円と3年4ヵ月ぶりの安値となった。こちらは今年の最高値2万4083円からの下落幅は6652円、下落率は27.7%と、米国を上回る下落となっている。

世界同時株安の様相を呈してきた要因に関して、一般的には「新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気悪化懸念」であると報じられている。

しかし、現実として「景気悪化懸念」だけで世界同時株安が起きることはない。世界同時株安を引き起こされたのは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化が「金融システム危機」を招くことを投資家が強く認識し始めたからである。

今回の世界同時株安を2008年のリーマン・ショックと同列視して論じる報道も散見されるが、両者には短期間での株価急落という現象面での共通点はあるものの、根本的に異なるものである。

それは、リーマン・ショックが金融市場の自爆によってある日突然「金融システム崩壊危機」が顕在化したことで世界同時株安が引き起こされたのに対して、今回は「金融システム崩壊危機」が迫って来ていることの警鐘として世界同時株安が起きているという点である。

こうした相違点があるということは、換言すれば今回は今後の対応によって「金融システム崩壊危機」を防げる状況にあるということである。

「時間」が対策のキー?

「金融システム危機」を回避するためには景気悪化懸念の原因となっている新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める対策と、「金融システム危機」を防ぐための金融・経済対策の両方が必要になる。

この二つの対策でキーになるのは「時間」である。それは、両者に対して「時間」が正反対の相関を持っていることだ。

新型コロナウイルスの感染拡大はある程度の「時間」を掛ければ食い止めることは可能なはずである。これに対して金融・経済は「時間」が掛かれば掛かるほど事態が悪化するのだ。

金融・経済対策が即効性の乏しいものに留まれば、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかる前に「金融システム危機」が現実のものになるリスクが高いのである。

したがって、政策当局に求められるのは、有効な新型コロナウイルスの感染拡大防止政策と同時に即効性のある金融・経済対策である。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化を食い止めるために世界主要国が相次いで景気対策を打ち出し始めてきているが、減税や給付金、無利子・無担保融資といった従来の政策だけでは「時間」的に「金融システム崩壊危機」を回避できるかは疑わしい限りである。

日本では帝国データバンクが3月11日13時時点で「新型コロナウイルス関連倒産」が8件起きていることを公表しており、世界でみてもヨーロッパ最大級の地域航空会社の英フライビーが5日に破産を申請し、米国でもボーイングが138億ドル(約1兆4300億円)の融資枠を13日にも使い切り倒産法にあたるチャプター11適用を受ける可能性まで指摘されてきている。

このように新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済は既に「この1〜2週間が瀬戸際」という状況に追い込まれている。

各国が打ち出している新型コロナウイルスの感染拡大の防止政策も減税を始めとした経済対策も、「時間」という点で「この1〜2週間が瀬戸際」という状況に追い込まれた世界経済を直ちに救い出す救世主になれないことはほぼ明白である。

リーマン・ショックの二の舞となる「金融システム崩壊危機」を避けるために今必要な政策は「時間」を要する従来型の経済対策や利下げではなく、経済危機を金融システムから切り離すための思い切った政策である。

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いくつもの「サプライズ」

WHOが新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック」と認定したことをうけ、トランプ大統領は11日に英国を除く欧州からの渡航停止を、さらに国家非常事態を宣言した翌日の14日には渡航規制を英国とアイルランドまで拡大するなど、「この1〜2週間が瀬戸際」と思われている世界経済に対する逆風はさらに強まって来ており、ますます「時間」との戦いが厳しくなっている。

こうした状況下で今週17日〜18日開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)で0.5%の利下げに動くと思われていたFRB(連邦準備理事会)は、15日(日本時間16日朝)に臨時のFOMCを開催し1.0%の緊急利下げと今後数ヵ月にわたって米国債などを7000億ドル(約75兆円)買い入れる量的緩和を決めた。これによって米国の政策金利は0〜0.25%と4年3ヵ月ぶりに実質ゼロ金利となった。

FRBが週明けに1.0%の緊急利下げに打って出たのは、市場が0.5%の利下げを100%織込んでいた17日〜18日のFOMCで0.5%の利下げを行っても、その効果に限界があると考えたからだと思われる。

それゆえにFRBは18日に予定されていた利下げを15日に前倒しするという「時間」的サプライズと、1.0%の利下げによって実質ゼロ金利政策を復活させるという市場が全く予想していなかった2つのサプライズを使って株価の買戻しを誘発させることを目指したのだろう。

2つのサプライズによって株価が反発させることが出来れば、株価下落による「金融危機不安」の拡大を一時的に抑えられる可能性があるからだ。

今回のFRBの緊急利下げは「時間」というサプライズを使って、「金融危機」が起きるまでの「時間」を買うことを目的とした政策変更だったといえる。

FRBが打ち出した2つのサプライズを市場は好感する形になる可能性が高い。

しかし、FRBが臨時のFOMCを開催してまで実質ゼロ金利政策と量的緩和政策の復活を打ち出したということは、FRBが利下げだけで「パンデミック・マーケット」を食い止めることは難しいということを強く認識していることの裏返しでもある。

FRBが実質ゼロ金利政策と量的緩和政策の復活という打てる政策を全て打ち出したことで、バトンは政府に投げ返されたという見方が多いようだ。しかし、FRBは2つのサプライズに続く3つ目のサプライズを準備しているはずである。

「利下げと債券購入ではリセッション(景気後退)対応措置として不十分な場合、さまざまな資産購入を政策当局は許されるべきだ」

市場ではほとんど注目されなかったが、世界が「パンデミック・マーケット」の様相を強める直前の3月6日にボストン連銀のローゼングレン総裁がこうした注目すべき発言を行っている。

ローゼングレン総裁 〔PHOTO〕gettyimages

この発言は、現在FRBが購入できる資産を米国債と政府系機関が発行する債券、政府系住宅金融機関のモーゲージ債に限定している米連邦準備法を改正してでも、FRBがもっとリスクの高い証券の購入することを可能にするべきだという主旨である。

この発言の本質は、利下げと量的緩和に留まっている金融政策に「信用緩和」を加えるというものであり、「経済危機」を「金融システム」を切り離すことで「金融システム危機」を回避することを目指したものである。

「金融システム危機」とどう向き合うか

興味深いのはこうした発言をしたローゼングレン総裁が、昨年FRBが行った3回の利下げに全て反対票を投じてきた「タカ派」だったことだ。

最も金融緩和に反対してきた「タカ派」の代表格である地区連銀総裁が、米連邦準備法を改正してまでFRBがリスクの高い証券を購入することを提唱するということは、FRBが「経済危機」を「金融システム」から切り離すことで「金融システム危機」を回避する強い意志を持っていることの現れだと理解するべきだろう。

これまでもパウエルFRB議長は事あるごとに企業の債務は歴史的な高水準に達していること、中でも信用力の低い企業向けのレバレッジド・ローンとそれを束ねたCLO(ローン担保証券)が急速に増えてきていることに警鐘を鳴らしてきた。

それは景気悪化によって債務不履行(デフォルト)が増えればリーマン・ショックと同様の「金融システム危機」を招きかねないとの認識を持っているからである。

これまでのパウエルFRB議長の発言と今回のローゼングレン総裁の発言から想像されることは、FRBは、民間金融機関が保有するCLOをFRBが買上げることで「経済危機」を「金融システム」から切り離す計画を持っているということだ。

それは従来の経済対策や利下げの効果が実体経済に及ぶまでには「時間」が必要であり、その間にデフォルトが増え「金融システム危機」を誘発しかねないからである。

もし「金融システム危機」が起きてしまったら「経済危機」はより深刻なものになり、政策当局に為す術は無くなってしまう。

おそらく政府の経済対策と中央銀行の利下げでは「1〜2週間が瀬戸際」という経済を直ちに救うことは出来ない。FRBが「経済危機」と「金融システム」を切り離すことを計画しているのは、そうしたことを認識しているからに他ならない。

「経済危機」と「金融システム」を切り離す一つの手段として考えられるのが、FRBによるCLOの購入である。FRBがCLOを購入したとしても、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によってデフォルトが増加してしまえば、リーマン・ショックの時と同様にCLOの価格が急激に下落することには変わりはない。

問題はこうした事態が起きた際に誰がそのCLOの所有者であるかという点である。それは、CLOの所有者に直接その影響が及ぶからだ。

もし民間金融機関がCLOの所有者であり続けたとしたら、リーマン・ショックの時と同様に「金融システム危機」を招く可能性が高い。

しかし、CLOの所有者をFRBに変えることで経済危機と金融システムを切り離しておけば、「金融システム危機」は回避できる可能性がある。

ただし、「金融システム危機」を完全に回避そのためには、もう一つ条件を加えることが必要になる。

それは、FRBが被る損失を政府、財務省が保証するという条件を付け加えることである。なぜなら米国国債の40%前後は海外投資家が保有しており、FRBの資産の毀損自体が「米ドルの急落」と「金融システム危機」を招く要因になるからだ。

こうした事態を防ぐうえでも、FRBがCLOを購入できるようにすると同時に、損失が生じた場合には政府、財務省がその損失を補償するという米連邦準備法の改正が必要になって来るのだ。

「パンデミック・マーケット」と化してきた世界の株式市場に歯止めを掛けられるかどうかは、ゼロ金利政策と量的緩和政策の復活を決めたFRBが、さらに「信用緩和」に踏み切る意思を見せるかどうかにかかっているといっても過言ではないだろう。

GPIF過去最大の損失20兆円?

「パンデミック・マーケット」から最も深刻な影響を受けるのは、新型コロナウイルスの震源地である中国でも、急激な感染拡大に見舞われている欧州でもなく、「緊急事態を宣言する状況ではない」日本である可能性が高い。その中でも直撃を受けるのは公的年金の運用である。

日本の公的年金資金の管理運用を行っているのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。その運用資産額は2019年12月末で168兆9897億円と国家予算の1.6倍という巨額なものになっている。

安倍総理が「世界最大の機関投資家」と豪語するGPIFは、今回の「パンデミック・マーケット」によって巨額の損失を抱えた可能性が高い。

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GPIFは多額の運用資産の25%を「国内株式」に、25%を「外国株式」に、35%を「国内債券」に、そして15%を「外国債券」に振り向けるとした基本ポートフォリオに基づいて運用を行っている。

GPIFは2019年7〜9月期から四半期ごとの各資産の構成割の公表を見送っているので、2019年12月末時点で各資産をどのくらい保有していたのかは定かではない。

仮に資産配分が基本ポートフォリオ通りだったとすると、「国内株式」と「外国株式」をそれぞれ約42.25兆円、「国内債券」を約59.15兆円、「外国債券」を約25.35兆円保有していた計算になる。

2019年12月末比でみると「国内株式」のベンチマークとなるTOPIX(東証株価指数)は3月13日までに26.7%下落しており、「国内株式」だけで資産の6.675%の損失が生じた可能性がある。

また、その他の資産のベンチマークとなる主要インデックスの動きを見てみると、「外国株式」は円換算後で20.5%下落、「国内債券」はほとんど変わらず、「外国債券」は円換算後で2.26%の下落と、軒並み下落している。

こうした各資産のベンチマークの騰落率から換算すると、GPIFの資産全体としては2019年12月末比で約12%、金額ベースで約20兆円もの大規模な損失が生じている可能性が高いのだ。

GPIFは2018年10〜12月期に市場運用を始めた2001年度以来四半期としては最大の14.8兆という損失を出した実績を持っているが、先週末時点で抱えていると思われる20兆円の損失は、それを大幅に上回る史上最大の損失となる。

GPIFは市場運用を開始して以来2019年12月末までに75兆2449億円の収益を上げてきているが、この収益のうち利子・配当収入として既に受け取った実現収益は36兆5,345億円であり、残りの38兆7104億円が評価損益、つまり含み益である。

「パンデミック・マーケット」の影響によってGPIFがこの1〜3月期に20兆円ほどの損失を出したとしたら、2019年12月末時点の38兆7104億円の評価益の半分以上が消し飛ぶことになる。

現在は年金世代への年金給付は現役世代が支払う年金保険料と税金によって賄われており、GPIFの資産は年金給付財源として使われていないので、GPIFの運用損失の影響が直ちに年金給付に影響を及ぼす状況にはない。

懸念されることは、年金給付の財源として現役世代が負担している厚生年金保険料は給料に連動しており、現役世代の給与水準が低下したり失業者が増えたりすると減る仕組みになっていることである。

仮に新型コロナウイルスの影響によって今後倒産が増えたり給料カットが行われたりすれば年金保険料総額は減ることになる。

日本経済は昨年10月の消費増税や米中貿易戦争の影響などから既に2019年10〜12月期のGDPが前期比年率でマイナス7.1%という大幅なマイナス成長に陥っており、その影響は今年の春闘でベアゼロ回答が相次ぐという形になって表れて来ている。

こうした中で新型コロナウイルスの感染拡大の影響による倒産や失業が加わることを考えると年金給付の財源である年金保険料は減る可能性が高い。

一方、昨年10月の消費増税によって消費税収は増えることになるが、その後の景気悪化によって法人税や所得税が減ることは確実であり、税収全体として大きく伸びることは期待薄の状況である。

日本の株式市場は「非常事態」に…

このように年金給付の財源である年金保険料と税金が予定通りに確保できない可能性が高まる一方、年金給付額は高齢化の進展を考えると減る可能性はほとんどない。それは、年金保険料収入と税金だけでは年金給付を賄えなくなる可能性が高まって来ていることを意味するものだ。そして、こうした事態が生じた際に財源として使われることになっているのがGPIFの資産である。

政府が見込んでいた堅調な経済状況が続けばGPIFの資産が年金給付の財源として使われるようになるのはまだ数年先のはずだった。

しかし、昨年10月の消費増税による景気の急減速と2020年に入ってからの新型コロナウイルスの感染拡大による世界的景気悪化懸念によって、GPIFの資産が年金給付の財源として使われ始める時期が早まる可能性が出て来ている。

厚生労働省が昨年公表した財政検証の結果の中では、政府の見通しを下回る経済状況になった場合、早ければ2020年度からGPIFの資産の取崩しが始まる「最悪のケース」も示されている。ただし、足元の経済状況は政府が示した「最悪のケース」を上回るペースで悪化してきている。

それは、昨年末時点で168兆9897億円というGPIFの巨額な資産が金融市場で換金のために売却される可能性が高まって来ていることを意味している。

仮に年金給付の財源確保のためにGPIFの資産が5兆円を取崩すとしたら、「国内株式」にはその25%に相当する1.25兆円の売物が出ることになる。

昨年末から13日時点で26.7%下落している東京株式市場で「世界最大の機関投資家」であるGPIFが1兆円を上回る売手に回った場合の衝撃度は投資家の想像を超えるものになることは必至である。

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界経済悪化が「世界最大の機関投資家」の資産取り崩しを早めることで、日本株のパフォーマンスが新型コロナウイルスの震源地である中国や非常事態宣言を出した欧米主要国を大きく下回る可能性があることには留意が必要だ。

新型コロナウイルスの感染拡大の状況は「非常事態を宣言する状況ではない」のかもしれないが、日本の株式市場は「非常事態を宣言する状況」に確実に近付いている。