夏場の官庁街・霞が関の風景。公務員は根強い人気があるが、デメリットもある (撮影:今井康一)

3月1日、新卒の就活・採用活動が解禁となった。


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例年だと多くの企業説明会が開催され、就活が本格化するが、今年は状況が違う。新型コロナウイルスの感染拡大により、合同企業説明会は中止、企業によっては面接を控えたり、不景気となることを想定し、採用枠を絞る企業も出てきている。

新卒を中心とした若者にとっては、苦戦を強いられる就活環境となっているが、このような状況になると「何となく公務員」を目指す人が増えるのではないかと感じている。公務員を目指す理由にはさまざまなものがあるが、ざっと挙げると次のようなものだ。

公務員志望はメリットばかりではない

公務員はクビ(解雇)がないから安定している(厳密には「ない」わけではなく、解雇要件が厳しいため「あまり発生しない」)
公務員の仕事は国の仕事だからなくならない
・地元で公務員になれば転勤がない
・親から勧められた
・「やりたいこと」がなくてもできる仕事

筆者は、何となく仕事を選んでもいいし、公務員として働くこともいい選択だと思っている(筆者の親は公務員で、いってみれば税金で育ててもらい、大学にも行かせてもらった)。ただ、公務員を目指すことのメリットしか知らず、デメリットを考えずに目指してしまうことは避けたほうがいいとも考えている。

今回は、公務員を目指すのであれば知っておいたほうがいいデメリットに焦点をあてて解説していきたい。メリットだけでなく、デメリットも理解したうえで、公務員を目指すのであれば目指してほしいと思うからだ。では具体的に見ていこう。

デメリット1 少子高齢化、生産性向上(IT化)が進み、介護福祉への職種転換もありうる

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、少子高齢化が進行し、2040年には2015年比で人口が1569万人減少すると言われている。とくに人口が少ない自治体ほど人口減少率が高くなるとも試算されている。

また、厚生労働省の試算では、2025年時点で介護福祉の仕事をする人が37.7万人不足するとしている。これらの状況をまとめると、次のような可能性が考えられる。

・人口が減ることで、公務員の仕事のニーズが減り、雇用も減る
・人口が減ると税収が減るため、生産性の向上が求められる(従来の事務的な仕事が減る)
・自治体の統廃合が進む(雇用が減る)
・高齢化が進み介護福祉のニーズがより一層高まる(職種転換ニーズの増大)

これらの状況となることを想定すると、公務員に抱いている「安定」というイメージは盤石なものとは言えない。「安定」を求めて公務員を目指すのはいいが、公共性が高い公務員という性質上、社会や地域の変化によって仕事の内容も変わっていくことは考慮すべきである。

ただ、公務員には事務職だけでなく、専門的なポジションもある。専門職(国税専門官・財務専門官等)や技術職(土木・建築・機械・電気電子・化学・農業・林業等)であれば、上記のようなデメリットはほとんど無関係で、イメージどおり安定して働ける環境があると思われる。

事務系の仕事の転職ニーズは低い

デメリット2 市場価値につながる専門スキルが身に付かない

専門職や技術職であれば、専門的なスキルや仕事の実績が身に付くが、一般行政職(事務職)の場合、事務的な業務が中心となる。その仕事の多くはデータの入力・編集業務が中心となっており、窓口での書類発行業務(住民票、印鑑証明書等)も含まれる。

パーソルキャリアが運営する大手転職サービスdodaの職種別求人倍率によると、事務・アシスタント系職の求人倍率は直近5年間、最も低く、約0.3倍前後(希望者3〜4人に1人しか採用されない)で推移している。全体の数字が2.5〜3.0倍程度で推移しているので、転職市場における市場価値はかなり低い。

事務業務は各企業とも非正規社員(派遣スタッフ)でまかなうことが多く、おまけに昨今のIT化によってさらにその仕事は減っている。そのため、公務員の一般行政職(事務職)での業務経験は転職市場ではそこまで評価が高くなく、公務員から民間企業への転職を考えた際には苦しい状況となる可能性がある。公務員としてずっと働いているうえでは問題ないが、「つぶしの効く仕事」とは言えないだろう。

デメリット3 公務員を目指している期間は、企業からすると「空白期間」

何となく公務員を目指してしまうことによる最大のデメリットは、公務員試験に合格するために試験勉強をしている期間が、企業にとっては「空白期間」となることだ。当たり前だと思うかもしれないが、意外とこのデメリットが抜け落ちてしまっている人が多いと感じる。

公務員試験で勉強している知識は大学の一般教養科目のような知識が多く、企業に入ってから活用できるものはほとんどない。つまり、企業からすると、公務員を目指して勉強していた期間は、仕事にあまり関係のない知識をつけるために費やした期間だと評価される。

企業の評価としては、同じ1年間を過ごすのであれば「アルバイト>公務員試験」というケースが少なくない。空白期間を埋めるためにも試験勉強とアルバイトはある程度両立することをおすすめする。コミュニケーション能力を磨けるアルバイトならなおよいだろう。

利益を追求する民間企業とは考え方が違う

デメリット4 民間企業は「公務員マインド」を嫌う

民間企業というのは、営利目的で運営されている。売り上げをだして利益を確保しないと、従業員の給与も払えないし、会社として存続することができない。つまり、民間企業における「仕事」は利益を最大化することだ。そのために、売り上げを増やし、費用を最小化するというマインドで仕事に取り組んでいる。

利益の最大化 = 売上の拡大 / 費用の最小化

しかし、本来であれば民間企業と同じように費用を抑えて、効果を最大化することが仕事となるはずの公務員の仕事は少し様子が異なる。公務員の仕事では、先に予算を組み、その予算を使い切らないと次年度の予算が削られてしまうことがある。むしろ、いかに予算を正確に算出したのか、その精度が評価ポイントとなる。

予算組みの精度 = (実際に使った予算)と(事前に組んでおいた予算)の差額

コスト削減をすることが必ずしも正解とはならず、予算を使い切ることが目的となることがある。このような民間企業と公務員の仕事における「正解の違い」から、民間企業は公務員とマインド(考え方)が違うと捉えており、公務員経験を持つ人や公務員を目指していた人を低く評価することがある。

また、公務員を目指している人には「ただ安定したい」と考えている人が多いと思っている企業が多く、公務員を目指していたことだけで「消極的(あまり努力をしない)」とまで感じている企業もある。公務員を目指していた過去が、書類選考や面接においてビハインドとなる可能性もある。

ここまで公務員を目指すことのデメリットを挙げてきたが、もちろんメリットもある。あくまでも公務員になれた場合だが、メリットも提示しておきたい。

・安定した収入(サラリーマンの平均水準よりも高い)
・法律に守られた雇用(懲戒免職にはそうそうならない)
・地方公務員の場合は、地域に根ざした公共性の高い仕事ができる(仕事の成果を実感しやすい)
・ワークライフバランスが比較的取りやすい職場が多い(ただし、職場によってバラツキあり)

安直な公務員志望は「問題の先延ばし」になりうる

このように、公務員を目指すことのメリットとデメリットを両方とも理解したうえで目指してもらいたいと思う。なお、公務員試験は各省庁、各自治体ともにおおむね年に1回のチャンスとなっている。そのため、試験に落ちてしまえば1年間を棒に振ってしまうことになる。

現場でキャリア支援をしていると、公務員を何年も目指し、就職が遅れてしまったことを後悔する人と会うことがある。このような人たちの話を聞くと、デメリットを理解していれば目指さなかったし、何となく周りの声に流されてしまったと語る。

「やりたいことが見つからないから」「目の前の就活がうまくいっていないから」といった理由で、安直に公務員を目指してしまうことは、問題の解決ではなく、問題の先延ばしになってしまうことになる。

公務員を目指すのであれば、公務員になってからどんな仕事を志望し、どんな能力を身に付けていきたいのかを明確に持ったうえで目指してもらいたい。そのほうが公務員を目指すモチベーションも湧くだろうし、試験(とくに面接)での結果もよくなるはずだ。

同様の内容をYouTubeチャンネルでも解説しているので、合わせて見てもらえればと思う。