日本法人が増えてきたころから右ハンドル仕様が充実してきた

 1980年代までは輸入車といえば左ハンドルが当然という時代だった。欧州車においてはイギリス仕様が右ハンドルのため、限定的に右ハンドル仕様も日本に上陸していたが、左ハンドルに比べるとペダルレイアウトに違和感があるといった理由で、左ハンドルを好むオーナーが多かった記憶がある。

 そうした流れが変わってきたのは日本がバブル景気に沸いて、輸入車の販売台数が増えてきたあたりからだ。かつては日本の輸入代理店というのは商社が中心となっていたが、徐々に各メーカーの資本が入った現地法人が窓口となっていく。当然のように市場リサーチをすれば、左ハンドルを好む人よりも、左ハンドルだからと二の足を踏んでいるユーザーが多いことは明らかになる。

 主に趣味性の強い商品として輸入車を販売していた商社系の代理店から、欧州メーカーの息がかかった現地法人になれば、より数を売ることが求められることになる。そして、市場に受け入れられやすい右ハンドル仕様が充実してきたことで大衆車のカテゴリーでもシェアを広げ、輸入車全体の販売台数が増えてきたというのが大筋での流れだ。

 逆にプレミアムゾーンでは左ハンドルを好むユーザーも多く、スーパーカー系ブランドのモデル群は左ハンドルがメインの展開となっている。とはいえ、東京オートサロンに登場した新型シボレー・コルベットは、同モデルとして初めて右ハンドル仕様を設定、日本にも導入するという。

 ペダル配置におけるネガティブな声についても、スーパースポーツをはじめ欧州車の2ペダル化が進んでいくなかで、問題ではなくなりつつある。なにより、左側通行の日本においては右ハンドルのほうが、全般的に死角が少なく、安心して乗っていられるのも右ハンドルへのニーズを高めている。

新興国市場の成長が右ハンドル仕様の充実につながっている

 とはいえ、いくら日本のユーザーが右ハンドル仕様を求めたとしてもマーケット規模を考えると、海外メーカーが「日本のために右ハンドル仕様を増やしていこう」というマインドにはならないはずだ。そのほか左側通行・右ハンドルで知られている国といえば、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドが思い浮かぶが、あえて右ハンドルを強化しようと思えるほど伸びしろのある市場とは思えない。

 しかし、右ハンドルがスタンダードで自動車販売の伸びが期待できる国がある。それがインドである。現時点では月販30万台程度であり、販売も鈍化しているが、13億人を超える市場が待っている。将来性を考えれば、右ハンドル仕様を用意しないという手はない。

 そのほか、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシアといった東南アジア諸国も左側通行・右ハンドル圏だ。その名前を聞けば、上昇基調にある市場だと感じることだろう。

 つまり、こうした新興国市場の成長が期待されるという背景が右ハンドル仕様の充実につながっている。日本のためではないというのは寂しいと感じるかもしれないが、高齢化が進みシュリンク傾向にある日本市場としては、どんな理由であっても左側通行で乗りやすい右ハンドルの輸入車が増えてくることは歓迎したい。

 ところで、国際的なISO規格ではハンドル位置にかかわらず、ウインカーレバーは左と決まっているが、長年の習慣から輸入車の右ハンドル仕様に乗るとウインカーと間違えてワイパーを動かしてしまうというミスがよく起きる。ただし、アジア圏での右ハンドル車ではウインカーレバーは右側がデファクトスタンダートになっている。こちらもデファクトの則った仕様が増えてくれると、ありがたいと思うのだが、いかがだろうか。