2月の国内既存店売上高が前年同月を上回った無印良品(左)とユニクロ(右)(撮影:【左】今井康一、【右】記者撮影)

猛威を振るう新型肺炎の影響を受け、アパレルや雑貨を扱う小売専門店の営業実績は軒並み前年割れかと思いきや、意外にも販路や商品の特性によって明暗が分かれている。

2月に中国本土で数百店規模の営業停止が報じられた、ファーストリテイリング傘下のユニクロ。国内に目を向けると、訪日観光客からの人気が高い銀座や新宿の店舗は、来店客が明らかに減り、以前ほどの活気がない。

ただ、ユニクロは郊外ロードサイド店を含め765に及ぶ国内直営店のうち、インバウンド需要で稼ぐ店は都心のごく一部に限られる。「国内ユニクロにおける免税売り上げの割合は非常に少ない」(ファーストリテイリング広報担当者)。

中国人などインバウンド需要減少の一方で、国内客向けの販売は堅調だ。2月の国内既存店売上高は前年同月比0.8%増と、なんと半年ぶりの前年超えとなった。

暖冬で春物の新作が好調

ユニクロは昨年秋以降、暖冬の影響でヒートテックやウルトラライトダウンなどの防寒衣料の販売不振が続いたことから、店頭で打ち出す商品を例年より早めに春物へと切り替えてきた。


ユニクロ銀座店(写真)は、中国人などの客足が減っているが、郊外ロードサイドなどで国内客の需要は堅調だった(編集部撮影)

すると、2月の初旬から中旬にかけて気温が高く推移し、ジャケットやパーカー、ロングスカートやジーンズといった春の新作がよく売れたという。うるう年の今年は、前年同月と比べ休日が2日多かったことがプラスに寄与した側面もある。

同じく訪日客からの支持が厚い「無印良品」も、2月の国内既存店売上高は前年同月比4%増となった。防寒着が売れず衣服雑貨の売上高は前年割れとなったが、食品は看板商品のレトルトカレーが売り上げを牽引。生活雑貨も、家具や家電などのセット提案を強化した新生活関連商品や、新型肺炎対策でハンドソープやマスクの売れ行きが好調だった。

新型肺炎もどこ吹く風と言わんばかりの快走ぶりが目立ったのがワークマンだ。同社の2月の既存店売上高は前年同月比27%増。5カ月連続で20%超の高い伸びを維持している。


好調が続くワークマン。写真は出店を加速させている新業態「ワークマンプラス」(撮影:風間仁一郎)

防寒衣料は会社の想定ほど販売が伸びず、在庫が積み上がったままの状態だが、通年で販売しているデニム商品や作業服がよく売れたほか、人気ブロガーとのコラボで新たに開発した綿製のキャンプウェア「コットンキャンパー」が大ヒット。幸か不幸か、郊外店が中心のワークマンは観光客らが集中する都心は手薄なエリアでもあり、「2月には新型肺炎の影響は見られなかった」(ワークマンIR担当者)という。

このほかショッピングセンターや駅ビルなどの商業施設内に展開するアパレル専門店では、2月の既存店売上高がほぼ前年並みの企業が多くみられた。「月末にかけて新型肺炎の余波で客足が減ったが、全般的に暖かい気候で、春物のカットソーなどが並び始める2月の経営環境としては悪くなかった」と、大手アパレル幹部は話す。

主要販路が百貨店のアパレルは苦戦

一方、同じ衣料品を扱いながらも、2月の業績に打撃を受けたのが百貨店を主要販路とするアパレルメーカーだ。三越伊勢丹や高島屋など大手百貨店の2月の国内既存売上高は国内外客の入店数減少により、軒並み2ケタ減となった。

百貨店向けのアパレルメーカーは、この余波をもろに受けている。「百貨店の主要客である中高年やシニアの富裕層ほど、感染を警戒して家にこもりがち」(前出とは別のアパレル幹部)。

「店頭は未だかつてないような最悪な状況。特に2月20日以降はひどく、1〜2月の実績を踏まえて、販売施策よりも(コストを)削ることを徹底しないといけない」。2月末に開かれたレナウンの決算説明会で、同社の毛利憲司取締役は肩を落とした。高級紳士服「ダーバン」や「アクアスキュータム」などを展開するレナウンは、単体売上高のうち百貨店向けが過半を占めるため、会社全体の足元の業績も苦戦しているようだ。

また、卒・入学式用のフォーマル服やフレッシャーズの需要で、毎年2〜3月の春先を繁忙期とする紳士服チェーンも、相次ぐ式典の中止によるダメージが計り知れない。「洋服の青山」を展開する紳士服国内最大手の青山商事は、2月の既存店売上高が前年同月比で14%減。主力であるスーツ販売の落ち込みが大きかった。

懸念は物流と生産の遅れ

2月の実績では明暗が分かれたアパレル各社だが、比較的好調だった企業の間でも「2月はなんとか逃げ切った。正念場は3月」との声が漏れる。

政府が大規模なイベントの自粛や小中高の休校を呼びかけたのは2月の最終週であり、「その前後から全国的に外出や不要不急の買い物を控える動きが顕著になった。今や仕事帰りに洋服を買っているムードでもなく、この状況が続けば3月の既存店売上高は各社軒並み前年割れとなるだろう」(中堅アパレル幹部)との見方もある。

海外生産が9割以上を占めるアパレル業界では、中国での物流や生産の遅延により、4〜5月に売る予定だった春夏商品の納品遅れも懸念されている。


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中国の縫製工場は順次活動を再開しているものの、地元政府への許認可の問題などもあり、本格稼働に至っていない工場も多いのが実情だ。たとえ商品が完成していても、中国から日本への輸送便も減便となっていることから、当初予定していた発売時期に納入が間に合わない商品が出てくる可能性や、人気商品の欠品が長引く懸念もある。

縫製をASEANの工場に移しているアパレルでも、生地やボタンなどの付属品は技術力の高い中国の工場で作っているケースが多く、それらの材料集めに時間がかかれば、商品供給の遅れを免れない。

今回のような消費者の生活防衛意識が高まる局面においては、食品や医薬品などと比べて洋服や雑貨は購買の優先順位が後回しにされがちだ。アパレルや雑貨専門店への販売・生産両面での打撃は、3月以降本格化する色合いを強めている。