「どうせ私なんて」と自己否定しがちな人に、ポジティブマインドになれる方法を紹介(写真:miSaPhotographer/PIXTA)

「自己肯定感」がブームです。書店に行くと自己肯定感に関するコーナーがあり、10冊以上の本が並びます。あるいは、ネットでも「自己肯定感を高める方法」という記事をよくみかけます。

自己肯定感には非常に難しい問題があります。自己肯定感の定義が、研究者ごとに微妙に異なるし、自己肯定感を高める方法も本によってかなり違います。

あるいは、アドラー心理学を紹介した200万部超えのベストセラー『嫌われる勇気』には「自己肯定ではなく、自己受容」。つまり、自己受容こそが重要あり、自己肯定は重要ではない、とまで書かれています。また、「自己肯定感を高める方法を実行してみたが効果がない」という人も多いはず。

加熱する自己肯定感ブームの中で錯綜する「自己肯定感」とそれをめぐる問題について、今回わかりやすくまとめるとともに、「自己肯定感を高める」ための前段階で必要なことをお伝えします。

まずは「自己否定感」を理解しよう

自己肯定感とは何でしょう? 心理学事典に載っている定義を引用すると、「自分の可能性を信じ、自分はできるんだという自信をもち、肯定的に自己を認識すること」とあります。

自己肯定感は「高い」「低い」で表現されますが、そもそも「自己肯定感が低い」というよりも、「自分はダメな人間で、自分をまったく肯定できない」という人も多いはず。それは、「自己肯定感が低い」というよりも「自己否定感」です。

「自己肯定感」の反対が「自己否定感」。自己否定感を理解すると、理解しづらい自己肯定感も腑に落ちます。

「どうせ私なんか」「自分には無理」「自分は生きる価値のない人間」「生きていてもしょうがないので死にたい」というのが、自己否定感です。

その逆、「自分にはできる」「自分は生きる価値がある」「毎日が楽しい」というのが、自己肯定感です。自己肯定感が高いか低いかではなく、まず「自己肯定感」か「自己否定感」の2つのベクトルで考えると、あなたが「どちら寄り」の人間か、よくわかるはずです。


自己否定感の強い人は、人から褒められても、励まされても、「どうせ本心じゃないし」とか「無理して言っているに違いない」とマイナスに受け取ってしまいがちです。

仕事で成功しても「たまたまうまくいっただけ」くらいにしか思わない。すべての体験に「マイナス」を掛け算している状態です。他者から承認されても、成功体験を積み上げても、まったく積み上がらない。ポジティブな言葉を口に出す「アファーメーション」を実践しても、効果が出るはずがありません。

自己否定感の強い人は、どれだけ「自己肯定」を重ねても、結果は「マイナス」となる。それが、自己肯定感が高まらない理由です。

「ありのままの自分」を認めてあげよう

なのでまずは、自己否定感をリセットして、「ゼロ」にする必要があります。その方法が「自己受容」です。

「自己受容」とは、できない自分をありのままに受け入れること。コンプレックスや欠点、短所を抱える自分、失敗だらけの自分、ネガティブの自分を、そのまま肯定し、受け入れることです。「今のままの自分でいい」「今のまま生きていい」、その感覚が「自己受容」です。


自己肯定感が高まっていくイメージ(筆者自筆)

普通の人にとっては当たり前の感覚でしょうが、子どもの頃、親から否定されたり、虐待された経験を持つ人は、「自分は生きていてはいけない存在」と思い込んでしまいます。

「自己受容」できると、「自己肯定」の世界に足を踏み入れることができる。自己肯定感を高める方法としては、「自己承認」(自分で自分を承認する)、「他者承認」(他者から承認される)、「成功体験」(成功体験を積み上げる)などの方法があり、それらの体験によって、階段を上るように自己肯定感が高まっていくとイメージするとわかりやすいでしょう。

「自己受容」というのは、「自己肯定」の世界に入るための「関所」みたいなもので、「自己受容」して「関所」を通過しないかぎり、「自己肯定」が許されないイメージです。ですからまずは、「自己受容」をして、自己否定の世界から抜け出すことが最優先です。

「アウトプット」で頭の中を浄化しよう

自己否定感の強い人は、コミュニケーションが苦手です。人に相談しないで、自分だけで悩む。また、自己表現が苦手でもあります。つまり、アウトプットが苦手な「インプット世界の住人」が多いのです。

ネガティブな感情は、吐き出さないと脳の中でループします。自分のコンプレックスや失敗体験、将来の不安が、何度も何度も頭の中をよぎる。ひどくなると、「死にたい」という考えが、頭から離れなくなれます。それを浄化する方法がアウトプットです。自分の悩みを人に「話す」だけで、スッキリした気分になることは、誰もが経験のあることでしょう。

アウトプットをすると「自己客観視」が可能になるという大きなメリットがあります。自分の気持ちを文章に書き出してみる。それを読み直すことで、「自分はこんなことを考えていたんだ」とハッとする。初めて客観的に自分を見直すことができるのです。

では、実際にあなたが「自己受容」するためには、どんなアウトプットをすればいいのでしょうか? 私がお勧めするのは、「自己受容の4行日記」です。

以前の私の記事「うつになりやすい人の意外に典型的なパターン」で、ストレスを受け流す力「レジリエンス」を高める方法として、「3行ポジティブ日記」をお勧めしました。

「3行ポジティブ日記」とは、1日の終わりに、今日あった楽しかったこと、ポジティブな出来事を3つ書く、という簡単なワークです。「3行ポジティブ日記」は、自己肯定感を高める方法としても非常に有効です。日々の体験の中の「自分ができていること」(ポジティブ体験)に気づくことができるからです。

今回、お伝えする「自己受容の4行日記」は、「3行ポジティブ日記」の前に「1行ネガティブ」を追加するだけ。「ネガティブの吐き出し」は、ストレス発散になるのですが、それだけだと「ネガティブ記憶」「ネガティブ思考」が強化されるおそれがあります。

そこで、「1行ネガティブ」を書いた後に、「1行フィードバック」を書いてください。「自分を認める1行」を追加するのです。

<書き方の例>

【1行ネガティブ】
仕事でミスをして、上司に叱られた。

【1行フィードバック】
誰でもミスすることはある。今の自分でOK!

1行フィードバック。「自分を認める1行」のほかの文例としては、

「それでいい」
「こんな自分で、いいと思う」
「まあ、そういう日もある。それでいい」
「こんな自分、悪くないと思う」
「まあいいか。次に頑張れば」

などがいいでしょう。

「そんな自分が最高」「次回、頑張ればいいや」「そんなこと、いちいち気にしてもしょうがない」と、自分を「褒める」「応援する」「励ます」言葉を書ける人は、そうしたポジティブなフィードバックをしてもいいでしょう。

しかし、自己否定感が強い人は無理なので、自分の失敗や性格やネガティブな気分を否定しない。「今の自分でOK」「それでいい」という内容の1行を書いてください。

「アウトプット」とは、「書く」ことであり「行動」です。その瞬間に、脳の配線はつなぎかわり、変化が起ります。

「書く」ことで、自己否定→自己受容→自己肯定の階段を、1段ずつ昇ることができるのです。

3行ポジティブで締めくくる

「1行ネガティブ」の後には、必ず「3行ポジティブ」を書いてください。ポジティブで締めくくることで、ポジティブな気分で眠りにつくことができる。そして、そのポジティブ感情がそのまま記憶に定着するのです。

「3行ポジティブ」の後に、今日1日を要約するようなフィードバックを書くとよりよいでしょう。「今日も、全体を通せば、楽しい1日。楽しい自分、サイコー!」のように、自分を承認、肯定する言葉で締めくくりましょう。

<自己受容の4行日記の例>

【1行ネガティブ】
仕事でミスをして、上司に叱られた。

【1行フィードバック】
誰でもミスすることはある。今の自分でOK!

【3行ポジティブ】
(1)昼、新しくオープンしたラーメン屋に行ったら、結構おいしかった。
(2)自分が提出した企画書が、意外と高く評価されてうれしかった。
(3)仕事が少し早く終わったので、ジムに行って気持ちのいい汗を流した。

【1行フィードバック】
今日も、全体を通せば、楽しい1日。楽しい自分、サイコー!

自己肯定感を高める前に、ありのままの自分を認める「自己受容」が必要である、ということです。自己否定感が強い人が、いきなり自己肯定感を高めようとしても難しいでしょう。