かつてこれほどまでに危機感を覚えた試合はあっただろうか――。

 シービリーブスカップ(SheBelieves Cup/アメリカ開催)の初戦で、日本はスペインに1−3と完敗を喫した。衝撃的なのは、スコアではなくその試合内容だ。不用意なパスミスによる失点と、その時間帯の悪さや球際の弱さ、連動性の消失……。マイナス要素を数え上げればキリがないが、重症なのは、戦術云々以前のベースにあるように見えた。

 日本は、ボールを持っている選手に素早くチェックが入るスペインのプレスを前に、スタートからあっけなく飲み込まれ、最初の失点も8分と早かった。スペインの強力な右サイド攻撃という”十八番”で先制点を献上し、序盤から相手に勢いを与えるには、これ以上ないお膳立てをしてしまった。

 スペインの最大の売り攻撃に対して、日本の左サイドバックはまだポジション経験値の浅い遠藤純(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)だった。試合前から狙われるのではないかという懸念はあった。実際、最初の右サイド攻撃からスコアを許し、その後、気をよくしたスペインは、前半だけで4度、遠藤を揺さぶって好機を作った。

 確かに遠藤の経験不足からくる判断のマズさもあったが、それ以上に全体を通して、「遠藤サイドを相手に使わせない動き」が見られなかったことが大問題だ。いろいろ改善を試みてはいたものの、一切実を結ばなかった。

 世界大会ともなれば、相手の攻撃時、かなりの確率で日本のボランチはアンカーに遭遇し、そのアンカーをケアしようとすればするほど、ボランチのポジションが下がり、対峙する人数にギャップが生じてしまう。この現象は今に始まったことではないにも関わらず、オリンピック前哨戦とも位置づけられるこの大会で、世界の強豪と初対戦したかのような脆弱さに、高倉ジャパン始まって以来最大の危機感を感じた。

 そこで打開策となってくるのが、三浦成美(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)と杉田妃和(ひな/INAC神戸レオネッサ)が担ったボランチの役割だ。だが、実際には、アンカーのビルヒニア・トレシージャを止めることも、コースを限定することもできず、スルリと交わされて自由に配球された。

 せめてボランチのどちらかで球出しのタイミングを遅らせることができれば、状況は多少変わったはずだが、2枚はがされてしまうと、守備の連動性は断絶されてしまう。

 打ちのめされた試合後の三浦はすっかり意気消沈していた。

「最初はアンカーもボランチが(マークに)ついていくって話をしていたんですけど、1枚が簡単にはがされてスペースに運ばれてしまった。さらにその後もはがされていくので、うまくいかなくて。いろいろやってみたんですけど……」

 試行錯誤の結果、後半は途中出場の田中美南(INAC神戸レオネッサ)が前線からプレスをかけまくり、岩渕が一つ下がってアンカーをケアし、ボランチも高い位置を取ったところでようやく落ち着いた。これは、FW陣の犠牲、つまり攻撃の機会を減らすリスクの上に成り立っている。もちろんそれを、三浦はよしとは思っていない。この手段は、用いていい時間帯を限らなければ、勝機にはつながらないことを彼女はわかっているからだ。

「頭の中で考えていることを、実際にやってみると距離感が広くて……。抜かれたらすぐにガチャンと(プレスに)行ける位置にいるっていう感覚を全体的に持って、もっと工夫しないといけない。(次のイングランド戦まで)時間はないですけど、改善します!」と、まずは消えてしまった連動性とポジショニングの再構築を誓った。

 大会前、ボランチの2人は互いの存在をこう語っていた。

「(杉田)ヒナさんが動き回れるように、常に自分が真ん中にいるっていう役目はしないといけないと思っています」と語った三浦に対して、杉田は「(三浦は)気が利く選手。自分が攻撃のポジションにいると合わせてくれる。運動量もあるし、強さも持っているけど、身体が大きくないので、近くでサポートしたい」と互いをリスペクトしていることは十分に伝わってきた。

 ただ、そのリスペクトが仇になっている気がしたのが、スペイン戦の2人の動きだった。どちらかの動きが甘ければ、それを指摘しなければ改善はしない。少しのズレが命取りとなるポジションだけに、細かな修正を指摘し合うことが通常でなければならない。

「(互いに)しゃべらなくはないですけど、もうちょっと要求し合ってもいいかな。遠慮している訳じゃなくて、わかっちゃうって感じなのかもしれませんけど」(杉田)

 この言葉に引っかかったのは、試合ごとに異なる相手を四方に背負いながら、しっかり話し合いもせず”感じるまま”だけのプレーで賄えるものなのか。もはや、伝説の域に達している澤穂希と阪口夢穂(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のコンビですら、ボランチとしての戦い方を、周りを巻き込みながら常に模索していた。

 プレーを比べるつもりは毛頭ない。それでもベストな状況へ持ち込むための貪欲さという点においては、若い2人には絶対的な物足りなさを感じる。本質的な意見交換は衝突を招くこともあるだろう。だが、それを避けていては何も始まらない。”リスペクト”は耳障りがいいだけに、時に体(てい)のいい逃げ道にもなる。突き詰めてこそ知ることもあるはずだ。

 スペイン戦で、千本ノックのような中盤に身を置いた90分は、2人にとって一段ギアを上げるチャンスにもなり得る。三浦と杉田のポテンシャルの高さは疑いようもない。だからこそ、それを最大限生かすためにも、殻を破って信頼を築くことが必要不可欠だ。

 当然のことながらチーム全員に必要な要素ではあるが、なかでもこの2人には強く求めたい。そうすることでチームを作り上げる中枢にいる自覚が生れることを願う。彼女たちが担っているのは、ゲームの展開を握る心臓部なのだから。