五輪前最後の国際大会で初戦黒星スタートとなったなでしこジャパン。2戦目以降の巻き返しはあるのか。写真:早草紀子

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 右後方からのクロスボール――バウンドさせていたのではシュートのタイミングがズレる。ダイレクトで触れるギリギリのポイントへ伸ばした右足が蹴り込んだボールは、GKの頭上を越えてゴールに吸い込まれていった。岩渕真奈(INAC神戸レオネッサ)は自身のシュートの軌道をジッと追う。ゴールネットが揺れたのを見届けると両手で小さなガッツポーズを作った。これが日本唯一のゴールだった。

 なでしこジャパンは6日、オリンピックを前に最後の国際大会となるシー・ビリーブス・カップ(アメリカ)の初戦でスペインと対戦。立ち上がりに完全に日本の左サイドを崩される形で失点を喫したが、エース岩渕の同点ゴールで折り返す粘りを見せた。ところが、後半にミス絡みで失点を繰り返し、終わってみれば1-3の惨敗に終わった。

「1ミリも対抗できずに負けちゃったな」。同点ゴールを挙げた岩渕の表情は冴えなかった。エースとして苦しい局面を打開する一発を決めてきた岩渕。この試合でも日本は苦しい展開に陥っていた。素早いチェックと球際の強さを押し出しながら、テンポよくパスを回していくスペインに対し、日本は後手に回り続けた。立ち上がりから中盤での攻防は劣勢。この状況を打破しようと、後半は守備意識を変えることを選手同士で確認する。

 その変化が岩渕の立ち位置だ。FWとしてはよりゴールに近い位置でボールをもらいたいが、スペインのスピード豊かな攻撃を抑え込むにはFWから一枚落ちて守備に加わることが最善の策とされた。岩渕はひとつポジションを下げるようにして献身的にプレッシャーをかけ続けた。その甲斐あってか、失点を重ねながらもピッチ内は落ち着きはじめたが、当然岩渕がゴールを窺う時間帯は激減した。膠着状態を切り抜けようとミドルシュートを放つのが関の山。77分に交代するまで、この状況を打破することは出来なかった。

 シーズン真っただ中のスペインに対し、日本はシーズン開幕前というコンディションの差は当然ある。この時期に参加する国際大会では常に痛感するが、それを差し引いてもこの初戦は少なからず失望感を覚えるものだった。コンディションや戦術以前に、球際でほぼ勝機を逃していた。そして、及び腰になり、あり得ないパスミスを連発する。スペインはそれを見逃してくれるほど甘くはなかった。
 
「相手の上手さもあって、プレッシャーに各個人がビビッてたのは絶対にあるし、自分たちで自信を失っていた」とは岩渕。1対1のフィジカル差を縮めるには限界がある。高倉麻子監督は就任当初からそこを認めつつも、「かといってそこを諦めることもしたくない」とフィジカル差を甘受することはしないと覚悟を決めていた。

 フィジカルと並行してより強みとなるもの、つまり判断力や予測力を磨き上げようと、ここまでやってきたはずだ。しかし、前半はレベルアップを目指したフィジカルはもとより、その劣勢を覆す判断力も予測力も見ることは出来なかった。

 確かに後半から相手のホットゾーンのカギを握るアンカーのトレシージャを岩渕で抑え込むという手段は効いたのだろう。岩渕に足かせをハメながらも、相手の布陣が変わったとはいえ、途中交代の田中美南(INAC神戸レオネッサ)や籾木結花(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が好機を作ったことを考えれば、ここにもひとつ活路が潜んでいそうだ。

 ただし、適材適所とタイミングを間違っては、自滅しかねない。全体の流れをしっかりと把握し、どの時間帯で誰をどう動かすのか、残り4か月の間に、ピッチ上での舵取り役を生み出さねばならない。ピッチ上に絶対的な舵取りが存在すれば、想定と異なる展開に陥った際、チームをひとつの方向に導くことはできるだろう。試合前日まで選手たちはことあるごとに戦術理解について時間を割いているように見えた。それが不十分だったのか、ポジションを超えたものに浸透していなかったのか――。

「試合に関してどれだけの選手がどれだけ準備をしていたかと言われたら、チーム全体として準備不足だった感は否めない」
 自戒の念も込められた岩渕のこぼした言葉は重い。

取材・文●早草紀子