現地時間2月29日、サウジアラビアの首都リヤドにあるキングアブドゥルアジーズ競馬場で、同国としては初となる、アラブ圏を越えての国際招待競走が開催された。

 同日はサウジカップデーと称され、開催のメインとなるサウジC(ダート1800m)を含めて、国際招待競走が7レース、計8競走が行なわれた。サウジCにおいては、賞金総額が2000万USドル(約22億円)、1着賞金1000万USドル(約11億円)という、超破格の高額賞金が設定され、大きな話題を集めた。

 今回、日本からは計5頭が参戦。サウジCにゴールドドリーム(牡7歳)とクリソベリル(牡4歳)、ナギモーターズC(芝2100m)にディアドラ(牝6歳)、サウジダービーC(ダート1600m)にフルフラット(牡3歳)、サウジアC(ダート1200m)にマテラスカイ(牡6歳)が出走した。


芝2100m戦のナギモーターズCに出走したディアドラ

 この中で最も期待されたディアドラは、完全な勝ちパターンに持ち込みながら、後方で脚をタメていたバーレーンの調教馬ポートライオンズ(牡5歳)との激しい攻防の末、2着に敗れた。同競馬場で行なわれた初の芝レースにおける勝者として、その名を刻むことができなかった。

 代わって、見事な勝利を収めたのが、3歳馬限定のサウジダービーCに挑んだフルフラット。武豊騎手が騎乗し、直線で楽々と抜け出して、日本馬唯一の戴冠を遂げた。

 そして、ダートスプリント戦のサウジアCでも、武豊騎手騎乗のマテラスカイが2着と好走。メイン競走のサウジCでは、ゴールドドリームが6着、クリソベリルが7着に終わったものの、アメリカの強豪馬相手に奮闘し、それなりに存在感を示した。

 さて、今回行なわれた7つの国際招待競走において、純血アラブのレースを除き、3つの芝レースは、バーレーン調教馬が2勝、フランス調教馬が1勝、ダート戦3レースは、日本調教馬、アメリカ調教馬、サウジアラビア調教馬が、それぞれ1勝ずつを挙げた。

 サウジCは、早くからその高額賞金が話題となって、アメリカを中心に超ハイレベルなメンバー構成となった。実際、日本からも年末のGIチャンピオンズC(中京・ダート1800m)を制したクリソベリル、同2着のゴールドドリームと、現役トップの座を争う2頭が出走している。

 そのほか、芝3000m戦のターフハンディキャップには長距離レース界のビッグネームが集まったが、それ以外のレースは、一線級の馬が顔をそろえたとは言えず、初開催への”偵察”といったメンバー構成となった。おかげで、ここに標準を合わせてきたバーレーン勢の台頭を許した印象だ。

 サウジアラビアにおける近代競馬の始まりは、今から55年前と、世界的に見れば、その歴史は浅い。もともとアラブ馬による競走が主流で、王族の愉しみとして、極めてドメスティックに行なわれてきた。

 しかし、21世紀を迎える頃にはサラブレッドが導入され、以降はサウジアラビア国内でも、サラブレッドの生産に力を入れるようになった。今では、中東エリアでは、断トツのサラブレッド生産国となっている。

 そんなサウジアラビアで、国際招待競走が行なわれるとアナウンスされたのは、およそ2年前。その一報は、競馬界に限らず、世界的なビッグニュースとなった。近年では、隣国UAEで開催されているドバイワールドカップデーなどに自国の調教馬を送り出すようになっていたが、サウジアラビアと言えば、観光ビザの発給がなく、「世界で最も入国するのが難しい国」と言われていたからだ。

 さらに、驚きを持って伝えられたのは、先にも触れた賞金額。メイン競走となるサウジC、そのひとレースの賞金総額が世界最高の2000万USドルになるとされ、世界中の競馬関係者に大きなインパクトを与えた。

 なお、当初は昨年の開催予定だったが、昨年秋の訪問ビザ解禁を待って、1年先送りして開催されることになった。その間、最初は計画になかった芝コースの整備も行なわれ、サウジCだけでなく、複数の国際招待競走が行なわれるカーニバル開催となった。

「この開催を通じて、サウジアラビアの競馬の発展に努めたい」

 そう語るのは、リヤド競馬クラブのアドバイザーであり、公式アンバサダーのハリー・ハーバート氏だ。以前は、凱旋門賞馬トレヴなどを所有するカタールのアルシャカブレーシングのマネージャーだったが、昨年6月よりこの職に就いた。

「今回は、サウジアラビア以外に世界10カ国から競走馬が集まり、競馬が行なわれている世界中の国々にレース中継もされています。そんななかで、サウジアラビアの調教馬も勝利したほか、いろいろな国の馬が活躍。これによって、より多くのホースマンがこの開催に興味を持ったことでしょうし、世界の競馬カレンダーに、確実に刻まれたはずです。

 ドバイと勝負をする、というつもりは一切ありません。いい関係を保ちつつ、同じように発展していければと思っています」

 レースを終えた騎手たちからは、「ダートは走りやすいけど、力を消耗する」「芝は、終(しま)いが意外と伸びにくい」など、さまざまな感想が聞かれたが、コースについての評価は「走りやすい」と、概ね好評だった。

 時期的にも、おおそよ3月末に開催されるドバイワールドカップデーへとつながるベストのタイミングで、世界の競馬サークルに向けてのローンチは、まずは大成功だったと言える。

 ただ一方で、王族の”鶴のひと声”によって、レース名が開催直前までに何度も変わったり、関係者への対応が後手に回ったりといった不備も見られた。観光客を迎えて開催するにしても、まだまだハードルが高い。 また、”王族の施し”があってこそ、という点は否めず、興行として成熟させていくためには、そこが大きな課題となる。その辺りは今後、王族関係者と時間を重ねながらうまく調整していく必要があるだろう。