子育て系のライター稼業をしていると、ママたちのパパヘ対する不平不満が山のように集まってくる。その最大かつ最初の山場は、出産後の「お客さん感」だ。

産後の疲れと不安、総じてストレスが膨大なママに、寄り添いや共感がなく、育児や家事にも関わらない。たまーにごみ捨てや風呂入れをすればイクメン気取りでゲンナリさせられるというもの。ママはこの時期にされたことをいつまでも覚えている(恨みにもっている)から、50年の夫婦関係は産後1年で決まると言ってもいいだろう。

だからパパも育休を取ってくれたなら、育児・家事の大変さが分かってくれるんじゃないか……と期待を寄せれば、今年1月、「取るだけ育休」なる「育休名目で趣味や遊びに興じる単なる休暇」の実体が世間をにぎわせた。

一部のパパだけだと信じたいが、このままじゃ日本のパパはダメレッテルを貼られてしまうよ……。
そんなため息をついていたら、有意義な過ごし方を実践された「理想の育休」の一例を取材することができた。

スウェーデン大使館で開催された講演「父親の育児休業取得〜経済効果へのカギ〜」にて登壇していた、積水ハウス埼玉南シャーメゾン支店(当時)総務長の大村孝史さんである。さっそく家族が喜ぶ育休にするコツを聞いてきたのでお伝えする。

■正しい育休には、会社の「しくみ」と後押しが必須


大村さん自身、「『取るだけ育休』にならなかったのは、会社の体制によるところが大きいですね」と振り返る。


過去、何度もニュースで取り上げられたこともあるからご存知の方もいるだろう。積水ハウス株式会社 代表取締役社長である仲井嘉浩氏は、「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というスローガンを掲げ、3歳未満の子を持つ社員の父親に1ヵの育児休暇を取るよう推奨する「イクメン休業制度」を2018年9月にトップダウンで始めた。

顧客の満足度を上げるために、まず従業員と家族の満足度を上げるという命題を叶えるため、社員の誰かが抜けても組織が回るガバナンスを強化する、という狙いがあった。

社内の育休取得該当者はリストアップされたというから、「推奨」とはいえ、半ば辞令のようでもある。その圧と「育休中は減額なしの有給扱い」「育休を取った社員のボーナスや昇給昇格に影響なし」などの給与とキャリアの担保があったことが大きいだろう。

■「取るだけ育休」にしないための家族ミーティングシート


該当者リストには大村さんの名前もあった。
「私が抜けると業務が回らないのではと不安でしたが、主任も自分の成長のために前向きでしたし、課員の3人はみな育休を取った女性たちだったので、背中を押してくれました」。

大村さんは当時1歳1ヵ月となった第二子の育休に入る前に、2ヵ月の準備期間を設けている。その間は週に2〜3時間程度をさいて、まず日々の業務の棚卸に取りかかった。ひとつずつの業務を吟味してスリム化し、他部署への分業化、主任を代行として引継ぎをしていった。

家庭では「家族ミーティングシート(※以下参照)」をもとに、妻と話し合いが持たれた。いわば家事・育児の棚卸で、妻と意識のすり合わせをしていったのである。


↑家族ミーティングシートは、育休明けの父親からフィードバックを得て日々ブラッシュアップされている、積水ハウスオリジナル。「見えない家事」もタスクに記されており、現状と育休中、育休終了後とフェーズも分けられているので、子育て世代の育児・家事分担表としても使える。

なお、「家族ミーティングシート」は一般公開されており、誰でも使ってよいとのこと。下記からダウンロード可能だ。
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/pdf/meeting-sheet.pdf

その後、会社へ「取得計画書」を出す。書類には、担当業務の引継ぎ内容、フォロー担当者とフォロー計画、家族ミーティングシートで得た「休業中の家事・育児について家族で話し合った内容」を記入する欄がある。最新バージョンには妻の署名欄が設けられ、家庭内での合意を証明するようになっている。

支店と家庭で行う綿密な下準備。
ここまでしてようやく、正しい育休の「計画」が整うのである。

■あっという間に過ぎる1日



大村さんの子育ての1日はあっという間に過ぎていったという。
朝は5時半に起き、朝食を済ませて準備を終えると公園や児童館に出かける。なかなか帰りたがらず泣き叫ぶ子どもを無理やり車に乗せるときは「誘拐だと思われたらどうしよう」と心配になった。

午後4時に帰宅して風呂に入り、長女の髪を乾かしながら「今日の出来事ベスト3」を聞くのが一番の楽しみとなった。5時半から夕食を食べさせ、6時半には寝かしつけを始める。育休復帰後に報告書を提出する義務があるため、日記をつける。育休の後半は、父親のワンオペ時間もつくった。

「予防接種の日は1日がかりで親子ともヘトヘトになるし、子どもはすぐ風邪をひくし、グズると何をやってもダメ。これらをすべて妻に任せてはいけないと思いました」。

父親でも育児中に感じることは母親と同じなのだ。そして最後のフレーズ、“これらをすべて妻に任せてはいけないと思いました”、これをぜひとも自分の夫の口から聞いてみたい、大村さんの爪のアカを煎じてお客さんな夫に飲ませたい、という妻たちは多いのではないだろうか。

私たちは「育児へのわかりみが深い状態」があれば、それをベースに夫と信頼関係を築けるのだから。

■育休を終えたら三方良しだった


育休を取って良かったことは多々あったという。課員一人ひとりのスキルが上がり、支店内のコミュニケーションが円滑になり、業務の効率化が進んだ。子どもが熱を出したら、心から同情できるようになった(ちなみに大村さんは復帰後3日で家族がノロに)。

育休後に復帰してくる母親たちへの声がけにも気持ちが入る。「1ヵ月の育休でも、復帰するときは私の居場所はあるのだろうかと心配になりました。それが1年だとしたら不安はもっと大きいですよね」。

これから育休を取ろうと思っている父親たちにもぜひ勧めたい体験だ。「自分が上司になった時に部下へノウハウを教えられるチャンス。絶対仕事のプラスになると伝えています。子どもと一緒にかけがえのない時間を過ごすことができるし、父親としての責任が生まれる。何より家族との絆を深めることができます」。
大村さんにとって価値観が大きく変わった1ヵ月だった。

■いきなり文化は根付かないからガイドが必要



夫と妻の分断を深める「取るだけ育休」だが、そもそも会社の管理が及ばない育休の場合、経験のない夫の自主性だけを頼るのは無理がある。例えるなら、泳げない夫を海原に落とし、「さあ、最速で泳げ!」とやっている面も否めない。途方にくれた大多数は浮き輪につかまってただプカプカしているのである。

すでに全速力で泳げる妻は、動かない夫にイライラするだろう。だが、育休を取る気になった夫は希望だ。会社の後押しするしくみがなければ前述の「家族ミーティングシート」を使い、家事・育児業務の棚卸と共有をしてみてはどうだろうか。

「父親たちは最初、子育てに戸惑ってしまうので、妻が具体的に伝えてあげるといいと思います」。

子どもだけでなく夫も育てるのか……。とゲンナリするが、最初はガイドが必要なのである。

大村さんは育休が終わって妻からこう言われた。

「育児はまだ終わってないよ」。

会社を休む1ヵ月は長いが、育児期間としては短い。
だが育休で得た気づきは大村夫妻の共通言語となり、これから壁が現れたとしても協力して乗り越えられるはずだ。育児の正念場であり修羅場を助け合えた夫婦は、今後もそれが当たり前の関係になる。ママたちの理想を実現させてほしい。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。