2020年の米大統領選挙がいよいよ本格化するなか、小売各社はさっそく政治色を打ち出している。2月下旬、複数の小売業者が、目下の政治的な議論に関連する各種のイニシアチブを発表した。たとえば、女性候補者に支援を提供したり、従業員に投票休暇を約束したりと、ブランドはソーシャルイシューに対するスタンスの表明を恐れなくなりつつある。

そうした戦略の代表例が、ナイキ(Nike)のコリン・キャパニック選手を起用したキャンペーンであり、世間や業界からは過激とも勇敢とも受け止められた。2018年後半にこの元NFLプレーヤーを起用した最初の広告がリリースされた直後、同スニーカー大手の利益は10%も伸びて8億4700万ドル(約910億円)にのぼった。

当然ながら、「社会的理念」とブランドロイヤルティのあいだには関連性があるとの結果を多くの研究が示している。先ごろ公開されたハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)の調査によると、企業のソーシャルスタンスやアドボカシー活動に対する顧客の意識は高まっているという。調査では、「ジョーンズ・コープ(Jones Corps)」という架空の食品サービス会社について、参加者の半分には同社を保守寄りの企業と紹介し、もう半分には進歩的な価値観の企業だと教えたところ、リベラル寄りの企業のほうが好意的に認識されるという結果が出た。右寄りの企業だと教えられた「参加者のジョーンズ・コープに対する評価は33%低下し」、同社は「社会的責任やコミュニティへの貢献度が低い」だけでなく「収益性も低い」企業とみなされたという。

かつて大統領選に出馬した女性政治家のヒラリー・クリントン氏やカーマラ・ハリス氏(2020年大統領選の民主党候補指名争いからすでに撤退)も着用した女性用ワークウェアブランド、アージェント(Argent)のCEOを務めるサリ・クリストソン氏は、小売業者は政治と距離を置くべしという、かつて主流だった考え方は流行遅れになりつつあると話す。「我々ははじめから、自分たちが何者で、どのような立場をとっているかを明確にしてきたので、物議を醸すことを恐れない」と、クリストソン氏はいう。「最近では、自分たちのソーシャルスタンスを明確にしないと、消費者からまっとうな企業でないと見られる」。

若いブランドのほうが「反体制の陣営に加わる」ことは容易かもしれないが、そうすることで一部の顧客を遠ざけるリスクは、むしろ大手の小売業者のほうが懸念材料になりにくいはずだと、クリストソン氏はナイキのアクティビズムを基軸としたマーケティングを例に挙げた。

自社を特定の政党や政治的ポリシーに結びつける動きはリスキーに思えるかもしれないが、リベラルな価値観を打ち出してもアージェントを支持してくれる忠実な顧客をつなぎとめるほうが得策だとして、クリストソン氏は次のように話す。「かつては触れてはいけないタブーとされていたことが、いまではどんな業界指標も上回る一定のロイヤルティを生み出している」

大きな顧客層における政治観の変化、とりわけ若年層での変化を、小売業者の幹部たちは特に感じとっていて、それが彼らを政治的ポリシー支持の流れに駆り立てていると、クリストソン氏は説明する。たとえば2019年夏に、複数の消費者向けスタートアップのCEOが署名した書簡が公開された。「Don’t Ban Equality」(平等を禁じるな)と題し、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に広告掲載されたその書簡は、中絶の権利を擁護する内容だった。署名者には、ワービー・パーカー(Warby Parker)、ポストメイツ(Postmates)、スラック(Slack)、バーチボックス(Birchbox)、エバーレーン(Everlane)、グロッシアー(Glossier)といったブランドの経営トップが名を連ねる。「中絶を含む包括的な生殖医療へのアクセスを制限することは、我々の従業員と顧客の健康、独立、経済的安定を脅かすものだ」と書簡は訴えた。

ほかにも、政治的議論に対して自らの見解を示した小売業者5社の例を紹介する。

ウォルマート(Walmart)

この2月、企業連合「Time to Vote」(タイム・トゥ・ボート)に参加する2020年のメンバー企業が正式発表された。複数のカテゴリーにまたがる小売業者が、有権者登録キャンペーンや有給休暇を通じて、従業員が2020年の大統領選の投票に行くことを促す取り組みを約束している。その輪に加わったのが、従業員の賃上げに抵抗しているウォルマートだ。この米最大の小売業者のほかにも、ベスト・バイ(Best Buy)、ターゲット(Target)、ディックス・スポーティング・グッズ(DICK'S Sporting Goods)、ギャップ(Gap)、グロッシアー、リーバイ・ストラウス(Levi Strauss & Co.)、またテック業界からはリフト(Lyft)やペイパル(PayPal)などがメンバーに名を連ね、参加企業の数はさらに増え続けている。

エムエムラフルアー(M.M. LaFleur)

民主的プロセスへの関与という小売業者の差し迫った課題は、今年の大統領選の立候補者、なかでも女性に対するリソース支援にも波及している。たとえば、女性用ワークウェアのエムエムラフルアーはこのほど、公職選挙に立候補する人に無料で自社の服を貸し出すと発表した。「大統領の日」の祝日(2月第3月曜日)に合わせて顧客に宛てた電子メールで、CEOのサラ・ラフルアー氏は次のように述べている。「女性代表者の比率が服で大きく変わるとは言わないが、ほんの少しでも手助けになるよう、私たちにできることをしたいと思う」。

選挙に出馬する女性を支援する超党派の非営利団体「She Should Run」(シー・シュッド・ラン)が支援するこの貸与プログラムには、米下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏をはじめ、米国各地の地方選挙に出馬する候補者たちからも賛辞の声が寄せられた。

ユニバーサル・スタンダード(Universal Standard)

エムエムラフルアーが服の無料貸与を発表した直後、インクルーシブなアパレルスタートアップのユニバーサル・スタンダードもこれに追随し、同様のプログラムを開始すると発表した。選挙立候補者に衣料品を無料で貸し出し、サイズ00〜40(4XS〜4XL)まで対応するという。「また言うまでもないが、当社の服を着たい選挙の立候補者は誰でも、ジェンダーを問わず声をほしい! 誰もが着るもので最高の自分を演出し、自信がもてるよう、みんなで応援しよう」と、同社はコメントしている。

パタゴニア(Patagonia)

環境的に持続可能な取り組みで知られるパタゴニアの創設者、イヴォン・シュイナード氏は2019年、同社は気候変動に対してもっとも強力な政策を打ち出した候補者を支持すると約束した。「我々は予備選挙では静かにしているが、大統領選ではすこぶる活発に動くつもりだ」とシュイナード氏はファストカンパニー(Fast Company)に語っている。「多額の費用を投じて、気候変動の否定論者を選挙で落とすよう呼びかける。否定論者だけでなく、中立的な立場の候補者もみな選挙で落とすべきだ。彼らは地球を破壊しようとしている悪であり、我々はそれに与しない」。

アールイーアイ・コープ(REI Co-Op)

ブラックフライデーのセールに先立つ2019年10月、顧客に宛てた書簡のなかで、アウトドア用品会社アールイーアイ・コープのCEOエリック・アーツ氏は、いくつかの環境に配慮したイニシアチブを発表。その年、若きアクティビストたちが連帯する姿に刺激を受けたアーツ氏は、自社でもゴミや包装の削減など、環境にやさしい小売戦略に取り組むと説明した。「我々は小売業の未来を再考し、ユーズドまたはレンタル用品の選択肢を増やすことで、アールイーアイのメンバーのみなさまに循環型経済に参加していただける方法を検討している」と、アーツ氏は書簡で述べる。「今後は、自社事業ならびに米国の各地域におけるゴミの削減に取り組んでいく。同時に、この業界における過剰な包装をなくす取り組みをいっそう強化する」。

Gabriela Barkho(原文 / 訳:ガリレオ)