「あなたもガチョウを飼ってみる? PCの画面で楽しめる「Desktop Goose」がもたらす効果」の写真・リンク付きの記事はこちら

いまこうして文章を入力しているあいだも、ドット絵の小さなガチョウはPCの画面を動き回っている。くだらない画像をデスクトップにドラッグしてきたり、Google ドキュメントのいたるところに泥んこの足跡をつけたりしているのだ。

画面のなかは、どうしようもない感じのアニメーションだらけになっている。ガチョウがパイプをふかしながら、得意げに池にぷかぷか浮いているといった具合だ。

最後の文章を書き終えてピリオドキーを打つと、ガチョウは待機状態になっていたマウスポインターに向かって突進してくわえると、頼んでもいないのにスクリーンの外へと運んでいってしまった。そしてガーガーと鳴き続けている。「Goose ‘Not-epad.’(ガチョウのメモ帳)」という名のポップアップウィンドウが現れると、そこには「am goose hjonk.(わたしはガチョウのガー)」と書かれていた。

あの人気ゲームに着想を得て誕生

ガチョウが主人公の人気ゲーム「Untitled Goose Game」をプレイしたことがあるなら、こうしたいたずら好きのガチョウとは愛憎入り混じった関係にあるのではないだろうか。Untitled Goose Gameは、19年9月にリリースされたパズルゲームだ。その内容とは、いじわるな1羽のガチョウがイギリスの田舎を舞台に、何も知らない庭師や村人にくだらないいたずらを仕掛けて驚かせるというものである。

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このゲームのリリースから4カ月後、ひとりの開発者が新たなガチョウをデスクトップ画面へと解き放った。それが、Windowsアプリ「Desktop Goose」である。

Desktop Gooseを開発した18歳のサム・チエットは、「1羽のガチョウがもつ控えめなアナーキーさには、憧れに近いものを感じます」と言う。ちなみに、彼はUntitled Goose Gameを開発したゲーム開発会社のHouse Houseとは何の関係もない。「Untitled Goose Gameは、内気な人間がパワーを手にできるファンタジーだと誰かが言っていました。まさにその通りで、わたしはマイルドにいたずらをして誰かを困らせたいのです」

Desktop Gooseは、とても簡単に飼い始めることができる。アプリをダウンロードし、ファイルを解凍して起動すればガチョウがデスクトップに放たれる。最初はそれほどイラつかないが、それはガチョウが画面上に引きずってくる小さなウィンドウがどんどんたまって重なり合い、片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵がうんざりするほど散らかったことに気づくまでの話だ。

インタラクティヴなデザインの一環

とはいえ、このガチョウは難なく追い払うこともできる。「esc」キーを押せば、いたずら好きのガチョウはよたよたとした足取りでスクリーンの外へと歩き去っていく。これですべて元通りだ。

チエットは数カ月前から、Windowsのデスクトップだけで実現できるインタラクティヴなデザインはないかと思案していた。発想を得るために参考にしたのは古典的なソフトウェアだ。例えば、1990年代に登場したフリーウェアのデスクトップ仮想アシスタント「BonziBuddy」や「Prody Parrot」、そして「Microsoft Office」に搭載されていたデジタルアシスタント「Clippy」だ。

そうこうしているうちに、ガチョウがぴったりだと気づいた。ガチョウがデスクトップにいたとしても、それなりに小さいので、ちょっとのあいだなら作業に集中できる。タスクを完了することだって可能かもしれない。それでいて目障りでもあるので、しばらくするとイライラしてくる。

ガチョウが引きずってきた1枚のウィンドウには、「nsfdafdsaafsdjl asdas sorry hard to type withh feet(……ごめん、この足でタイプするのは難しい)」と書かれていた。別のウィンドウには「わざと問題を起こすのが好き」というメッセージが書かれている。

Windowsの基本機能を転用

チエットは、わずか数日でDesktop Gooseを開発した。それをインディーゲームのサイト「Itch.Io」で公開すると、90分も経たずにダウンロード数は500回を超えた。ガチョウの行為には当惑させられるが、チエットによれば、その動作のために利用しているのは基本的なWindowsの機能である。それを「ありそうにないやり方」で使っているだけだという。

例えば、どんなアプリでもWindowsユーザーのマウスの位置を動かし、ユーザー補助機能などを使うことが可能になっている。ゲームソフトなら、マウスの位置をスクリーン中央に戻すこともできる。

「どこかの見知らぬ18歳の若造が、勝手に『この値を毎秒120回に設定して、小さくてわずらわしいガチョウがマウスポインターをかじれるようにしよう』と考えて実行するなんて、思ってもみなかったはずです」と、チエットは話す(その値とはつまり、マウスの座標のことだ)。

VIDEO BY SAM CHIET

ガチョウが示唆していること

とはいえ、このふざけたアプリに警戒心を抱く人は、あなただけではない。わたしたちがやりとりしているあいだも、チエットのところには「Desktop Gooseをダウンロードしたらウィルス対策ソフトが起動した」という苦情のメッセージが届いていた。

チエットによると、Desktop Gooseのようなアプリの人気が低下したのは、わたしたちがコンピューターを安全に使用していることも理由のひとつだという。インターネットの危険性に対してPCのセキュリティが一段と向上している状況は、根本的には好ましいことだ。しかしDesktop Gooseは、誰もがちょっと慎重になりすぎではないかということを、それとなく示唆している。

「昔のホームページのように開くとMIDIの曲が自動再生されたり、定型の『工事中』ページが派手に動いたりするなど、ごちゃごちゃした時代に戻ってしまうのはショッキングですよね。でも、何かが失われてしまったような気がするんです」と、チエットは言う。「わたしはもしかしたら、愉快なデスクトップ仮想アシスタントや仮想マネジャーを復活させるという皮肉じみた状況や、それに続く脱アイロニーの最前線にいるのかもしれません。そうした可能性も十分にあると思います」

Desktop Gooseは面倒な存在だが、どんなペットでもそうであるように、結局は心に深く根差した孤独感を埋め合わせてくれる。たとえガチョウがマウスポインターを追いかけ回そうと思ったり、画面に泥んこの足跡が残っていたほうがいいと考えていたりしてもだ。