今回は厳密にいうと塗装ではないのだが、関連する話題として、標記類の話を書いてみようと思う。単にさまざまな色で塗り分けられているだけではなく、運用あるいは整備などの関係から、意外とさまざまな標記が施されている。

○運用に関わる標記

まず、剣呑でないところでは、「操作説明」がある。わかりやすいところでは、旅客機の乗降用扉に、「開け方」と「閉め方」が書かれていることがある。日本のエアラインで使用する機体なら、英語だけでなく日本語で。

JALが導入したA350-900のドア。「開け方」は日英双方で書かれているが、なぜか「閉め方」は英語だけ

ちなみに開け方だが「1. 下部のカバーを開けてハンドルをにぎり」「2. ハンドルをいっぱいに上げる」となっている。では閉め方はというと、こちらのほうがややこしい。英語で書かれているものを日本語訳すると、こうなる。

ハンドルをいちばん上まで上げる。

扉を動かして、機体フレームに接するところまで閉じる。

ハンドルを使って扉を下げる(閉める)。

ハンドルとハンドルのカバーが、完全に機体と面一になっていることを確認する。

手順を間違えて「半ドア」の状態で飛び立ってしまったら大変だ。もちろん、そんな時はちゃんと警告灯が点くはずだが。

その昔、英語で注意書きを書いてあったら、英語が読めない地上作業員がいて、貨物室扉がちゃんと閉まりきらない「半ドア」の状態で飛び立ってしまった飛行機があった。その結果、高度が上がって機体の内外圧力差が限界に達したところで、その「半ドア」の貨物室扉が開いてしまい、墜落事故に至った。だから開閉の手順だけでなく、注意書きも大事なのである。

あと、軍用機限定だが、レスキューアローというものがある。矢印の形をした囲み線の中に「RESCUE」と書かれている、あれだ。その矢印が指している先に、外からキャノピーを開ける際に操作する仕掛けが組み込まれている。

例えば、事故機、あるいは緊急着陸した機体のパイロットが意識を失っていて、自ら脱出できない場合。外から救出するにはキャノピーを開けなければならないが、その際に開け方がわからないのでは困る。

面白いのはF-35で、キャノピーを開けるだけでなく、キャノピーの透明部分を切り開く選択肢も用意してある。ただし、キャノピーのフレームには「フレームから3インチ(76.2mm)以内のところを切るな」という注意書きがある。

次に、保守整備に関わるところで、クレーン吊り上げ点の指示。エンジンなど、機体に取り付けられている機器、あるいは機体の一部分を取り外して、クレーンで吊り上げて運ぶことがある。その時、吊り上げ用のワイヤーをつなぐ場所はちゃんと決められているので、そのための標記が必要になる。

保守整備に関わる注意書きといえば、「NO STEP」も該当する。機体構造が弱い部分など、人が乗って踏んだらまずいところに書かれている、整備員向けの標記だ。「通って良い場所」を示す標記を主翼上面に描いている事例もある。

○注意喚起のための標記

「何をいまさら」といわれそうだが、飛行機は危険がいっぱいである。例えば、エンジンが動いている時に空気取入口の近くに立っていたら、吸い込まれてミンチになってしまう。排気口の近くにいれば、排気で吹き飛ばされる可能性があるし、そもそも排気ガスは熱い。

というわけで、以下のように「立入禁止エリア」の標記をエンジンカウルに施している事例がある。

A350-900のトレントXWBエンジンで、カウルに施してある「危険エリア」の標記

エンジン絡みだと、タービンラインの標記もある。エンジンのうち、タービンがある部分の機体外側に、それを知らせるための線を1本、縦に描いてあるというものだ。軍用機で見られるものだが、すべての機種でやっているわけでもないようだ。

それのバリエーションで、ターボプロップ機だと回転するプロペラがあることから、胴体側面にプロペラ回転面の位置を示す赤線を描いている事例もある。

着陸するE-2Dアドバンスト・ホークアイ。プロペラの真横・胴体側面に、赤い縦線があるのがおわかりだろうか。これがプロペラ回転面を示す警告線

軍用機だと、空気取入口のところに「JET INTAKE DANGER」という矢じり型の標記を施している事例がある。昔は注意喚起のために赤などの目立つ色で描かれていたが、今は低視認性化の波に押されてグレーになってしまった。

もうちょっと穏やかな種類の注意喚起で、エアデータ検出用の静圧孔みたいに凍結防止のヒーターが組み込まれている部位の「HOT」あるいは「DANGER HOT」標記もある。

軍用機は民間機以上に「危険がいっぱい」である。その一例として挙げられるのが射出座席。なにしろロケット仕掛けで座席を上に撃ち出すというものだから、取扱注意である。地上に駐まっている機体で、なぜかいきなり射出座席が作動してしまった、なんて事故が実際に起きている。

そこで登場するのが、「射出座席危険」の標記。「EJECTION SEAT」の文字を三角形で囲み、その三角形の各辺の外側に「DANGER」と書いてある。これも昔は赤で書かれていたが、今は低視認性化の波に押されてグレーになってしまった。

F-35Aの機首。射出座席の警告標記、射出座席警告の三角がレスキューアロー、といったものが見て取れる。日本やオーストラリア(写真)は空気取入口の側面に国籍標識を入れているので、空気取入口両側面の警告標記はない。アメリカだと国籍標識は機首側面なので、空気取入口両側面の警告標記がある

普通、この三角形は射出座席のところに見られる程度だが、これがやたらと付いているのがF-35。この「DANGER」の三角形が、機首の両側面(これは射出座席に対応)だけでなく、後部胴体の下面に4ヶ所もある(F-35Aの場合)。どうやら、統合動力パッケージ(IPP)など、高温の排気が出てくる場所に、みんなつけてあるようだ。

それに加えて、三角形はないが「DANGER ARRESTING HOOK」という標記が2カ所もある。空母に降りるF-35Cはいうに及ばず、陸上型のF-35Aでも緊急着陸に備えて、F-35Cのものよりは簡素だが、地上の制止用ワイヤーにひっかけるためのフックを内蔵している。

そのフックは、胴体下面の扉を開いて降ろす仕組みになっている。普段は内部に隠れているので、注意喚起の標記を施したのだろうか。なお、F-35Bだけはフックがないので、フックの注意喚起標記もない。

○標記類を見るには

なお、こうした標記類を間近に見る機会はあまりなくて、特に民航機の場合にはその傾向が強い。軍用機のほうが却って、基地の一般公開で地上展示される機体を見られるから有利である。

しかし何事にも例外はある。中部国際空港(セントレア)の「FLIGHT OF DREAMS」で1階の「フライトパーク」に入場すると、ボーイング787初号機に書かれている標記類を間近に見ることができる。普通なら見られない、エンジンナセルの下面に書かれている標記類だって見られる。

「FLIGHT OF DREAMS」に展示されている787初号機は、誰でも標記類を間近で見られる貴重な存在。これは2番エンジン下面のもの

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。