福田正博 フットボール原論

■2020年シーズンのJリーグは、どんなトレンドが見られるのか。開幕節から見えてくる傾向を、元日本代表の福田正博氏が解析した。


積極的なハイプレスで横浜FMに勝利したG大阪

 今シーズンのJリーグは『激しく、フェアで、エキサイティングな試合』を目指しているが、開幕カードはそれをしっかりと具現化していたように感じた。

 どの対戦カードも見応えのある楽しい試合だった。『ボールポゼッションを志向するチーム』vs『カウンターを狙うチーム』のカードが多かったことも、試合が盛り上がった要因のひとつだろう。

 今季から導入されたVARも有効活用されていた。横浜F・マリノスvsガンバ大阪では人間の目ではとらえ切れないシーンでその効力を発揮した。

 G大阪の選手5人がオフサイドポジションにいたなか、中盤から飛び出してきた倉田秋にパスが渡り、その折り返しから2点目のゴールが決まったが、普通に見ていたらオフサイドにも見えてしまうシーンだった。いままでは人間の目だけだったところに、テクノロジーの目が増えたことで、禍根を残す判定は確実に減るはずだ。

 開幕戦では今シーズンの審判の判定基準も表われていた。今季はインテンシティー(プレー強度)の高いプレーを増やしていくために、球際で激しく当たっても審判が笛を吹いて流れを止める回数が昨シーズンより少なくなっていくことが予想される。

 実際、開幕節では昨年までなら笛が鳴っていたような少し激しいチャージに対して、審判がファウルを取らないケースがあった。このため、前線からハイプレスを実行したチームが、ボールを奪ってゴールにつながるシーンが多く見られた。こうした判定基準のマイナーチェンジが、自陣からボールをつなぐスタイルのチームが苦戦した要因になったと考えている。

 コンサドーレ札幌は柏レイソルに敗れ、川崎フロンターレはサガン鳥栖に引き分け。横浜FMはG大阪に敗戦。ヴィッセル神戸も横浜FCと引き分けている。

 前線からハイプレスを仕掛けた場合のリターンが昨シーズンよりもあると考えれば、DFラインからボールを回しながらビルドアップしていくチームに対して、積極的にプレスを仕掛けてくるチームが増える可能性が高い。

 横浜FMのようにボール保持率の高いチームは、DFや守備的MFがボールを持ったところをさらに狙われるようになるだろう。ただし、そこでミスをすれば失点に直結する反面、攻守表裏一体なのがサッカーの醍醐味で、プレッシングを剥がすことができれば広大なスペースがあるため得点のチャンスが一気に高まる。

 こうした攻防は、切り替えの速いエキサイティングな試合展開を生むだけではなく、各クラブが切磋琢磨することになり、Jリーグのレベルをさらに押し上げることになるはずだ。

 開幕カードでもっともエキサイティングな試合になったのが、公式記録で両チーム合わせてシュート数が44本だった柏レイソルvsコンサドーレ札幌戦だ。結果は4−2で柏が勝利したが、こうした打ち合いの展開が、観る人を魅了した。

 柏が勝ち点3、横浜FCはヴィッセル神戸と引き分けて勝ち点1と、J2からの昇格組が勝ち点を手にしたことで、今季のJ1が面白くなる予感がしている。現実的に見れば横浜FCは残留を目指すシーズンになると思うが、柏はTOP4を狙う力があり、「J2から昇格したチーム」という見方をしたら対戦相手は痛い目に遭うはずだ。

 その柏に今季のJリーグを席巻しそうなFWがいる。それがケニア出身のオルンガだ。昨年から柏に在籍しているが、ネルシーニョ監督の下で1年間鍛えられたことで別格の存在になった。

 193cmと高さがあるのでモサッと動く印象を持つ人もいるかもしれないが、ピッチで実際に見ると非常にスピードがある。さらに、ボールも収まるのでポストプレーもできるし、ディシプリンもある。欧州のクラブに引き抜かれてしまうのではないかと、いまから心配になるほどだ。彼がシーズン終盤までチームに留まるようだと、2011年、J2から昇格したシーズンにJ1優勝を果たした再現は十分ありえる。

 また、開幕戦の戦いぶりで驚かされたのが清水エスパルスだ。FC東京に敗れたものの、ピーター・クラモフスキー新監督を迎え、メンバーも大きく様変わりしたなかで、完成度の高いチームをつくってきた。

 FC東京とスタイルの違いがあるため単純に比較はできないが、主体的にボールを持ちながらチームとしてチャンスをつくった数では、清水が上回っていた。駒不足は否めないものの、さらなる選手補強ができれば中位から上も狙えるのではないか。

 そのほか、ACLに出場している横浜FM、FC東京、ヴィッセル神戸は、リーグ戦との両立にまだ慣れていないことが見て取れた。日程面を考えてメンバーを入れ替えて臨むことで狙いどおりの試合運びができず、マネジメントにやや苦労していると言える。

 横浜FMに関して言えば、攻撃力は間違いなくリーグ屈指。G大阪戦は敗れたものの、後半は一方的に押し込み、勝敗が逆になっていても不思議ではないほどだった。リーグ連覇を狙うためにも、GKからボールをつなぐ部分やDFラインの裏など、相手チームが狙ってくるポイントへの対応のクオリティーを高めることが必要になる。

 少し心配なのが鹿島アントラーズと川崎フロンターレだ。

 鹿島は開幕戦の敗戦で公式戦3連敗。新体制で新たなチャレンジをしている鹿島の場合、結果が出れば流れが変わる可能性が高いので、常勝軍団は「まず1勝」を目指しているだろう。

 川崎は昨年同様にホームゲームで勝ち切れなかった。開幕戦で24本のシュートを打ち、VARで取り消されたゴールがあったものの0点。対戦相手が引いて守りを固める難しさがあるとはいえ、それを打ち破るタレントがいないわけではない。それに、現在の川崎は世代交代の時期を言い訳にできるクラブではなく、常に勝利を求められるトップチームだ。三笘薫や旗手怜央といった新加入選手たちがレギュラーを脅かす存在に成長して、結果を出してもらいたい。

 Jリーグは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月15日までに予定していたJ1、J2、J3とYBCルヴァンカップ計94試合の延期が決まった。再開は3月18日を予定しているようだが、場合によってはさらなる延期もあるかもしれない。残念なことではあるが、スポーツは人々の健康があってこそ。これ以上の感染拡大を防ぐために、ひとりひとりができることをしっかりと実行して、対応していくことが重要だ。

 各クラブが中断期間にどのようなスケジュールを組むかは現時点では不明だが、開幕戦で見せてくれた面白さを超える試合を期待しながら、Jリーグの再開を待ちたい。