地球の衛星(人工ではない)といえば誰もが「月」を思い浮かべると思いますが、唯一の衛星であるとは限りません。今回、地球を周回する天然の衛星らしき天体が新たに見つかり、その姿がハワイにある天体望遠鏡によって撮影されました。


■数年前から地球を周回? 今年4月に地球から離脱

ジェミニ北望遠鏡が撮影した「2020 CD3」(中央)(Credit: The international Gemini Observatory/NSF’s National Optical-Infrared Astronomy Research Laboratory/AURA)


画像はジェミニ天文台が運用する「ジェミニ北望遠鏡」(マウナケア山、ハワイ)によって2020年2月24日に撮影されたカラー合成画像。中央に白っぽい点のような姿で写っているのが、今回見つかった小惑星「2020 CD3」です。高速で移動する2020 CD3の動きに合わせて望遠鏡を動かしつつ、三色のフィルターを切り替えながら撮影しているため、背景の星々はカラフルな点線として写っています。


2020 CD3は2020年2月15日、アメリカのアリゾナ大学が運用する観測プロジェクト「カタリナ・スカイサーベイ」において、Kacper Wierzchos氏とTeddy Pruyne氏によって発見されました。数mほどのサイズの小さな天体とみられています。


発見後に実施されている複数の観測結果をもとに軌道を推測したところ、2020 CD3は地球の衛星、いわば「第2の月」として地球を周回していたことが明らかになりました。ただし、現在の2020 CD3は地球を離れる軌道に乗っており、2020年4月に離脱することも判明しています。


2020 CD3が地球の重力に捉えられたのは2017年頃とも報じられていますが、アマチュア天文家のTony Dunn氏(Archbishop Riordan High School、アメリカ)が最新の観測結果をもとに再計算したところ、それよりも前から地球を周回していた可能性もあるとされています。



■「ミニムーン」の発見例は過去にも。人工物の可能性もあり

1968年12月に打ち上げられたアポロ8号のミッションにて撮影された、サターンVロケットの第3段(S-IVB)。J002E3はアポロ12号を打ち上げたサターンVの第3段だと考えられている(Credit: NASA)


2020 CD3のような天体は「ミニムーン(minimoon)」とも呼ばれています。ミニムーンはもともと地球の公転軌道の近くで太陽を周回している小惑星で、地球に接近した結果一時的に地球を周回するようになった天体と考えられています。ミニムーンは以前にも見つかっていて、ジェミニ天文台が過去唯一の発見例として挙げている「2006 RH120」の場合、発見された2006年9月から翌2007年6月まで地球を周回していました。


ただし、ミニムーンのなかには人間が作った可能性が高い物体もあります。2002年9月に発見された「J002E3」の場合、発見後の分光観測によって二酸化チタンを使った白色塗料の存在が判明。推定された過去の軌道やアポロ計画の記録から、その正体は「アポロ12号」を打ち上げたサターンVロケットの第3段(S-IVB)だとみられています。


ジェミニ天文台でも今回の2020 CD3を「天然の岩のような物体か、人類が数十年前に打ち上げた物体」としており、どちらかとは明言していません。ジェミニ北望遠鏡で観測したGrigori Fedorets氏(クイーンズ大学ベルファスト、北アイルランド)は「いずれにしても興味深い天体であり、さらなる観測データが必要だ」とコメントしています。


 


Image Credit: The international Gemini Observatory/NSF’s National Optical-Infrared Astronomy Research Laboratory/AURA
Source: Gemini Observatory / Great Shefford Observatory / NASA
文/松村武宏