1999年放送の『NHK ETV特集』で突然世に出たフジコ・ヘミングのファミリーヒストリーである。悪いけど、クラシック界では「ラ・カンパネラしか弾かないピアニスト」だの、「以前、N響の理事長に、自分をNHK交響楽団と協演させろ、定期演奏会に出演させろ」としつこく付きまとった伝説があるだのと、いい評判は聞かない。
彼女がハーフだったために筆舌に尽くしがたい運命に弄ばれたと、ETVが(悲劇の主人公)扱いをしたので、まるで物語の主人公のように喧伝されたが、今回のドキュメントを見ると全くそんなことはない。確かに中耳炎をこじらせて片耳が聞こえなくなり、欧州でのリサイタルがキャンセルになった不幸はあったが、金持ち出身の母親・投網子がずっとフジコに仕送りをしていたので生活は出来たのだ。
また、スウェーデンに帰って再婚した父親とも再会しているし、むしろ恵まれていたのではないのか。髪もぐじゃぐじゃ、衣装もボロ布を纏ったようで、一種独特の個性の主である。戦前戦中の日本で、白人の子というだけで酷い差別をされたとは思うが、投網子の人脈で、レオニード・クロイツァーにピアノを師事したのは得難い僥倖である。それにしても、テレビの威力は凄い。あまりいいとは思えない彼女のCDが、30万枚ものベストセラーになっている。ずっと、まともな演奏のできる若手のピアニストのCDが、ほとんど売れない。クラシック後進国のポピュリズムのなせる業である。(放送2020年2月24日19時30分〜)

(黄蘭)