チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦。全8試合中、まず先週行われた4試合は、いずれも下馬評が低いチームが先勝した。

 アトレティコ・マドリー対リバプール(○)=1−0
 ドルトムント対パリ・サンジェルマン(○)=2−1
 トッテナム・ホットスパー(○)対ライプチヒ=0−1
 アタランタ対バレンシア(○)=4−1
(※左がホーム。○印が下馬評で上回ったチーム)

 トッテナム・ホットスパー対ライプチヒ以外、先勝した3チームはすべてホーム戦。ホームの利が作用した面もあるかもしれないが、4試合すべて下馬評の低いチーム(弱者)が勝利を飾ったとなると、簡単に受け流すことはできない。

 いままさに番狂わせが起きかけている状態にあるわけだ。他の競技に比べて番狂わせが起きやすい競技だとされるサッカーの本質に、直面した状態にある。

 リバプールは国内リーグで今季、国内リーグで26試合して1つも負けていない。25勝1分け。圧倒的な力を示している。唯一の敗戦はCLのグループリーグ初戦。ナポリとのアウェー戦(9月17日)だ。つまりアトレティコ戦の敗戦は、事実上の2軍を送り込んで敗れた国内カップ戦を除けば、実に5ヶ月ぶりの敗戦となる。

 もしリバプールがスペインリーグに入って戦っていたら、現在3位に付けているアトレティコより上の順位にいるだろう。レアル・マドリー、バルセロナの上を行っている可能性さえある。しかし、CLでいま行われているのはリーグ戦ではない。一発勝負のトーナメント戦だ。負ければその瞬間お終い。舞台から去ることになる。プレッシャーが掛かるのは弱者か、強者かと言えば、強者だ。弱者は負けてもともとと、無欲で気楽に臨むことができる。監督もこの格上との一戦に敗れても、評判を落とすことはない。クビになる可能性も低い。勝てば名将扱いされる。思い切って戦うことができる。勝利の喜びはどちらにあるか。

 どちらが弱者で、どちらが強者か。欧州では両者の立ち位置が常に明確である。ブックメーカーが発達しているからだ。試合前、そうした情報は監督、選手にも届いている。ファンも認識している。どちらが何対何で勝つのが一般的な予想か。その気がなくても、情報として耳に飛び込んでくる。弱者は弱者だと割り切って試合に臨むことができる。

 普段の国内リーグの戦いには、勝ち負けに加えて引き分けがある。ポイント1が加算される。レアル・マドリーに下位チームが引き分ければ大満足な結果になる。この引き分けがCLには存在しない。引き分け狙い(実際それができるか怪しいが)を選択肢に加えることはできない。アウェーゴールルールが存在するので、PK戦になる確率も低い。

 CLの決勝トーナメントは普段、経験する機会が少ない異質な戦いなのだ。嫌なのは弱者より強者。番狂わせが起きやすい設定にある。アジアチャンピオンズリーグも同じ設定で行われているが、アジアのクラブには欧州のようなヒエラルキが構築されていない。レアル・マドリーのような12回も優勝しているチームは存在しない。下馬評が報じられることもない。順当勝ちなのか、番狂わせなのか、メディアは論じようとしないし、ファンも特段関心を示していない。ほぼ互角の戦いだと思いながら、目の前の観戦に向き合っている。欧州との大きな違いだ。アジアの戦いに奥の深さを感じない理由でもある。

 CLと同じことはW杯にも言える。世界的なイベントなので、ブックメーカーを眺めれば、日本の前評判は見えてくる。だが、メディアはそれを積極的に報じない。毎度、32チーム中24番目辺りにランクされているからだろう。それを報じれば盛り下がる。ネガティブな報道だと考えているのだろう。だが、CLを軸とする欧州サッカーを眺めていると、それを受け入れず、アゲアゲ報道に終始すれば、サッカーの特性、魅力、面白さに迫れないことが判る。