ヴィッセル神戸インタビュー特集(1)
MFアンドレス・イニエスタ

 今年最初のタイトルマッチとなった富士ゼロックススーパーカップ。長いPK戦の末に勝利をつかみ取った瞬間、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタは、両手を大きく広げて仲間のもとに走り寄った。ピッチでは常に冷静沈着な男が見せた、歓喜の姿だった。

「チームが進むべき道を、このまま突き進んでいくべきだという自信になった」

 イニエスタのその言葉に、シーズン前の沖縄キャンプで語った、天皇杯での”初タイトル”への思い、そして新シーズンへの決意が重なる。

「天皇杯優勝は、クラブにとって初めてのタイトルであり、チーム、選手、そしてファンのみなさんに、大きな自信をもたらすものになりました。と同時に、今シーズンを戦うにあたって、相手チームがより我々にリスペクトの気持ちを持って臨んでくるという意味でも、意義深い出来事だったと思います。

 そしてそのタイトルは、ゼロックススーパーカップに始まる、さまざまな大会で新たなタイトルをつかむことで、さらに大きな自信になっていくと考えています。どの大会も、簡単な試合などひとつもなく、チャンピオンまでの道のりは、決して平坦ではありません。ですが、チームメイトとともに勝つことで”自信”をより深めるシーズンにしたいと思っています」

 前所属のバルセロナ時代は、32回の”タイトル”を獲得したイニエスタだが、おそらくはその数を増やすごとに、自信の深まりを感じてきたのだろう。それゆえ、天皇杯に次ぐ2つ目の”タイトル”に、喜びを露わにしたのかもしれない。


今季は、よりサッカーを「楽しむシーズンにしたい」というイニエスタ

 とはいえ、その余韻に浸っている暇はない。今シーズンは、ゼロックススーパーカップ後に初陣を戦ったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を含め、全大会で決勝まで勝ち進めば、実に60試合という忙しいシーズンが待ち受けるからだ。

 もっとも、過去にUEFAチャンピオンズリーグに何度も出場してきた彼のこと。国内外の試合を並行して戦うことには、慣れているに違いない。

 だが、彼にとって、ACLは初めて戦うアジアを舞台にした戦いだ。1戦目のジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)戦では、2アシストを挙げるなどしてチームの快勝に貢献して見せたが、今後はどんな戦いを描いているのだろうか。

「長年ヨーロッパでのチャンピオンズリーグを戦ってきた経験からも、”チャンピオンズリーグ”はすばらしい舞台だと感じています。ひとつのミスの代償が大きく、90分間ずっと『簡単にはミスを犯せない』という緊張感の中でサッカーをするのは、とてもエキサイティングで、サッカー選手として多くの刺激を得ることもできます。

 おそらく、それはアジアでも同じだと思いますし、楽しみにしていることのひとつでもあります。ただ、国内のリーグ戦を並行して戦うのは、決して簡単ではありません。昨年、ACLの決勝まで上り詰めた浦和レッズが、リーグ戦では低迷したということからも明らかです。

 そう考えても、ACL特有の空気感、難しさをしっかりと感じ取りながら、戦いを進めていくことが、必要になってくるのではないでしょうか。

 また、チームとしては、ACLとJ1リーグでは大会のレギュレーションが違うことも理解しなければいけません。J1の場合は、たとえある試合でミスを犯して敗戦を喫したとしても、年間を通した戦いなので、巻き返すチャンスは十分にあります。でも、ACLはまずグループリーグの6試合で結果を求めなければ、次のステージには進むことができません。

 それだけに、よりミスに対しては、慎重に考えるべきだと思います。とくに相手チームには、オフェンス面でクオリティの高い選手がそろっていると考えても、安定した守備を意識して戦うことは、より重要になります。そこさえ安定すれば、我々のオフェンス陣にはクオリティのある選手がそろっていますし、彼らを生かせるシーンも増えるはずです。

 僕自身も、守備に対する意識をしっかりと備えたうえで、最終的には”ゴール”に結びつく攻撃を考えたいと思っています」

 一方、J1はどうだろう。シーズン途中に加入した2018年は10位、昨年は8位と、残留争いにも巻き込まれた経験を踏まえ、このリーグを戦う難しさ、そして”タイトル”の可能性をどのように感じて、3シーズン目に臨むのか。

「昨年、初めて1シーズンを通してJ1を戦って感じたのは、どのクラブも力が均等で、すごく競争力が高いリーグだということです。J1では似たような確率で、首位のチームに勝つ可能性もあれば、最下位のチームに負けることもあります。毎節、どのカードも僅差の、拮抗した戦いが繰り広げられ、順位も目まぐるしく変わります。

 そう考えても、このリーグでより目立った結果を残していくには、相手にとって”勝ちにくいチーム”“戦いにくいチーム”になる必要があると感じています。

 守備面では、『こじ開けるのが難しい』とか、『隙がない』という印象を与える必要がありますし、攻撃面では相手を黙らせるような、畳みかける強さも必要です。

 そのためには、昨年の反省という意味でも、守備の改善は必要だと思います。現代サッカーでは、どれだけ攻撃的なサッカーを理想に描くチームでも、守備は不可欠とされています。そして、その守備を安定させることが、チームの基盤となり、安定にもつながります。

 昨年の終盤、我々の戦いがある程度、安定性を見出せたのも、チームとして守備に対する自信を深められたことで、より攻撃に集中できるようになったことが理由のひとつに挙げられると思います。

 これは、J1のランキングを見ても明らかです。得点数では我々より下回っているにもかかわらず、失点数を少なく抑えることで、我々よりも上位にいたチームはたくさんありました。トップ3を見ても、横浜F・マリノスを除いて、その言葉が当てはまります。

 であればこそ、チームとして、できる限り無失点で終えられる試合を増やすことが安定性を見出し、目の前の試合で結果を求めるうえでも、またタイトルに近づくためにも、とても重要だと考えています」

 日本やJリーグの環境にも慣れたこともあってか、昨シーズンのこの時期に比べて、とてもリラックスした表情で、穏やかに決意を語ったイニエスタ。今シーズンもキャプテンを預かるが、そのことに過度の重責を感じている様子もない。むしろ、昨年以上のパフォーマンスを示すために、心がけるのは「サッカーを楽しむ」ことだと言う。

「昨シーズンは、ケガで離脱していた期間を除いて、すごく楽しめた1年でした。そして、今シーズンは昨シーズン以上に、より多くの試合を戦うことで、もっとサッカーを楽しむシーズンにしたいと思っています。

 そのうえで、長いシーズンの終わりには、ヴィッセルを愛するすべての人たちとともに、新しい”タイトル”獲得を祝うことができればと思っています」

 その言葉が現実となれば、今シーズンのイニエスタのプレーによって、サッカーファンは昨年以上の衝撃を受けることになるだろう。ACL初戦で彼から繰り出された、正確で美しく、驚きに満ちた”パス”に何度も驚かされたように。