前厚労省結核感染症課長の三宅邦明さん=岩崎撮影

新型コロナウイルス感染症対策は、国内での流行期・蔓延期に向けて舵を切り始めました。感染経路がはっきりしない患者も増えてきたためです。“水際対策”や“封じ込め”を狙う時期は過ぎたことを前提として、新型インフルエンザと同様、通常医療を崩壊させないことも重要になってきます。オーバーシュートしてしまうと流行期が2〜3カ月は続くと考えられる中、社会生活をどこまで制限すればいいのでしょうか。市民が気をつけなくてはいけないポイントと前厚生労働省結核感染症課長の見方を紹介します。

チェックしてみよう 〜一般市民向け クイック・チェックポイント〜

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・自分で体調管理を行い、体調がすぐれないときは朝夕の体温測定をする
・病院や施設での面会を控える
・人が多く集まる室内での集会への参加は必要なものだけに限る
・公共交通機関でつり革や手すりに触れた後は、鼻、口、目を触らない
・会社、学校、自宅に着いたら手洗いをする
・時差通勤でラッシュアワーを避ける
・テレワークを活用する
・37.5度以上の発熱、咳、倦怠感がある場合は、出来るだけ会社、学校を休む
・37.5度以上の発熱、咳、倦怠感がある場合に、人と接触する場合はマスクを着用し、手で鼻や口を触ったら手洗いをする
・体調不良の人と接する場合はマスクを着用する

仕事は

注意したい症状

・37.5度以上の発熱、咳、倦怠感などに加え、呼吸苦や息切れがある場合
・37.5度以上の発熱、咳、倦怠感などの症状が5日以上持続する場合

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・帰国者・接触者相談センターなどに相談してから病院(一般外来でなく、帰国者接触者外来)を受診する

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・毎朝夕、体温測定をする
・多くの人が集まる集会場などに行くことを控える
・インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンを接種していない人は医療機関で接種する

※日本感染症学会、日本環境感染学会が発表した2月21日資料「水際対策から感染蔓延期に向けて」から抜粋・要約

学校は

流行・蔓延のシグナル始まる

厚労省は17日、相談・受診の目安として、重症化しやすい高齢者や糖尿病、心不全、呼吸器疾患の基礎疾患がある人や抗がん剤治療を受けている人、妊婦などを除き、「帰国者・接触者相談センター」に電話相談する目安として「37.5度以上の発熱が4日以上続く」「強いだるさや息苦しさがある」人としました。

20日にはイベント開催について「感染拡大の防止の観点から(中略)、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いする」としながらも、「現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではない」という国民向けメッセージを出しました。

日本感染症学会と日本環境感染学会は21日、市民向けに病気の姿を示したうえで、「1週間以内に症状が軽快しそうであれば、自宅での安静で様子をみる」「高齢者・基礎疾患を有する人は外出を控える」などの注意喚起を出しています。

前厚労省結核感染症課長の三宅邦明さん=岩崎撮影

2019年3月まで厚生労働省結核感染症課長をしていた三宅邦明さんに、市民は現状をどう理解し、これからの備えをしていけばいいのか、21日午後5時30分、渋谷のオフィスでインタビューしました。

――もともとコロナウイルスは常在していて、変異の中で2000年代になりSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が出てきました。今回もその一つと考えてよいでしょうか。

三宅邦明・前厚労省結核感染症課長(以下、三宅):  今まで見えなかったものが見える時代になってきたのだと思います。実は変異した新たな感染症は毎年のように出現していたのではないでしょうか。いままでは、何かおじいちゃんやおばあちゃんが重症化しやすい風邪が流行っているなあ、ということで終わっていたり、都市部から離れた村レベルで小規模に発生したりしていたものが、サーベイランス機能が良くなってきたので、新型だとわかるようになったということです。

くわえて、人の往来が増え、国を超えた感染拡大もスピードアップしたというのが新しい現象だと思います。

新型コロナウイルスが拡大するスピードの速さや、武漢からチャーター機で帰国した人たちの感染者の割合をみたとき、これは確実にすでに国内に入っているなと思いました。感染が始まったとされる武漢の市場と関係ない日本人があれだけ感染しているということは、武漢で市中感染が起きていることを示唆しています。

街は

重要なリスクコミュニケーション

――なぜ、国民が「水際で止めて欲しい」、「水際で止められるんだ」という誤った理解をすることになってしまったのでしょうか。

三宅: このようなクライシスマネジメントには、リスクコミュニケーションが大切です。政府は、「水際対策や封じ込めは完璧にできませんが、国内にウイルスが入り込むスピードを遅くするために必死にやります」というメッセージを、国民に向けてしつこいくらい繰り返し伝えていくべきでした。そのようなメッセージは伝えていたものの、国民の期待、わかりやすいメッセージが取り上げられやすく、結局のところは、2009年の新型インフルエンザ発生の時と同様に、わかりやすい「もっと水際対策やります」「封じ込め対策をやります」ばかりが報道され、話題となり、国民や政治家の期待をいたずらに高めたことを、いま歯がゆく感じています。

潜伏期間がある以上、一定数の感染者が国内に入ってしまうのは仕方がないと考えたうえで対策を行うことが肝要です。世界中の国々が、感染が発生した国の人々の入国を拒否すると、世界経済がマヒしてしまいます。リスクとのバランスを考えたうえで、流入速度を落とすしかありません。

――市中感染が始まっていく中で、誰を守らなくてはいけないのか、どこを守らなくてはいけないのでしょうか。

三宅: 今回、厚労省が「相談・受診の目安」をきちっと公表したのは英断でした。新型インフルエンザのときは、軽症者や会社に行くための無罹患・治癒証明が欲しいという人が医療機関に押し寄せてしまいました。

新型コロナウイルスの感染の可能性がある人がいたら、封じ込めるために全員検査して隔離するという方針から重心を移し、ある程度の感染拡大は許容しつつ医療機能を守る方が大切だという、国民へのメッセージが込められていると思います。そして、ある時期に来たら、新型インフルエンザのときと同じように、一般の医療機関でも診察できる体制に変えていかなければいけないと思います。どのタイミングでそれを発動するか、すでに検討していると思います。

――中国では臨床所見での診断を始めています。日本もいずれそのような診断方法に変わっていくと思いますが、どんな課題がありますか。

三宅: 新型インフルエンザのときと同じで、ある時点から全数把握をする意義が少なくなっていきます。「first few hundreds」(ファースト・フュー・ハンドレッズ)と言って、最初の200〜300例で臨床像が分かるので、そこまでは真剣に追いますが、それ以降は正確な流行状況を追う、必ず確定診断を行うという段階から医療体制の維持に力点を移すべきです。ダイヤモンド・プリンセス号の患者を入れるとこの数を超えますが、それを除いて国内患者だけでその数字になったとき、判断できるかどうかでしょう。それはイコール、国内感染期ということになりますから。

横浜港の大黒ふ頭に停泊するダイヤモンド・プリンセス号=2020年2月13日、岩崎賢一撮影

マラソンの「自粛」はやりすぎ?

――国内感染期の判断は、どのような目安でおこなわれると思いますか。

三宅: 残された課題は、患者をどこで診るかという点です。指定感染症医療機関はギリギリの状態でしょうから、しばらくしたら指定感染症医療機関以外で診ていく態勢に移行する判断をしなければいけないでしょう。

――これから、臨床現場や政策立案現場、国民、メディアにとって必要なことは何でしょうか。

三宅: 国内感染が始まり流行期になっていきます。新型インフルエンザでいえば、少なくとも2〜3カ月間は流行が続くという想定でした。新型コロナウイルスでも、経済生活や日常生活を持続できる形で、感染対策をみなさんにやってもらう必要があります。やり過ぎもいけないし、やらなさ過ぎもいけません。適切に怖がり、適切に日常生活をしていくことが大切です。そのうえで、重症者や重症化しやすい人がどうやって医療機関に受診するかは、行政機関と医療機関が力を合わせて考えていかなければいけないと思います。

例えば、オープンエアで行われるマラソンをこの時期に自粛というのはちょっとやり過ぎではないかと思います。今後、2〜3カ月間流行期が続く中で、イベントをどんどんキャンセルしたり、自粛したりしていいのか疑問に思います。

イベントは

終息へのシナリオ

――どのような状態になれば、終息していくのでしょうか。

三宅: 流行が進み、みんなが免疫を持つようになれば収まりますし、いわゆる普通の風邪になります。新型インフルエンザのときもそうでした。未来予測は難しいですが、封じ込めをしていればウイルスがシュッとなくなり、感染者がいなくなるとは思えません。市中感染が散発的に起こっていて、これから患者が増えるというのが自然な想定だと思います。そういう状態が2〜3カ月間続くことを前提に、どこまで社会的な活動や生活を犠牲にするのか、もう少し冷静になった方がいいと思います。

新型インフルエンザの想定は過去の経験を踏まえて作っていますが、第一波は8週間程度続き、社会の中に免疫を持つ人が増えていって一度終息します。その数カ月後に第二波が来るとみているのは、しばらくすると人の往来で免疫を持っている人の割合が社会の中で変わるからです。

プロフィール

前厚労省結核感染症課長の三宅邦明さん=岩崎撮影

三宅邦明(みやけ・くにあき)

慶応大学医学部卒業後、1995年4月に厚生労働省に入省。足利赤十字病院(内科医)、自治省消防庁(当時)、外務省在比日本大使館などを経て、厚労省健康局や医政局の課長補佐として勤務。2010年4月から2013年3月まで石川県に出向。その後、首相官邸直属の内閣官房の新型インフルエンザ等対策室企画官、厚労省医政局経済課医療機器対策室長などを経て、2017年7月から健康局結核感染症課長を務めていた。

2019年4月から株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の最高医療責任者(CMO)及び子会社の株式会社DeSCヘルスケアの代表取締役社長。

おしらせ

インタビュー完全版は、朝日新聞のweb「論座」で読むことができます。(telling,は抜粋版です)

「感染爆発の重大局面」は長期戦 集団免疫の獲得による終息への道のり始まる〜桜山豊夫・元東京都福祉保健局技監に聞く

危機新型コロナ・パンデミック 長期休校がもたらす子ども危機〜住田昌治・横浜市立日枝小学校校長が考える懸念とチャンス

新型コロナの自粛で街が沈む 「炭坑のカナリア」と化した飲食店オーナーの声〜大木貴之 LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

新型コロナウイルスで医療崩壊を起こさないためにやるべきこと〜国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長に聞く

新型コロナウイルス、封じ込めから国内流行期対策へ転換を〜新型インフルエンザ対策に取り組んだ三宅邦明・前厚生労働省結核感染症課長に聞く

新型コロナウイルス、感染対策以外に必要なもう一つの視点〜アンガーマネジメントの専門家、横浜市立大学医学部看護学科講師に聞く

今備えるべき新型コロナウイルス対策は何か〜日米英3カ国の専門医資格を持つ矢野晴美・国際医療福祉大学医学部教授に聞く

※厚生労働省の新型コロナウイルス感染症に関するページ

※日本感染症学会―水際対策から感染蔓延期に移行するときの注意点(2月28日)

※新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(2020年2月25日)

【編集部注】この記事では、患者が必ずしも肺炎を発症しているわけではないことから「新型肺炎」という表記はせず、「新型コロナウイルスの感染」などの表記をしています。