日本で「IR開業」を狙う米国カジノ企業の現在地
カジノのルーレット。写真はイメージです(写真:EKAKI/PIXTA)
安倍政権が成長戦略の目玉と位置づけてきたカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)整備。
『米国会社四季報』2019年秋冬号は現在発売中。書影をクリックすると東洋経済のストアサイトにジャンプします
だが、多くの世論の反対や現職国会議員の逮捕にまで至った汚職事件などの影響で、肩身の狭い状況に追い込まれた。そんな状況でも、開発や雇用などの経済効果を期待して、複数の自治体が誘致活動に注力している。
2016年12月にIR推進法、2018年7月にIR整備法が成立した。日本ではこれまでカジノの設置は認められてこなかったが、パチンコ・パチスロの市場規模は20.7兆円(2018年、日本生産性本部「レジャー白書2019」)もある。
加えて訪日外国人観光客も年々増加してきた。当然、日本の企業にカジノの運営のノウハウはなく、海外の百戦錬磨の猛者たちが目をつけるのは何ら不思議なことではない。
マカオ、ラスベガスに展開する大手
そんな世界のカジノ企業について、本稿ではアメリカの企業に絞って紹介していきたい。
まずはラスベガス・サンズ(LVS)。マカオ、アメリカ・ラスベガス、シンガポールに8つのリゾート施設を運営しており、2019年の売上高は137億3900万ドル。うちマカオが6割以上を占め、2007年開業の「ベネチアン・マカオ」は規模も人気もトップクラスだ。
2010年に開業したシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」(写真:ラスベガス・サンズ)
また2010年に開業したシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」は、3棟のホテルを屋上の天空プールでつなぐ独特の形状で、シンガポールのランドマークとして知られている。
2019年4月にこの「マリーナベイ・サンズ」の拡張計画が発表された。現在のホテルに隣接して、1万5000席を完備したアリーナ、ホテルタワー、コンベンション施設が建設される予定だ。
なお日本のIRでは、2019年8月、大阪への入札を見送り、東京と横浜に焦点を当てると表明している。
売上高でラスベガス・サンズを追うのがMGMリゾーツ・インターナショナル(MGM)。2019年の売上高は128億9900万ドルで、エリア別ではラスベガス(45%)とその他エリア(27%)をあわせアメリカ国内が7割以上を占める。マカオは2割強にとどまり、ラスベガス・サンズとは対照的だ。
ラスベガスのベラージオホテル(写真:MGMリゾーツ・インターナショナル)
2018年、マサチューセッツ州に「MGMスプリングフィールド」、マカオに「MGMコタイ」、上海に新ブランド「Bellagio」のホテルを開業した。翌2019年1月にNYのエンパイアシティ・カジノを買収。
同4月には買収したオハイオ州のハードロック・ロックシノをMGMリゾーツ・ノースフィールドパークとして開業するなど、攻勢を強めている。
日本のIRでは、2020年2月時点でオリックスと組んで、唯一の大阪推しとなっている。大阪府と大阪市は2月14日に大阪におけるIR事業者の公募にMGM・オリックスコンソーシアムの1社のみが応募したと発表した。
WYNNリゾーツ(WYNN)は、ラスベガスとマカオで「ウィン」と「アンコール」の2つのタワーを持つ高級カジノリゾートホテルのほか、2016年開業のマカオ「ウィンパレス」、2019年6月開業のボストンの「アンコールボストンハーバー」の4つの高級カジノリゾートホテルを所有・運営している。
「アンコールボストンハーバー」(写真:WYNNリゾーツ)
2019年の売上高は66億1100万ドルで、このうちカジノが7割を占める。日本のIRに関しては、横浜を視野に積極的に取り組む姿勢を表明している。
シーザーズ・エンタテインメント(CZR)は、1937年にネバダ州リノで創業した老舗で、「CAESARS」「HARRAH’S」「HORSESHOE」の名前でホテルやカジノを運営している。
2019年1〜9月期の売上高は65億7300万ドルで、うち半分はカジノからの収入となっている。2019年6月に同業のエルドラド・リゾーツ(ERI)による買収が発表され、2020年前半に統合が完了する見込みだ。なお、同社は2019年夏に日本でのIR運営のライセンス取得に向けた活動を中止し、撤退を発表した。
買収する側のエルドラド・リゾーツは、コロラド州、フロリダ州など全米11州で23のプロパティを所有および運営する大手カジノエンターテインメント会社で、2019年1〜9月期の売上高は19億3600万ドル。両社の合併により16州で約60の国内カジノリゾートとゲーム施設を持つ全米最大のカジノリゾート企業が誕生する。
「ハードロック」もカジノ企業
ここまでは上場企業を取り上げてきたが、上場していないカジノリゾート企業もいくつか紹介したい。
まず、日本でも「ハードロック・カフェ」を展開するハードロック・インターナショナル。
「セミノール ハードロック ホテル&カジノ ハリウッド」(写真:ハードロック・インターナショナル)
2006年にフロリダの先住民セミノール族が買収し、現在は世界76カ国でホテル31、カジノ12、日本の7店舗を含む183のカフェを展開している。
2019年10月に開業した「セミノール ハードロック ホテル&カジノ ハリウッド」は、世界初のギター型ホテルとして話題を呼んだ。日本のIRでは北海道・苫小牧にフォーカスしている。
同じく苫小牧に注目している企業がモヒガン・ゲーミング&エンターテイメントとラッシュ・ストリートだ。
ギリシャにおけるカジノ構想(写真:モヒガン・ゲーミング&エンターテイメント)
前者は1996年にコネチカット州で創業し、アメリカ国内と韓国・仁川でカジノリゾートを運営している。2019年にはナイアガラフォールズのカジノリゾートのプロバイダーとなり、2020年にはラスベガスにも進出する。
2019年9月には、現地企業と提携し、ギリシャ初の統合リゾート参入を発表している。未上場企業だが決算が公表されており、2019年9月通期の売上高は13億8800万ドルで、このうちカジノが3分の2を占めている。
後者のラッシュ・ストリートはフィラデルフィアやピッツバーグなどに4つのカジノリゾートホテルを所有・運営している。ピッツバーグには、2021年に新しいホテルが完成する予定だ。
カジノというと、豪華な建物や設備、きらびやかなネオン、ゴージャスで華やかな高級イメージがつきまとう。一方で、2018年7月にはギャンブル等依存症対策基本法が成立したように、マネーロンダリング(資金洗浄)の危険性、治安の悪化など、指摘される負の側面も少なくない。
さらに、直近では新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、マカオのカジノはすべて2月5日から15日間にわたり営業が停止された。新型肺炎の被害拡大はマカオだけでなく、今後の日本における観光業への影響も懸念されている。
すでに、ここに紹介した企業の多くが日本で活動を行っている。政府は、2020年春にIR整備法をもとにIR開業に向けた基本方針を策定し、公表する見込みで、その後にIRを設置する自治体3カ所を決定する。
これまで無縁だったカジノ企業とはどういうものか、今からでも注目しておいても遅くはない。