10年前にトラに夫を殺されたモサマット・ラシダさん。バングラデシュ・シャムナガールの自宅で(2019年11月11日撮影)。(c)Munir UZ ZAMAN / AFP

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【AFP=時事】息子たちに見捨てられ、隣人たちからは避けられ、魔女呼ばわりされているモサマット・ラシダ(Mosammat Rashida)さん(45)は、犯罪者なのか? いや、違う。彼女の夫がベンガルトラに殺されたのだ。

 バングラデシュの地方部にある村々の多くでは、ラシダさんのような女性たちが夫の不運を招く元凶と見なされ、村八分の目に遭っている。

 バングラデシュとインドにまたがる広さ1万平方キロのマングローブ林シュンドルボン(Sundarbans)自然保護区の端にある、蜂蜜の採取を仕事にする人々の村で、ラシダさんは自宅である粗末な板づくりの建物でAFPの取材に応じ、「息子たちは私を不運な魔女だと言う」と語った。

 ラシダさんの夫は、シュンドルボンへ蜂蜜の採取のために出かけている間に亡くなった。

 ベンガルトラ研究の第一人者であるジャハンギナガル大学(Jahangirnagar University)のモニルル・カーン(Monirul Khan)氏によると、「採蜜の従事者たちは主にシュンドルボン南西部で蜂蜜を採取することを好むが、そこには人食い(トラ)の多くがそこに生息している」という。

 夫を失った女性たちの社会復帰を支援する慈善団体「Ledars Bangladesh」によると、50万人が暮らすある地区に位置する50の村では2001〜11年に、少なくとも男性519人がトラに襲われて死亡している。

 残された女性たちにとって夫を失うことは二重の打撃だ。

 夫を失って悲嘆に暮れるだけでなく、一夜にして「トラの未亡人」となった女性たちは、最も支援が必要な時に家庭や村で「最下層」の扱いを受ける。

 そして女性たちはしばしば、自身や家族を支える生計手段がほとんどないまま取り残されてしまう。

■悪運を招くとして寄り付かず

 ラシダさんは悲しみに打ちひしがれるものの、24歳と27歳の息子たちがラシダさんと年下のきょうだい2人を見捨てたことには驚かない。「二人は結局、この社会の一部だ」と話しながら、ラシダさんは涙を拭った。

 昨年バングラデシュを襲ったサイクロンにより、ラシダさんの掘っ立て小屋も屋根を吹き飛ばされた。しかし近隣住民や当局の手伝いや支援はない。当局は同じ村の他の住民たちに支援を施しているが、自分を除け者にしているとラシダさんは主張。防水シートを使って風雨をしのいでいるという。

 損傷した屋根を修理していた隣人のモハマド・フセイン(Mohammad Hossain)さん(31)は、ラシダさんに話し掛けないようにと妻に言いつけられていると打ち明けた。「私の家族の幸福を台なしにして、悪運を招くかもしれない」と語る。

 当局はサイクロン後の支援対象から、ラシダさんを除外したことについて否定している。

 しかし「Ledars Bangladesh」の代表者によると、「トラの未亡人たち」に対する不当な扱いは非常に保守的な社会で広く存在しており、こうした社会は「数世紀も前の」偏見を抱いていることが多いという。

「(慈善団体は)残された女性たちの尊厳を回復するための活動に従事している。難題は人々の考え方を変えることだ」

 さらにこの代表者は「変化はとても遅い。だがそれでも、進歩はあったと言える」と指摘。若く、教育を受けた村人たちはそうした妻たちに対し、比較的恐れを抱かないという。

■生き続けて母親の面倒をみたい

 リジア・カトゥン(Rijia Khatun)さんは15年前、採蜜に従事していた夫を亡くしたが、村人たちによる追放に対処することを学び、おいや親族から内密に支援を受けているという。

「息子たちは幼かったが、誰も助けてくれなかった。夫の死について責められ続けるので、初めは悪いと感じていた。だが私の過ちは一体何なのか分からなかった」とカトゥンさんは振り返り、「だけど今はこの逆境と共に生きていくことを学んだ」と語った。

 おいのアリさんはカトゥンさんを助けたかったが、表立ってはできなかったと説明。自分のおじらが何度も責めるところを目にしてきた。

「秘密裏に(カトゥンさんを助けて)やる必要があった。さもなくば自分たちも同様に村社会から追い出されただろう」とアリさんは打ち明けた。

 採蜜は伝統的に、この地方のもう一つの主要産業である漁業を始めるのに必要な、船などの商売道具を買う余裕がない村人たちにとって、より取り掛かりやすい職業とされている。

 だがトラに殺されること、そして残された妻たちに及ぶ影響への恐れから、違う職業を選ぶ男たちがどんどんと増えている。

 父親をトラに殺された21歳のある男性は、一家が代々採蜜に従事してきたにもかかわらず、現在漁師として働いている。

「母親は、父親が遭った憂き目を私に味わわせたくなかった。私も生き続け、母親の面倒をみたい。母親は父親の死後たくさん苦労し、ひどい扱いを十分に耐え忍んできたのだから」

【翻訳編集】AFPBB News

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