下船したクルーズ船の乗客を搬送するバス(写真:ロイター/アフロ)

横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から死者が出た。新型コロナウイルスに感染して体調を崩していた80代の日本人の男女2人で、2月20日に確認された。同船からのはじめての死者で、これで日本人の死者は3人になった。

厚生労働省によれば、80代の女性は5日から発熱、9日に症状を訴え、10日に医師の診察を受け12日に搬送された。他にも症状のあった乗客を順番に搬送していたようだが、アウトブレイク(突発的感染拡大)によって患者が一極集中すると、手がまわらず処置の遅れる典型だ。

そのクルーズ船からは連日、感染者が確認されている。それも日を追うごとに数十人単位の規模で数が増えつづけ、2月19日には新たに79人が、20日には13人が確認されて、約3700人の乗客乗員のうち634人が感染したことになった。

にもかかわらず、19日から日本政府は当初の予定どおり、乗客の下船をはじめた。2月5日から14日間の経過観察を経て、検査で陰性が認められた乗客に「上陸許可証」を発行。21日に完了するまでに970人がクルーズ船から解放されている。下船した人の多くは用意されたバスで最寄りまで移動し、そこから公共交通機関で自宅に帰った。

日本のクルーズ船対応に疑念が残る

だが、下船した乗客は、本当に感染していないのか。結論から言えば、これはもはや感染拡大の懸念も内在する「ギャンブル」に近い。


感染が確認されたものの症状が出ていない人たちを医療機関に搬送する様子(写真:AP/アフロ)

検査に用いられるPCR法には感染が見落とされるケースがあることは知られている。

また、下船者の中には2月4日に検査を受けて陰性と判断されただけの者もいる。その後に感染していたとしてもおかしくはない。だが、厚生労働省は下船から数日の電話連絡はとるものの、行動制限はしていない。

前日の18日には、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として同船に入った神戸大学の感染症内科の岩田健太郎教授が、船内ではグリーンゾーンとレッドゾーンが区分けされてないなど、感染対策が不十分とする内容をYouTubeに投稿して話題になった。これに厚生労働省や政府関係者が反論。

20日には同教授によって投稿動画は削除されたが、それでもクルーズ船から確実に感染者が増え続けていることからすれば、明らかに感染対策は失敗していることを示している。

20日には、船内で作業にあたった内閣府と厚労省の職員2人が感染していることが判明。目も当てられない状況だ。

2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が中国から香港や世界に拡散したきっかけはホテルだったことは、以前にも書いた(「クルーズ船集団感染に見る新型肺炎追加リスク」)。

中国広東省で発生した新型肺炎の治療にあたっていた医師が宿泊した、同じフロアの同宿者に感染してウイルスは広まっていった。そのホテルでは医師の泊まった9階とその上下階を閉鎖している。「海に浮かぶホテル」であるクルーズ船では、感染者の出たフロアを閉鎖することもできなかったはずだ。

アメリカでは、同船を下船しても14日間は入国を認めない措置をとった。先にチャーター機で帰国した乗客も14日間は隔離される。カナダやオーストラリアなど他国も同様で、つまりは日本を信用していないことになる。

東京都内のタクシー運転手への感染は屋形船の宴会からだったが、今度は大型客船から感染が広がるのなら、洒落にもならない。

すでに日本国内でも、東京、神奈川、千葉、和歌山、愛知、沖縄、北海道などに次いで、福岡でも感染者が確認されて21日には106人になった。感染ルートがはっきりしていないものも少なくない。そこへ福岡市の地下鉄では、マスクをしていないのに咳をしている乗客がいる、と非常通報ボタンを押して停車させる“事件”まで起きている。疑心暗鬼がパニックになっている。

海外ではそんな日本を冷ややかに見ている。韓国、台湾では日本への渡航の注意喚起や自粛を求めているのに加え、タイも日本への渡航自粛を呼びかけた。タイは訪日観光客数6位の”上客”で、日本の観光業への影響は大きい。しかも21日にはアメリカCDC(疾病対策センター)が日本への渡航注意を呼びかけている。逆に日本人が渡航しても、「日本人は来るな」と迷惑がられるのが関の山だ。

これから日本でもアウトブレイクが起きると…

それは、2003年当時にSARSが蔓延した当時の香港、台湾と同じ状況に置かれているといえる。このまま日本で都市型のアウトブレイクが進めば、まさにその当時の香港、台湾の轍を踏むことになる。

例えば、台湾にある日系企業のオフィスではこんな対策がとられていた。まず、建物の入り口で検温され、異常がないと手をアルコール消毒し、中に入れる。そのままオフィス階に上がると、また手をアルコール消毒して、閉じられた扉の奥の会議室に通される。そこではじめて担当者が「ここは消毒が行き届いている部屋ですので、マスクを取りましょう」と言って、マスクを脱ぐ。そして、通常の会話が始まった。

テレワークとまでは言わないまでも、当時も電話やメールで本社や関係取引先と連絡はとれた。だが、人の往来は著しく制限される。「商談をするにも、人と会うと会わないとでは、ぜんぜん違う」と言った。盛り上がりに欠けたり、その場の雰囲気というものが違うという。おのずと仕事の効率も落ちる。企業活動の停滞は否めない。


SARS発生時には村人以外の通行を禁じる対応をとった村もあったが、それは今回も同じような対応をしている村もある(2003年筆者撮影)

SARSでも、そして今回の新型肺炎でも、中国のある村では住民以外の立ち入りを禁じる看板を掲げて、村人が見張りに立つ風景があった。日本国内でも、これに似た対応をする地域が出てくる可能性はある。

2003年のSARS流行時の香港では、子どもたちがマスクをして集団登下校していた。SARSは子どもには罹りにくい、罹っても軽症とされたが、それは結果であって、当時は子どもたちを守ることに懸命だった。

今回の新型コロナウイルスも、子どもにどう影響するかわからない。すでに和歌山では10代の感染者が出ているし、北海道ではラベンダーで知られる中富良野町で21日に10歳未満と10代の男子児童の感染も確認された。小学生の兄弟で、弟が先に発症している。海外渡航歴もないという。


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さらには、武漢からのチャーター便で父親と帰国した埼玉県在住の未就学の男の子にも感染が見つかっている。帰国当時は陰性であったにもかかわらずだ。

これから受験シーズンが本格化し、卒入学シーズンへと向かう。人の集まる機会も増える。受験生にとって、インフルエンザ対策は例年のこととはいえ、今回はまったく違ったウイルスだ。

致死率が低くても感染者数は非常に多い

WHO(世界保健機関)によると致死率は2%と、SARS(致死率9.6%)よりも低いとされる。毎年流行するインフルエンザでも、日本国内で近年は約3000人が命を落としている(致死率0.1%)。


2003年当時の香港ではマスクを着用した登下校を子どもたちは行っていた(筆者撮影)

感染者の数が増えれば相対的に死者の数も増えることになるし、そんなウイルスが国内に入ってこなければ、インフルエンザで死なずに済んだはずが命を奪われることにもなりかねない。

これから日本人は不自由で手間のかかる生活を送らなければならい。すでに東京マラソンの一般参加が取りやめになるなど、大規模イベントの中止も相次いでいる。

その中で各自がウイルスから身を護らなければならない。

日本国内で感染経路不明な市中感染が広がっている今、仮に自分が感染したとしても、誰のせいにもできないし、誰かに責任を押しつけることなどできない。処置が遅れたとしても文句も言えない。その段階にきている。