総合電機大手の三菱電機で「異変」が起きている(撮影:梅谷秀司)

総合電機大手の三菱電機で、不祥事やトラブルが相次いでいる。

三菱電機は2月10日夜、社内ネットワークが外部からのサイバー攻撃を受けた問題で、これまで流出していないと説明していた、防衛に関する重要な情報が流出した可能性があると発表した。

防衛省によると、流出した可能性があるのは、防衛装備庁が2018年10月に貸し出した装備品の研究試作の入札に関連した資料で、取り扱いに注意すべきとする注意情報が含まれていた。防衛省は最終的には三菱電機とは別の企業が契約を締結しており、流出が安全保障に与える影響については「精査中」と発表した。

大きく変転する三菱電機の説明

三菱電機は1月20日に、サイバー攻撃によって個人情報や企業機密が外部に流出した可能性があると発表していた。この時点では、防衛や電力、鉄道など社会インフラに関する機微な情報や機密性の高い重要な情報は「流出していないことを確認済み」と説明していた。しかし、1カ月も経たないうちに当初の説明が180度ひっくり返った。

防衛省の資料は紙媒体で渡され、そのまま返却するのが決まりになっていた。三菱電機は資料を受け取る際に情報の保全に関する誓約書を防衛省に提出していたが、紙資料を無断で電子データ化し、保存していた。重要な情報が流出していないと当初説明していた理由について、三菱電機は「流出した恐れのある資料は最初の調査対象から漏れていた」と説明した。

防衛装備庁の担当者は、「資料を電子データにして保存することは許可しておらず、不適切な取り扱いだった。この先、追加で何か出てこないとも限らないので、処分は全容が判明次第、検討する」とコメントした。最終的な調査結果の判明時期について具体的な回答は得られておらず、三菱電機の説明に防衛省は不満を募らせている。

防衛情報の流出可能性を発表したのと同じ2月10日には、製品の出荷検査不備も明るみに出た。パワー半導体製品の一部で、顧客と取り交わした規格どおりの出荷検査を行っていなかったのだ。

パワー半導体は家電のほかに、電鉄や送電などのインフラ関連でも使われている製品で、出荷検査の誤りは2014年11月から2019年6月まで5年近く続いていた。出荷検査不備は2019年6月下旬にパワーデバイス製作所で品質管理の見直しをしている最中に判明。三菱電機は「検査規格値よりも高い許容範囲をもつように設計しているため、機能や安全性に問題ない」と説明しているが、問題は顧客への報告が発覚から半年以上後の2020年2月上旬まで遅れたことだ。

顧客への報告が半年以上もかかった理由について、三菱電機は「パワーデバイス製作所を管轄する半導体・デバイス事業本部へ報告があったのは7月上旬で、そのときに顧客へできるだけ早く報告するよう指示があったが、対象の顧客向けの全製品を確認するのに時間を要した」と説明している。

子会社で仕様不適合製品を出荷する過去も

三菱電機は過去にも不適合な製品を出荷するトラブルを起こしている。2018年には子会社のトーカン社が契約仕様に適合していない製品を出荷していたことが判明した。製造委託元と契約した仕様に満たないゴム製品を、少なくとも10年にわたって出荷していた。その問題を受け、2018年12月から2019年3月まで、国内の全事業所と子会社121社を対象とする品質保証体制の再点検を行っていた。

再点検の過程で、子会社の菱三工業が仕様不適合の鋳造製品を出荷していたことも発覚した。こうした事態を受け、2019年8月に品質保証体制を強化していくとしていたが、新たにパワー半導体の出荷検査不備が続いていたことが発見され、発覚後も顧客への報告が遅れた。検査要領書の改訂を担当する部門が改訂を怠り、改訂の確認行為も不十分だったために、実際の検査を担当する部門が旧規格のままで検査を継続していた。

過労やそれに伴う自殺も繰り返し起きている。

三菱電機によると、2014年から2017年に三菱電機の社員5人が長時間労働などで労災認定され、うち2人は長時間労働が原因で過労自殺をしている。この5人とは別に、2019年8月に上司からパワーハラスメントを受けたとされる新入社員が自殺し、上司は2019年11月に自殺教唆容疑で書類送検された。

三菱電機は1月に「最優先課題」として労務問題の再発防止策「職場風土改革プログラム」を公表した。しかし、新たな施策は一部分に限られ、改革を遂行するための専門組織も設置されていない。

失敗しても上司に相談できない

一部上場企業で、これほど短期間に長時間労働を原因とした労災認定が相次ぐのは異例のことだ。たび重なる品質問題も含め、三菱電機社内でいったい何が起きているのか。

三菱電機の元社員は「失敗しても上司に相談できる環境ではなく、(仕事の)ミスや問題はそのまま引き継がれていた」と打ち明ける。こうした企業風土が、隠蔽(いんぺい)とも受け取られかねない問題の報告遅れや社員の自殺を招いている可能性がある。

三菱電機は、携帯電話や洗濯機といった不採算事業からいち早く撤退して「選択と集中」を進め、2009年のリーマンショック時にも赤字に転落しなかった数少ない大手電機メーカーだ。事業や工場ごとに損益を管理し、「優等生」と呼ばれる収益体制を保ってきた。

その一方で、部門ごとの独立度が高く、「事業間の連携がとりにくい」(三菱電機幹部)という課題も抱えている。社長直轄で事業横断的な取り組みを先導するビジネスイノベーション本部を2020年4月に新設し、事業間のシナジーを高めていこうとしていた。

防衛情報の流出疑惑を受け、社長直轄の情報セキュリティ統括室を4月に新設すると発表した。文書管理の再点検や従業員教育の充実を進めるが、実際の情報の利用・管理は各事業本部の本部長や事業所長が管理責任を負う体制は従来と大きく変わらない。

2020年3月期は、売上高が4.5兆円(前年同期比0.4%減)、営業利益が2600億円(同10.5%減)と減収減益で、柱のFA(ファクトリー・オートメーション)や自動車機器関連の市場環境が厳しいながらも、家電や重電は堅調だ。株価も1500円前後で安定的に推移し、一連の不祥事などに大きく反応しているようには見えない。

だが、「経営戦略の基本は、社会課題を解決するような企業になろうということ」(杉山武史社長)と掲げる以上、社内ガバナンスの改善は急務だ。