デジタル化時代の波を受けて、メーカーはどのような巻き返しを図っているのだろうか(写真:kou/PIXTA)

スーパー、コンビニ、デパート、量販店、専門店……どの店も、売りたい商品はたくさんあるだろう。しかし、好きなだけ商品を並べることはできない。売り場には限りがあり、棚のスペースも限られているからだ。さらに言えば、陳列棚の中にも、よく売れる棚と、売れにくい棚とがある。

この「棚」をめぐっての、メーカー同士の場所の奪い合いも熾烈だ。例えばカップ麺であれば、スーパーなどのインスタントラーメン売り場の中で、厳しい棚の奪い合いが繰り広げられている。お客さんから見えやすい位置、商品を取りやすい位置にある棚は「ゴールデンゾーン」と呼ばれる、いわば一等地だ。

そんな棚の奪い合いに勝っているのは、どのような商品なのか。そして、デジタル化の時代にそうした棚自体はどうなっていくのか。拙著『2025年、人は「買い物」をしなくなる』でも詳しく述べているが、ここでは、近年のプライベートブランドの拡大と、それによって「リアル店舗の棚」を奪われたメーカーが、どのように巻き返しを図っているのか、新しい動きとともに説明していきたい。

プライベートブランドが席巻するカラクリ

ここ数年、棚を席巻しているのは、スーパーやコンビニの棚に並ぶ、いわゆる「PB商品」だ。

PBとはプライベートブランド(Private Brand)の略で、スーパーやコンビニなどの小売店が持つ独自ブランドを指す。小売店にとっては、独自に企画して販売することから、メーカー品を仕入れるよりもコストを低く抑えられるメリットがある。

よく知られたものでは、セブン-イレブンの「セブンプレミアム」、ファミリーマートの「FamilyMart collection」、ローソンの「ローソンセレクト」、イオンの「トップバリュ」、西友の「みなさまのお墨付き」、日本生活協同組合連合会の「CO・OP」など、皆さんも買い物をしているときに必ず目にしているはずだ。

PB商品は、出始めの頃こそ「NB商品(ナショナルブランド商品=メーカーブランドの商品)よりも品質が低いのでは?」という疑いの目が向けられていたが、近年は消費者にも安さと品質が受け入れられており、確実にリアルの棚を奪っている。実際、PB商品が売り場で最もいい棚に、大量に置かれることは珍しくなくなってきているのだ。

最近では、「セブンプレミアムは知っているけど、○○食品工業や△△パンは知らない」という子どももいるという。確かに、従来の棚の状況を知らずに今の棚を見せられたら、そういった認識になることもあるのかもしれない。これは欧米でも同様で、どの小売業もPB商品の開発に最も力を入れている。

それだけ、メーカーは急速に棚を奪われてしまっているということだ。メーカーと小売業者間で棚をめぐる綱引きがあり、劣勢のメーカー品は隅に追いやられてしまったのである。

棚を奪われたメーカーの「DtoC」という反撃

しかし、メーカーも黙ってはいなかったのだ。小売業者から棚を奪い返すべく、新たな戦略を展開し始めた。それが、「DtoC(Direct to Consumer)」である。DtoC(D2Cと表記されることが多い)とは、メーカーが商品を小売業者に卸すのではなく、直接、消費者に販売するという方式を指している。

「メーカーは店舗を持たないのに、どうやって販売をするんだ?」

そう思われるかもしれないが、「店舗」の代わりとなっているのが、ネットショッピング、すなわちEC(Eコマース=電子商取引)サイトだ。ECサイトは、メーカーが独自に運営することも可能だし、Amazonや楽天など、既存のECサイトで商品を販売することもできる。

DtoCという選択により、メーカーは自由度の高い販売戦略が可能になった。このDtoCは、小さなメーカーでも、工夫次第で自社商品を人気商品に育てることが可能なのだ。

実際、小さなメーカーがヒットを出した事例も少なくない。例えば小さな水産加工場や農場、牧場が、自分たち独自で商品を開発し、それを自分たちで販売しているケースは少なくない。

大手メーカーは長く、多く売れるものを大量につくるが、小さなメーカーは短いリードタイム(製造に要する時間)で小ロットなものをつくって市場で売ることができる。

そうした商品はスーパーなどには並べることができないが、その価値を認めてくれる消費者がいれば、ECサイトでも十分に勝負できる。

まさにこれを体現した例として、楽天のサイトでの販売から始めて成長したヘアケアブランド「BOTANIST(ボタニスト)」が挙げられる。BOTANISTは、天然由来のボタニカルシャンプーのパイオニア的ブランドで、最高級シリーズでは1本4980円と高価な商品だが、一人ひとりに合わせたパーソナライズシャンプーとして人気がある。今はECだけではなく、ドラッグストアでも販売されている。

実際、TVを見ず、実店舗での買い物離れも進んでいるようなネットユーザーが好む、楽天やAmazonといったサイトで売れているブランドは、リアル店舗で売れているブランドとはまったく違う。つまり、リアル店舗の売り場・棚ではなく、ネット上に巨大な棚が存在し、そこにはまだ大手も手つかずの市場があるのだ。

アメリカでは個人がつくった商品が大ヒット

2015年に、ジェン・ルビオ氏とステフ・コーリー氏、2人のアメリカ人女性が企画したキャリーケース「Away(アウェー)」は、創業わずか2年で50万ケースを売り上げる大ヒット商品となった。

Awayの特徴は、「スマートフォンなどを充電できるモバイルバッテリーが内蔵されている」という点だ。モバイルバッテリーを持ち歩けば解決するかもしれないが、旅行中、荷物を詰め込んだキャリーケースを街中で開くのは面倒だ。しかし、Awayは外部に充電可能なUSB差込口があるため、そのような心配とは無縁で、移動中でも簡単にスマートフォンを充電できるようになっている。

Awayがヒットした理由の1つは、「旅行中にキャリーケースを開かなくてもスマートフォンを充電できる」という新しさで、若者の共感を得られたからだろう。ただ、このアイデア1つでこれだけの大ヒット商品になるとは考えにくい。重要だったのは、消費者の共感を得るための「ストーリー」だ。

このAwayが生まれたきっかけには、共同創業者のルビオ氏自身の経験があった。彼女がキャリーケースを買い換える際に、自分に合った商品が見つからなかったのだという。さらに、実際にキャリーケースづくりに取りかかるときには、1000人以上の聞き取り調査を行い、「こんなのが欲しかった!」という開発プロセスもストーリーに入れたこともポイントだろう。

「世界一の履き心地」といわれるAllbirds(オールバーズ)というスニーカーブランドにも、SNS上で誰かに語りたくなる「ストーリー」がある。

Allbirdsは、元プロサッカー選手でニュージーランド代表としてワールドカップへの出場経験もあるティム・ブラウン氏が2016年に開発したウール製スニーカーだ。

元サッカー選手の彼にとって、シューズはいつでも特別な存在だ。しかし彼は、合成素材のシューズではなく、天然素材のシューズがあったらいいなと思うことがあった。そこで、ウール製スニーカーの特許を取得し、クラウドファンディングサイトの「Kickstarter(キックスターター)」で募集をかけると、わずか4日間で約12万ドル(約1295万円)という資金が集まった。

その後、再生エネルギーを専門とするバイオエンジニアのジョーイ・ズウィリンガー氏とともに創業すると、Allbirdsはさらに飛躍を遂げる。シリコンバレーの著名人らの間でAllbirdsが人気となり、「ITスニーカー」とも呼ばれるようになったのだ。

さらに、この製品の素材に関連して、別のストーリーもある。前述したように。一般的な合成素材のスニーカーとは違い、Allbirdsのスニーカーは、ブラウン氏のこだわりによってウールやヒマシ油といった天然素材が使われている。高い環境基準を満たした製品をつくることで、「環境にもやさしい」というストーリーまでそこに加えたのである。

アメリカではDtoCモデルが一大ブーム

一般的にDtoCは、メーカーが直接、自分たちの商品を消費者に届けるビジネスモデルのことを言うが、アメリカでは、こうしたDtoCモデルが一大ブームとなっている。売上規模として、ECサイトでの販売だけで100億円、200億円と売り上げる事例が相次いでいるのだ。


これらの成功例の共通点は、「SNSを活用しながらネットユーザーを巻き込んでいる」という点である。今の消費者は、リアル店舗での買い物離れが進んでいるし、広告よりもSNSで広がっているものに飛びつきやすい。いったんネット上で人気を得れば、今度はリアルの小売店もその商品を置きたがる。

実際、ネット上にある商品棚でシェアを獲得したメーカーが、リアル店舗の棚も獲得するという「棚取りの逆転現象」も起こっているのだ。

ネットユーザーの市場ニーズを的確に分析し、ネット上でファンをつかめば、大手メーカーでなくても十分に戦える。

こうした事例はそのことを示している。現在では、メーカーが市場ニーズをつかむために、従来の「グループインタビュー調査」ではなく、SNSの投稿や商品レビューなどを分析して商品開発するブランドも徐々に増えてきている。まさにネット上にあるビッグデータを活用した「オンラインブランド」の出現ともいえるが、こうした動きも注目に値する。

リアル店舗での買い物離れが進む時代、「DtoC」はメーカーが消費者を奪い返すためのキーワードになるだろう。