昨季チャンピオンズリーグ覇者のリバプールが、アトレティコ・マドリードに敗れた。

 大会2連覇を目指すリバプールは、2月18日に行なわれたA・マドリードとのCL決勝トーナメント1回戦・第1レグを0−1で落とした。リバプールが本来の持ち味を示せなかったこともあるが、それ以上に目を奪われたのは、アトレティコ・マドリードのパフォーマンスだ。


ベンチ入りした南野拓実に最後まで声はかからなかった

「これぞ、ディエゴ・シメオネ監督の真骨頂」と言うべき、まったく隙のない試合運びだった。

 前半4分という早い時間帯にコーナーキックから先制点を奪うと、その後は守備を重視。4−4−2の4DFと4MFの2ラインで守備ブロックをつくり、コンパクトに陣形を絞ってスペースを与えなかった。

 本来のリバプールであれば、こうした守備ブロックもこじ開けることができる。強力3トップのスピードを生かしたり、ワンツーなどの連係プレーからネットを揺らすが、A・マドリードは最後まで集中が切れなかった。


 リバプールの選手が守備エリアに入ってくれば、マーカーが執拗に追いかける。かわされたら、すぐに別のマーカーが寄せにいった。クロスボールやミドルシュートが入りそうなら、目一杯、足を伸ばしてブロック。プレス&カバーの連動性も高かった。

 選手たちがエネルギッシュに走り回りながらも、チームとして隙がない。これほどまで嫌らしさのあるチームは、今のプレミアリーグではお目にかかれない。

 ハーフタイム時、BBCラジオで解説を務めたスティーブン・ウォーノック氏(※現役時代はリバプールやアストンビラでプレー)は、「このペース配分なら、A・マドリードはいずれ足が止まる。リバプールはテンポよくパスを続けていれば、いずれ決定機は生まれる」と話していた。

 たしかに後半、リバプールにチャンスは生まれた。だが、その数は少なかった。スコアは1−0。A・マドリードは緻密な守備を90分間通して行なったのだから、リバプールの完敗とも言える内容だった。


 リバプールの苦戦は、スタッツが示している。

 この日、リバプールは前半71%、試合合計で67%のボール支配率を記録した。一時は75%のポゼッションをマークした。

 だが、枠内シュートは0本。ボールを握りながらも、決定的なチャンスはほとんど作れなかった。敵陣ペナルティエリア内でのボールタッチ数についても、前半30分までわずか1回しかなかった。

 本拠地ワンダ・メトロポリターノの雰囲気と声援も、A・マドリードを後押しした。試合前からサポーターの声量がすさまじく、ゴール裏3階席に陣取ったリバプールサポーターの声援を打ち消した。シメオネ監督は何度もスタンドを振り返り、自軍サポーターをあおっていた。

 試合後、ユルゲン・クロップ監督は「シメオネ監督は後ろを振り向いてばかりだった」と皮肉ったが、スタジアムの雰囲気も勝因のひとつになったように思う。

 奇しくも今回の会場であるワンダ・メトロポリターノは、9カ月前に昨季CL決勝でリバプールがトッテナム・ホットスパーを下して欧州王者に輝いた場所。しかし今回ばかりは、リバプールに風は吹かなかった。


 さて、この試合でベンチ入りした南野拓実は、最後まで出番が訪れなかった。

 3日前に行なわれたプレミアリーグでのノリッジ・シティ戦ではベンチ外となったが、A・マドリード戦では18名の登録メンバーに復帰。ノリッジ戦からは、MFアダム・ララーナとDFデヤン・ロブレンがベンチメンバーから外れ、代わりに南野とDFジョエル・マティップが入った。

 途中交代でベンチから飛び出したのは、FWディボック・オリジ(46分から出場)、MFアレックス・オックスレイド=チェンバレン(同72分)、MFジェームズ・ミルナー(同80分)の3人。南野は前半から断続的にアップを行なったが、クロップ監督から声はかからなかった。

リバプールが置かれていた状況」から考えると、南野を起用するには極めて難しい試合展開だったと思う。

 ハーフタイムでマネに代えてオリジを投入した策についても、クロップ監督は「前半に警告を受けたマネがA・マドリードのターゲットにされていた。マネが落ち着いていても、相手が大げさに倒れることは想定できた」と説明した。ミルナーの投入も、同じポジションのMFジョーダン・ヘンダーソンがケガを抱えながらプレーしていたのが理由だった。


 さらに、1点のリードを奪ったA・マドリードは、守備を固めながらカウンターで追加点を狙っていた。リバプールとしては、ひとつの判断ミスや連係ミスから失点することだけは避けたかった。クロップ監督のもとで長くプレーしている既存戦力を投入するのは、極めて理に適っていた。

 その南野は、試合終了のホイッスルが鳴ると、同じく出番のなかったMFナビ・ケイタとともに、引き上げてくるチームメイトのひとりひとりと握手を交わした。だが、チームは敗れ、自身も2試合連続で出番がなかった。

 悔しさは相当あったのだろう。試合後のミックスゾーンでは、うつむきながら無言で通り過ぎていった。

 試合後、クロップ監督は第2レグに向けて、次のように話した。

「チケットを手にしているA・マドリードファンのみなさん、『ようこそ、アンフィールドへ』。アンフィールドが持つパワーについては、これまでも度々話してきた。スタジアムが持つパワーというのは、今日の試合でも確認できた。


 第1戦を終え、今がハーフタイムだ。我々は1点のリードを許しているが、後半は我々のスタジアムで行なえる。それを思い知ることになるだろう。A・マドリード陣営でたくさんの笑顔を見たが、試合はまだ終わっていない」

 第2レグでは、アンフィールドの住人たちが自軍を力強くサポートしてくれるだろう。ただ、マドリードで行なわれた第1レグは、シメオネ監督の狙いどおりに進んだ。

 果たして、勝負はどちらに転がるのか。注目の第2戦は、3月11日にキックオフとなる。