パートナーとの「性生活」についての考え方は、お互いが納得できるようしっかり話し合うことが大切です(写真:Sunrising/PIXTA)

世界から見ても、日本のセックスレス夫婦の数は驚くほど多いと言われている。ことに子どもが生まれてからは、パートナーを父親母親という役割で見てしまい、性生活を遠ざけてしまう傾向にある。しかし、結婚前からパートナーにそれを言い渡されたら、あなたならどうするか?

仲人として婚活現場に関わる筆者が、毎回1人の婚活者に焦点を当てて、苦悩や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、婚約した後に性生活の考え方の違いがわかり、婚約破棄となった女性の話を取り上げる。

成婚退会し、結婚に向けて準備を進めていたが…

一昨年の12月に成婚退会をした吉田恭子(仮名、41歳)から、先日1年2カ月ぶりにメールが来た。


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「成婚退会し、結婚に向けて着々と準備を進めていました。ところが、年が明けて2月に入り、突然彼が、『結婚をやめたい』と言い出し破談になりました。そこから1年いろいろな葛藤がありましたが、やっと過去に決別しようという気持ちになりました。一度お話を聞いていただけませんか?」

早速面談の日程を決めて、会うことにした。事務所にやってきた恭子は、思いのほか晴れ晴れとした顔をしていた。すでに自分の中では、気持ちの整理をつけたのだろう。

「今日はここに、苦しかった過去を葬りに来ました!」

笑顔でこう言うと、これまであった出来事を語り出した。

恭子は、都内の企業で自身のキャリアを生かして働いている、年収600万円の聡明な女性だ。婚約した相手は7つ年上の渡邊義孝(仮名)で、都内の中堅企業に勤めている、年収500万円の会社員だった。

「私のほうが年下でしたが、お付き合いをしているときからすべて私が主導していました。『そろそろ真剣交際に入らない?』『ここで結婚を決めて、成婚退会しない?』という申し出に、彼は『そうだね』と言って、ついてきた感じなんです」

成婚退会後は両家の顔合わせを済ませ、結婚式場を予約し、新居を契約し、入籍日を決めるなど、滞りなく結婚に向けての準備が進められていった。ただこうした中で、恭子には1つだけ懸念事項があった。

「キスもしていない。体の関係もない。手も2回くらいつないだだけ。その2回も、遠出したときに私からつないだんです。最初は何もしてこない彼に対して、“恋愛経験がないから奥手なのかな”と思っていました。それはそれで遊んでいるよりはいい。結婚と恋愛は別。結婚は生活なのだから何よりもまじめな人が1番だと自分を納得させていました」

「子どもはいらないと言ったじゃないか」

そして2月に入り、入籍する日も決めた。夫婦となることが現実味を帯びてくると、“まったく何もしてこようとしない彼と、このまま結婚していいのか”と言う疑問が頭をもたげるようになった。

「やっぱりそこは聞いておいたほうがいいと思ったんです。それで、『義孝さんは、女性経験ってあるの? 夫婦になったら、そういうことをするのも大事だと思うんだけど』と言ったんです」

すると、とんでもない答えが返ってきた。

「恭子さんは、『結婚しても子どもはいらないって言ったよね。お互いの年齢を考えたら、子どもを産んでも育てていくのが大変だから』って。僕もまったく同じ気持ちだった。だから、結婚してもそういうことをしなくて済む。それが楽でいいと思ったから、この結婚を決めたんだよ。今になって何でそんなことを言うの?」

恭子は、唖然とした。そして、さらに聞いた。

「子どもを作るためだけじゃなくてコミュニケーションをとる大事な方法でもあるんじゃないの?」

すると、義孝は言った。

「僕はもう47歳(当時)だし、性欲自体もなくなってきているし、女性とはこの10年間、まったくお付き合いしていない。体の関係を強要されるなら、結婚する自信がないな」

思いもよらない義孝の言葉に、恭子は頭の中が真っ白になった。その日はそれ以上問い詰める気持ちにもなれず、そのまま別れた。すると夜、義孝から、さらに驚く内容のメールが届いた。

「今はいろんなスタイルの夫婦がいるよね。その例として、こんなブログを見つけたので、URLを送ります。僕はこの夫婦の旦那さんの気持ちが、すごくよくわかります」

そのブログとは、ある夫婦の夫が書いたものだった。“自分たちの夫婦関係は一般的には理解されないかもしれませんが、とても幸せです”というくだりから始まっていた。

“自分と妻には性生活がない一方で、妻にはそれを満たす彼氏がいます。それは僕も公認です。そして、その彼氏と僕はよき友人でもあり、3人はとてもいい関係を保っています”というものだった。

恭子は、私に言った。

「結婚前から、“僕はあなたとしたくないから、そういうことをしたいなら、よそに恋人を作れ”ということなのか! もう私には理解不可能で、どうしたらいいのかわからなくなりました」

話し合う前から、結論を出していた

恭子自身が、とても混乱してしまった。そこで、間に人を立てることにした。第三者の女性にすべてを話し、まずは彼女が義孝と会って、彼の真意を聞いてくれることになった。

その女性と会った彼は、こんなことを言ったそうだ。

「結婚したら“ほかで恋人を作れ”という意味であのブログを送ったのではありません。ただ、自分は結婚してから体の関係を求められても、それができるかどうかわからない。またそういうことをしたいとも思わない。だからそれを求められるなら、精神的に苦痛です」

女性から義孝の言葉を聞いて、恭子は再び唖然とした。しかし、もう親も巻き込み、会社にも結婚することを告げ、結婚式場も、住む場所も、入籍日も決めてしまった。これを覆すにはかなりの勇気がいる。ここまで結婚の話を進めてしまったのは、自分にも責任がある。ここはもう腹をくくろう。まずは結婚をしよう。そのたった1つのことを除けば、人間的には誠実でいい人なのだから。

そして、入籍を2週間後に控えたある週末、恭子、義孝、間に立ってくれた女性の3人で会って、腹を割って話をすることになった。人には聞かれたくない内容だったので、都内のレストランの個室を取った。恭子と女性が待っていると義孝がやって来て、席に着くなり言った。

「今回の件で、自分が結婚に向いていないことがわかりました。婚約は解消してください。結婚は白紙に戻してください」

話し合う前から、結論を出していた。

義孝に言わせると、前回、間に立つ女性に自分の気持ちをすべて話した。彼女は僕の考え方を決して否定しなかったので、もう終わったものだと思っていた。それで、今日はその気持ちだけを伝えにきた。

「言うだけ言ったら、もう逃げの一手。この場から一刻も早く立ち去りたいという態度が見え見えでした。私は、その様子にすごくイラッときました」

それから1週間後に、今度は2人で会った。

「そのときも、私の意見なんてまったく聞こうともせず、今後の具体的な後始末の仕方を話し出したんです。新居の解約費用、結婚式場のキャンセル代、指輪のお金はすべて折半にする。そのお金の振り込みをいつするかという話もしてきて、できるだけ早くすべてを終わりにしたいという態度が手に取るようにわかりました」

そんな彼の様子を見ていたら、恭子もこの結婚に未練がなくなった。その後は、淡々と結婚を白紙に戻すための後処理を各方面でし、お金の精算をして、この話は破談となった。

「一方的に婚約破棄をされたのに、それまでかかってきたお金がすべて折半というのは解せなかったけれど、“もういいや”って」

しかし、破談の後始末を終えたときに、彼から送られてきたメールを読んで、恭子は怒髪天を衝いた。

「自分の仕事が忙しく、それが態度に出てしまったことが、今回の婚約解消につながってしまったのだと思います」

そこには謝罪の言葉もなく、婚約破棄になった理由がつづられていた。何を言っているのだろう。今回の破談になった理由は、仕事が忙しかったからでない。自身の身体的、生理的な理由からだ。しかし、それは男の沽券に関わるのか認めたくないのだろう。そして、怒りの後には、情けなさが襲ってきた。

付き合っているときに気づくべきだった

恭子は、私に言った。

「私も焦っていたんですよ。なんとか年内には結婚のメドをつけたかった。ダメになった後で付き合っていたときのことを思い出すと、おかしなところはたくさんあったんです。でも、とにかく“結婚をしたい”という前のめりの気持ちが大きかったから、“そんなのささいなことじゃない”と、自分に言い聞かせて見過ごしていました」

義孝は一人っ子で、47歳になるまで一度も実家を出たことがなかった。掃除も洗濯も食事もすべて母親任せ。あるとき、「下着もお母さんに洗ってもらっているの?」と驚いて聞く恭子に、ニコニコしながらこんな答えを返してきた。

「母親が僕と親父の下着を買ってくるんだけれど、同じものだから、パンツにはマジックでどちらのものかわかるように、イニシャルが書いてあるんだ」

男女関係になったことがないから、どんなパンツをはいているのか知らなかったが、“そんなパンツは見たくない”と恭子は心の中で思ったそうだ。

さらに、デートは1円の単位までキッチリと割り勘。年収は、恭子のほうが高かったので割り勘には何の不満もなかったが、コンビニで100円の飲み物を買ったときには、さすがにカチンときたという。

「遠出したときに、喉が渇いてコンビニに立ち寄ったんです。私がお茶のペットボトルを取ったら、彼もその後でボトルを取った。2人でレジに向かうと、私の後ろに並んだんですよ。

そのとき、“これも別会計なのか。100円の飲み物をごちそうする気持ちもないのか!”と思いました。それで後ろに並ぶ彼の手からペットボトルを取って『私が一緒に買うから、いいよ』と言いました。『えっ、買ってくれるの?』とうれしそうな顔をするので、『100円くらいだから、いいよ』と苦笑いしました」

新居を決め、家具を見に行ったときも自分の好きな家具や掃除機を見つけると、恭子の意見には聞く耳を持たず、「これがいい!」と言って譲らなかった。

顔も普通、性格も決して悪い人ではない。ただ、47歳の大人の男にしては、子どもじみている部分が随所に目についた。

最後に恭子は、言った。

「破談になって以来、 “結婚しなくて本当によかった”と自分に言い聞かせていたものの、最初はやっぱりつらかった。日にち薬だと思って生活をしていて、昨年の夏ごろは気持ちも随分落ち着いたんです。でも、彼とお見合いをした秋になったら、またつらい気持ちがぶり返してきた。街のイルミネーションを見たりすると、“2人でここに行ったな”“あそこでこんな話をしたな”って、思い出してしまって」

0と100の人が結婚するのは難しい

そして、年が明け、婚約破棄をした2月に、“もうこれで気持ちにきっちりと整理をつけよう”と私を尋ねてきた。

「今日を最後に、婚約破棄した過去とは決別します!」

正直なところ、今はまだ婚活を再開する気持ちにはなれないという。しかし、子どもを望んでいないのなら、気持ちが前向きになったときにまた婚活を再開すればいい。

人間の3大欲求は、食欲、睡眠欲、性欲だと言われている。ただその欲求の強さは、人それぞれに違うだろう。食欲、睡眠欲に関しては、結婚しても個人で管理していけば、夫婦間の大きな問題にはならない。しかし、性欲に関しては互いを求め合うことなので、0と100が結婚するのは難しい。

あいさつ代わりにキスやハグをする文化が定着していない日本では、性に関することをオープンに話すのは、はばかられる傾向にあるが、結婚を意識している相手とは、しっかり話し合うことも大切なのかもしれない。