いま、NHK連続テレビ小説「スカーレット」がふたたび盛り上がりをみせている。昨秋の初回視聴率は20.2%と好発進だったが、その後は19%前後程度と失速気味だった。しかし2月17日(月)に放送された、第20週115回では19.9%と回復しているのだ。

【画像】10年前、茶髪アフロヘア時代の松下洸平

 この立役者となっているのが、戸田恵梨香演じる主人公・喜美子の夫・八郎役を務める俳優・松下洸平(32)だ。


喜美子の母親の死後、十数年振りに喜美子を訪ねた八郎。(NHK「スカーレット」2月11日放送 第110回より)

「八郎ロス」に陥った視聴者も

 八郎と喜美子はともに陶芸家の“同業者夫婦”なのだが、いつしかすれ違いが生じていた。1000度以上の炎を扱う“穴窯”に危険を顧みず挑む妻に対し、八郎は「ぼくにとって喜美子は女や。陶芸家やない、ずっと、男と女やった」「頼む、危ないことせんといてほしい」と懇願する。しかし喜美子は「うちは陶芸家になります」と宣言して穴窯に挑戦。2人は価値観の違いから離婚に至ってしまう。

 松下が演じる、朴訥とした優しい八郎に同情的な視聴者も多く、SNSには「#もう喜美子の意地は視聴者にとって苦」というハッシュタグも登場した。離婚後、めっきり出演回数を減らしていた八郎に「八郎ロス」に陥った視聴者もいる。

 しかし第20週となる今週、物語は新たな局面を迎えようとしている。一度は別れた喜美子と八郎が10年以上ぶりに食卓を囲む様子が描かれ、2人の今後の展開に注目が集まっているのだ。その期待が、視聴率の回復につながっているのだろう。

「『1人だと寂しいだろうから』って一緒に登校してくれていたんです」

 この八郎を演じる松下洸平はどういった人物なのか。取材を進めると、八郎同様、松下の人生にも喜美子のように強い信念をもって仕事に邁進する女性たちの存在が明らかになった--。

 松下は1987年3月6日に東京で生まれた。松下の小学生時代について「洸平くんはとにかく優しかったです」と明かすのは、同じ小学校に通っていたというAさんだ。

「当時は私が小学1年生で洸平くんは小学5年生。同じマンションに住んでいたのですが、片道15分くらいの通学路を『1人だと寂しいだろうから』って一緒に登校してくれていたんです。小学校に入学したてで、まだ友達もいなかった私を気遣ってくれたのでしょう。もう20年以上前のことなので忘れていましたが、テレビで洸平くんを見て思い出しました。あのお兄ちゃんが今では朝ドラに出ているなんて。びっくりしています」

 この頃にはすでに、松下はある女性の影響を受けている。業界関係者が語る。

ブログでも母親への敬慕の念を衒いなく綴る

「松下さんは画家であるお母さんの影響を受けて、幼い頃から油絵を描いていたそうです。お母さんは都内の美術大学を卒業して、現在も油絵の画家として活躍されています。女流画家協会や上野の森美術館の大賞展に何度も入賞するなど、写実的な油絵を描く実力者です。幼稚園や老人ホームで絵を教える活動もされていました。さらにはボディビルダーとして過去に選手権で優勝したこともあるとか。今は実家で絵画教室を開いているようですよ」

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明日からハチさんはちょっくら銀座に行くそうです。お守りにタヌキの顔持っていく言うてました。 #持ってったらあかん  #かぶれそうでかぶれなかった #スカーレット

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 松下は、インタビューでも母親についてたびたび語っている。朝ドラへの出演を熱望していたのも母だったという。

《実家に帰るたびに、いつも“朝ドラ”を観ている母から『“朝ドラ”に出ないの?』と言われていたんです。実は何度も“朝ドラ”のオーディションを受け続けてきて、箸にも棒にもかからない日々を数年間経験していました。ですので“朝ドラ”出演の報告をしたときの母の喜びを見たときは、本当にいい親孝行をしたなと思いました》(「シネマトゥデイ」2019年12月7日配信)

 いい親子関係を築いてきたのだろう。松下は自身のブログでも、母親への敬慕の念を衒いなく綴っていた。

《僕を一人で育ててくれた母に恩返しがしたいとよく思う。小さな頃ね、お兄ちゃんとお母さんと3人でNYに行った。(中略)何故かは覚えてないけれど僕は不機嫌になり駄々をこねて、母を困らせた。その事を今でも覚えてる。(中略)この歳になって、その事を凄く後悔している。(中略)またいつか、3人で自由の女神を見に行きたい。その時は、駄々こねず、家族でたくさん写真を撮りたい。それが僕の夢。母は、あの時駄々をこねた僕の事覚えてるかな》(2011年08月16日)

 母親の影響で絵画に目覚めた松下少年だったが、中学でストリートダンスに傾倒し、高校卒業後は専門学校東京ミュージック&メディアアーツ尚美(現:尚美ミュージックカレッジ専門学校)ヴォーカル学科に進学。カフェやアパレル店でバイトをしながら、音楽漬けの学生時代を送った。

絵を描きながら甘い声で歌うスタイル

 しかし専門学校卒業後、2008年からは持ち前の画力を生かして“ペインティング・シンガーソングライター”として、絵を描きながら歌うという独自のスタイルで芸能活動を開始した。当時の芸名は「洸平」。同年11月にシングル「STAND UP!」でCDデビューし、2009年には人気子供番組「ポンキッキーズ」(フジテレビ系)シリーズの「Beポンキッキ」(BSフジ)のエンディング曲を担当するなど、デビュー時は歌手活動がメインだった。

 松下のライブには多くの女性ファンが詰めかけた。ライブハウス関係者が「みなさんうっとりとしていた」とその様子を明かす。

「うちでやったライブにいらっしゃったファンはみなさん女性で、20代から40代までと幅が広かった。松下さんは歌の前奏で絵を描き、歌って、間奏で絵を描き、そしてまた歌う。歌は親しみのわく歌詞とメロディで大衆受けしますし、絵もポップで可愛らしいテイストが多いのでとっつきやすい。しかも歌声がとても甘いんです。女性が夢中になる気持ちもわかります」(同前)

 歌手としても固定ファンがいた松下だが、ミュージカル「グローリー・デイズ」に出演したことがきっかけで、23歳の時に事務所移籍と同時に歌手から俳優へと活動の舞台を移す。この移籍に重要な役割を果たしたのもある女性だ。

“育ての母”は名物女性マネジャー

「松下さんにはこの頃、名物女性マネジャーがついていたんです。年齢は当時で40代くらいでしょうか。イベントの打ち合わせで、マネジャーさんが『松下は歌もいけるけど、本当は役者をメインに売っていきたいんです』と熱く語っていました。彼女とは何度かご飯を一緒に食べたことがありますが、松下さんへの入れ込みようはすごかったですよ。松下さん本人に明確な進みたい道があるというよりも、マネジャーさんがしっかり売り方を考えていて、その方針のもとで松下さんが才能を発揮していっているように見えました」(同前)

 彼女の存在は舞台の世界でも有名だった。

「松下さん自身は自分から目立とうとするタイプではなく、稽古でも本番でも真面目で控えめな性格でした。しかしマネジャーが松下さんの素質に惚れ込んでいて二人三脚で頑張っていました。まるで仲のいい母と息子のようでした」(舞台関係者)

 “生みの母”と“育ての母”が照らす道を、ゆっくりと歩んできた松下は着実に才能を開花させていった。23歳で出演した舞台「さくら色 オカンの嫁入り」の脚本を書いた赤澤ムック氏が当時を振り返る。

共演者にも愛される人柄

「彼は作品を作り上げる中で、自分がどう立ち回るべきなのかをしっかり考えることができるんです。舞台での松下くんの役は犬の“ハチ”だったのですが、その年代の男の子って、犬の役なんか与えられたら少しはプライドが邪魔するじゃないですか。でも松下くんはそんな様子は見せず、役をもらった瞬間から最後までずっと“ハチ”でした。

 それに、彼は愛され上手なんですよね。犬なので髪をアフロっぽくふわふわにしていたのですが、みんな吸い寄せられるように松下くんの頭を撫でに行くんです。稽古が始まる前にひと撫で、休憩中にひと撫で、みたいな(笑)。親御さんの育て方が良いってこういうことかと思いました」

 ブレイク前夜には、「スカーレット」で八郎の義母を演じるベテラン女優を前に堂々たる演技をみせている。2018年の舞台「母と暮せば」で脚本を担当した畑澤聖悟氏が振り返る。

「長崎で被爆した母と、戦争で亡くなった息子の幽霊の交流を描いた2人芝居なのですが、母親役が富田靖子さん(50)で、息子役が松下さんでした。松下さんが富田さんに『僕ね……』と語りかける直前の、台詞のない、眼差しだけの演技がとにかく良いんです。戦時中という難しい時代設定ながら、母を想う息子を見事に演じていました。素晴らしいの一言でしたよ。演技にも表れていますが、松下さんは人柄が素晴らしくて、富田さんにも可愛がられているようでした」

受賞後には直筆の丁寧な手紙を

 18歳上の女優とも難なくコミュニケーションを取り、2人芝居を演じきった松下。この時の演技が評価され、2019年2月に同作で顕著な活躍した新人に贈られる読売演劇大賞『杉村春子賞』を受賞している。

「受賞は松下さんの実力以外の何物でもないのですが、受賞後、直筆ですごく丁寧な手紙をくれたんです。『本当に素晴らしい作品に出させていただきありがとうございました』と。『スカーレット』の八郎もそうですが、松下さんも古風で実直な男なんですよ」(前出・畑澤聖悟氏)

 久しぶりの八郎の登場によって展開に注目が集まる「スカーレット」。女性たちの手ほどきによって開花した俳優・松下は、喜美子とともに生きていくであろう八郎を、どう演じていくのだろうか。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)