今年5月からプレ運行をスタートする「東京BRT」のイメージ。2車体をつないだ連節バスのほか、燃料電池バスを投入する(画像:東京都都市整備局)

東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村や会場が位置する東京臨海部と都心を結ぶ「東京BRT」が今春から走り始める。小池百合子東京都知事は2月14日の記者会見で、本格運行に先立つ「プレ運行」を5月24日から開始すると述べた。

BRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)は、鉄道や地下鉄などの大量輸送を持たない地域で、新たな公共交通として期待される乗り物だ。臨海部は相次ぐ高層マンションの建設や、オリンピック・パラリンピックの開催後は選手村が広大なマンション群として生まれ変わるなどで人口の大幅な増加が見込まれているが、路線バス以外に公共交通がほとんどない。

渋滞を軽減し、東京臨海部のシンボルとなる公共交通を作ることは、環境ファーストの小池都政にとって喫緊の課題だった。

停留所を絞り高速輸送

高速輸送を特徴とするBRTは、停留所を約1kmに1カ所程度に絞り込み、平均速度を上げる工夫がされている。


東京BRTの停留施設イメージ。歩道側と車道側の両方に屋根があり、利用者がバスに乗り込む際にも雨にぬれない構造だ(画像:東京都都市整備局)

都バスのような路線バスは、一般的に約300mに1つの停留所を設置しているため、それだけ所要時間が長くなる。東京BRTのプレ運行のルートは港区の虎ノ門から中央区の晴海までの約5kmだが、停留所は虎ノ門ヒルズ・新橋・勝どきBRT・晴海BRTターミナルと4つしかない。

停留所の屋根は歩道側と車道側の両側に張り出し、利用者がバスを待つ間だけでなく、乗り込むときも雨にぬれない構造にした。これも運行の平均速度を上げる工夫だという。

使用する車両はトヨタの燃料電池バスと、いすゞ自動車と日野自動車が共同開発した連節バスの2種類だ。


東京BRTに投入される燃料電池バスのイメージ(画像:東京都都市整備局)


東京BRTに投入される連節バスのイメージ(画像:東京都都市整備局)

燃料電池バスは水素を燃料として走り、CO2排出ゼロの環境配慮型車両だ。連節バスは2つの車体をつないだ車両で定員は129人。従来型のバスと比べて1.5倍の乗客を運べる。ディーゼルハイブリッドのため環境性能は燃料電池車より劣るが、大量輸送が可能だ。

車両は都バスのようなラッピングはせず、外観カラーデザインは停留所と統一して一目で東京BRTと判別できるようにする。シンボルカラーは「レインボー」。多様な色の線で、都心と臨海地域のつながりなどを表現しているという。車内はシートの布を江戸小紋柄にして、東京らしさを演出する。

五輪後もしばらくは「プレ運行」

運行は、京成バスの100%出資で設立した新会社「東京BRT」が担うが、今年5月からのプレ運行は京成バスが担当し、2022年度を予定する本格運行の開始以降は東京BRTが運行主体となる。

5月から始まるプレ運行は、主にオリンピック・パラリンピック開催時の混雑緩和が目的で、大会のセキュリティゾーン(バスが走行できない区域)を避ける形で運行。平日のピーク時は毎時片道6便を運行し、輸送力は1時間当たり450人程度。平日日中と土休日は毎時4便を運行する。


プレ運行(1次)のルート図(画像:東京都都市整備局)

オリンピック・パラリンピックの閉会後は、プレ運行(2次)として運行ルートを拡大。虎ノ門ヒルズ―東京テレポート間の「幹線ルート」、虎ノ門ヒルズ―晴海BRTターミナル―豊洲市場前間の「晴海・豊洲ルート」、新橋―勝どきBRT間の「勝どきルート」の3系統を運行する。

大会前・大会後ともに、プレ運行の際の表定速度(停車時間を含めた平均速度)は路線バス並みの11〜15km。車両は燃料電池バスを主体に、一部連節車両を投入予定だ。

環状2号線地下トンネルの完成後、2022年度以降は本格運行に移行。便数も毎時20便に増やし、輸送力も1時間当たり2000人に増強する。バスレーンを設けて定時性を高め、表定速度も新交通システム並みの20kmにスピードアップ。最大輸送力は1時間当たり5000人を目指す。


本格運行時のルート図(画像:東京都都市整備局)

気になるのはコストだ。車両は燃料電池バスで1台約1億円、連接車両で1台約6000万〜7000万円。ただ、燃料電池バスの場合、経済産業省が約5000万円、東京都が約2500万円の補助金を出す。

虎ノ門のターミナルは「ヒルズ」内

東京都の主な負担は、車庫となるBRTターミナルの建設と停留所の設置費用だ。2020年度予算案にターミナルの土地代など130億円を計上する。プレ運行では停留所は仮設だが、本格運行の際は20mサイズの屋根付き停留施設建設に1基当たり1億5000万円が必要だ。建物併設で不要な場所を除き最大約24基分が必要だが、工費総額は出ていない。

東京都ならではのスケールだが、さらに民間活力も手伝い恵まれた点もある。虎ノ門の停留所「虎ノ門ヒルズ」は、今年1月に完成し、4月オープン予定の「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」の中にある。約1000平方mのバスターミナルの中に併設されるため、停留所の設置費用は森ビルが負担する。

バスターミナルが入る虎ノ門ヒルズビジネスタワーは、今年6月に開業予定の東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅と地下通路でつながる。虎ノ門が都心部と臨海部を結ぶ新たな交通拠点となる。

東京都都市整備局はプレ運行開始までに、東京BRTの新造車両を公開するなどして周知を図る。新たな輸送手段であるBRTは、今後さらに人口の増加する臨海部の足を担うことになる。