便利な新サービスとして注目を集めたD2C(Direct to Consumer)だが、そのビジネスモデルの継続は年々難しさを増している。

D2C黎明期では、デジタルネイティブのブランドがオンラインでなかなか売っていない商品の販売だけで成功できた。たとえば、それまでメガネやマットレスを買うには実店舗での手続きが必要なのが一般的だった。それがワービー・パーカー(Warby Parker)やキャスパー(Casper)といった企業の登場で、数クリックで自宅にこうした商品が届くようになったのだ。だがいまや、D2C業界では激しい競争が繰り広げられている。ユニークな商品を売り込もうと、毎日のように新会社が設立されている。すでに似た商品を販売している競合企業があったり、D2Cのモデルに相性のよくないサービスだったりする場合も多い。

たとえばスキンケア分野では、グロッシアー(Glossier)のほかにヒューロン(Huron)やディスコ(Disco)、ルミン(Lumin)など、男性向けのスキンケア商品を展開しているブランドが乱立する。ル・クルーゼ(Le Creuset)のようなフライパンを販売するブランドを見ても、ミロ(Milo)やグレート・ジョーンズ(Great Jones)、イコール・パーツ(Equal Parts)などがあげられる。特に最後の2社はメンバー向けに料理のヒントを教えるほぼ同じコンセプトのSMSサービスを展開している。自宅を彩る観葉植物がほしければ、専門店まで出向かずともルーテッド(Rooted)やザ・シル(The Sill)、ブルームスケイプ(Bloomscape)で注文すれば、自宅に届けてくれる(宅配中に傷まないように祈ることにはなるが)。一方、オンラインのD2C販売を行うマットレスブランドは、キャスパーやエイトスリープを含め、いまや175社を超える

ウォートン・スクール(The Wharton School)の元教授でアイデア・ファーム・ベンチャーズ(Idea Farm Ventures)の共同創業者、デイビッド・ベル氏は、こうした問題は特別なものではないと語る。成功企業によって業界が成長すると、それに続く企業が必ず出てくる。ベル氏はスターバックス(Starbucks)を例にあげた。1杯5ドル(約550円)もするコーヒーのチェーン店に需要があるのか、当初は誰もが疑問に思っていたからだ。D2Cが異なるのは、市場への参入障壁の低さだという。「これほどまでに参入しやすい状況というのは、過去になかった」と、ベル氏は指摘する。なにしろ、アイデアさえあれば、「誰でも簡単にビジネスにもっていける」。

D2Cにおける2種類の傾向

こんななか、D2C業界では2種類の傾向が生まれている。まず1つが似通った企業が次々に登場していることだ。数え切れないほど多くのマットレスや食器、スキンケアのブランドが生まれている。どの企業も、自社の商品や付属品などに、他社にはない強みがあると主張している。だが各社とも、先行企業であるキャスパーやグロッシアーなど、1〜2社が生み出したビジネストレンドに乗っていることに変わりはない。

だからこそ差別化が難しく、そして大きな重要性を帯びてくるのだ。エミリー・シンガー氏はニュースレターの「チップス・アンド・ディップ(Chips and Dip)」のなかで、パターン(Pattern)が扱う新たな2ブランドのイコール・パーツ(Equal Parts)とオープン・スペーシーズ(Open Spaces)について次のように書いている。いずれのブランドも「料理や整理整頓といったことを根本的に変えるような機能は持っていない」が、一方で「商品のデザインは魅力的かつ直感的で、使う人にバレード(Byredo)のハンドソープやシール・トゥルドン(Cire Trudon)のキャンドルといった高級品に似た喜びを与えてくれる」。これら競合の激しい分野に参入する新ブランドは、サービスや商品自体の体験をアピールしようとしている。

もうひとつの傾向が、これまでとは違う新しいD2Cモデルを採用する企業の登場だ。たとえば新興企業のジュディ(Judy)は、非常時のための備えのキットを直販している。ウェブサイトは、ショッピファイ(Shopify)で作られた一般的なつくりのサイトだ。そこでは家族向けや個人向けの、自然災害に対応できる備蓄品キットが売られている。またSMSで同社に備えに関する質問を送ると、回答が得られるサービスも展開している。

ジュディへ投資を行いコンサルタントも務めているニック・シャーマ氏は、同社がD2C業界の移り変わりをよく表していると指摘する。D2C業界の黎明期に、企業はFacebookでカスタマーを獲得した。同氏は、それに続いて「多数の日用品を販売する」グロースハック戦略がとられたと語る。そして競争が激化しすぎた現在、オンラインで商品を販売するだけでは駄目なところまで来ているという。各社とも自社製品の優位性をなんとかしてカスタマーに伝えるか、他社にはないサービスを展開するほかない。

生き残れないD2C企業の特徴

芝生のケア製品を販売するD2C企業サンデー(Sunday)のCEOを務めるコールター・ルイス氏は、D2Cモデルを採用する企業が増えるなか、持続可能性についての意識が高まりつつあると述べている。「広告支出に見合ったビジネスモデルを構築しなければならない」と同氏は語る。参入して日が浅いブランドのなかには、他社のやり方を真似るだけの企業や商品と市場の相性が適切ではない企業も少なくない。「カスタマーが本当に必要としていないにもかかわらず、ビジネスモデルを成功させたいという意識から無理やり売ろうとするブランドが多い」と同氏は指摘する。「それでは長続きしないだろう」。

D2Cへの参入が次々に起こっているのは、確固とした事業計画がないにも関わらず、D2Cモデルを踏襲しようとする創業者が多いという側面もある。「無理やりD2Cをしようとしても上手くいかない」と語る同氏は、成功した企業は商品とUIの橋渡しが上手くいっていると考えている。サンデーは庭の芝刈りがうまくできる製品を販売しているだけでなく「カスタマー体験とエンゲージメントを高いレベルで実現しており、専門性を持ち合わせている」のだという。

D2Cに群がる起業家があまりにも多く、いずれ「揺り戻しが来るのは避けられない」と同氏は語る。そんななか生き残っていくのは「ほかと少し異なった着眼点を持ち、少し違う客層に商品を提供できる企業」だと同氏は分析する。

いずれにせよ、変わりゆくD2C業界のなかで、その行く末も見えるようになりつつあるとベル氏は語り、次のように述べた。「こうした消費者向けブランドは、たとえ生き残ったとしてもその規模は大きくはならないだろう」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:SI Japan)