三菱重工はボーイング787の主翼製作を担当しているが、2月10日に「1,000セット目の主翼が完成した」との発表があった。その2日後に中部国際空港で、その1,000セット目の主翼と、主翼をアメリカの工場まで運ぶ専用輸送機・747LCFドリームリフターの報道公開が行われた。

報道公開された747LCFドリームリフター。以前に海外のTV番組で取り上げられたのを別にすると、機内の報道公開は初めてのこと

○747の胴体を切って拡張

ご存じの通り、747LCFは世界各地で分担製造している787の機体構造材を空輸するために作られた特殊な輸送機である。このうち日本では、三菱重工が左右の主翼を構成するウイングボックス、川崎重工が前部胴体、SUBARUがセンターウイングボックスを製造している。

川崎重工で製作している787の前部胴体(奥)と、SUBARUで製作しているセンターウイングボックス(手前)。なお、黒いのは梱包材の色

787の胴体最大幅は5.74mあるから、これを空輸するには内径が6m程度はある巨大な貨物室を必要とする。しかも、主翼の翼弦長も小さなものではないから、それも収容できなければならない。既存の貨物輸送機では対応できないため、747LCFが作られた。いずれも既存の747-400を改造しており、以下の4機がある。

N747BC(旧B-2464、製造番号25879/904)

N780BA(旧B-18272、製造番号24310/778)

N249BA(旧B-18271、製造番号24309/766)

N718BA(旧9M-MPA、製造番号27042/932)

今回、報道公開された機体は4号機、つまりN718BAであった。

747LCFへの改造に際しては、コックピット直後から垂直尾翼の直前にかけて胴体上部をごっそり切り取り、オリジナルよりも直径が大きい機体構造を新たに取り付けている。これにより、全長が約30m、高さが約7m(幅はもう少し少ない)という巨大な貨物室ができた。

○貨物室まわりの構造と補強

といっても、口でいうほど簡単ではない。747LCFは通常の747と異なり、フライトデッキ(操縦室)と最前部の客室部分以外は与圧しておらず、貨物室も当然ながら与圧対象外である。しかしそれでも構造負荷はかかるし、オリジナルの胴体よりも径を増しているから、直径が変化する境界部分には応力が集中する。

だから、コックピットの直後で胴体の径が増しているところを外から見ると、多数のリベットが打たれているだけでなく、2重3重に当て金を追加して補強している様子が見て取れる。

747LCFの前部胴体。多数のリベットと、継ぎ足した胴体と既存胴体の境界に取り付けられた当て金に注目。コックピットへの出入りにはR1ドアに横付けしたタラップを使用するので、客室最前部区画も与圧対象なのだろう

新たにかぶせた大径の機体構造は、いうまでもなく円周方向のフレームを並べて縦通材でつなぎ、外から外板を取り付けてリベット打ちした構造。内側から見ると、その構造がよくわかる。

大半は内側に断熱材が張られているが、貨物の積み卸しに使用する後部のスウィング・テール・カーゴドアの周囲だけは断熱材がない。扉を固定するラッチなどがあるため、関連する配線・配管にアクセスできるように断熱材を取り付けていないものと思われる。

747LCFの貨物室を前方から後方に向けて見た様子。フレームと断熱材が明瞭に見て取れる。外に見えるのが、これから搭載するウイングボックス。床面の左右端に、搬入・固定用のレールが見える

この、新たに取り付けた貨物室部分の機体構造を外から見ると、リベットの頭が点々と並んでいる。もちろん空気抵抗が増えるだろうが、工程を簡素化して、改造に要する費用と期間を抑えることを優先したのであろう。測ったわけではないので正確な数字はわからないが、フレームはかなり密に並んでいる。

この貨物室部分、単純な円筒形かと思うと、さにあらず。カーゴドアの直前で径を少し増して、その後ろで少し絞っている。また、両側面の下部も曲面ではなく平面になっているようだ。露出をアンダー気味にして撮った写真を見ると、それがよくわかる。

貨物室部分の形状は、意外と複雑

前述のように、コックピットしか与圧していないから、コックピットと貨物室を隔てる隔壁には気圧差に伴う負荷がかかる。半球形の圧力隔壁にする方が構造上は有利だが、それでは場所をとるので隔壁はフラット。よって、隔壁はガッチリしたフレームを組み合わせて強固に作られており、かつ、扉のような開口部はない。

747LCFの貨物室を後方から前方に向けて見た様子。貨物室とコックピットを隔てる頑丈な隔壁が見える

こうした構造なので、貨物室に出入りする際は、最初に床下の前部貨物室に入り、そこから梯子で貨物室に上る形になった。なお、通常型747は床下貨物室も与圧しているから、ここを与圧しないのは747LCF独自の特徴といえる。

○貨物の固定と出し入れ

貨物室の床面左右には、貨物の出し入れに使用するレールが取り付けられている。747LCFが出入りする空港には専用のローダーを用意してあり、貨物を搭載した荷台を貨物室の床面まで上げて、位置を合わせる。すると、スムーズに出し入れができる。

貨物室床面のレールには、搭載した貨物が飛行中に動いてしまわないように固定する仕組みも組み込まれている。これは、貨物を搭載する土台(超特大のパレットみたいなものか)に設けてある凹みに、機体側から突起を差し込んで固定する仕組み。固定用の金具の位置は、機体構造を構成するフレームの位置と合わせてあるように見受けられた。そうすればフレームにストレートに荷重が伝わるから、構造上は有利と考えられる。

尾部のカーゴドアは左舷側の胴体外側にヒンジがあり、それを使って振り開く仕組み。ただし、扉を開閉する仕組みと、開いた扉を下から支える仕組みが必要になるので、両方の機能を兼ねる専用の車両がある。機体側を見ると、この車両のための支持点が設けてあるようだった。

貨物室後部の扉は、専用の車両で下から支えながら開閉する。車両が動くと扉が開閉するので、車両を正しく円弧状に動かす必要がありそう

747LCFの改造点としては、ウイングレットの撤去と、垂直尾翼の高さアップもある。どちらも空力が絡む問題で、特に垂直尾翼はヨー方向の安定性を確保するために増積が必須だったのだろう。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。