電話対応している最中に泣き出してしまう社員もいるようです(写真:zon/PIXTA)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

入社後1年未満で仕事を辞める人たちの離職理由に「電話に出られない」というのを耳にするようになったのが、10年ほど前でした。電話に出ようとするだけで、「緊張が走り、体調が悪くなる」。最終的には職場に足が向かなくなるといった事例が多く、電話対応している最中に泣き出してしまう社員がいるのだがどうしたらよいのかという人事担当からの相談を受けるようになったのもこの頃からです。

電話対応の経験値がゼロのまま社会人

最初にその話を聞いたときには極度の対人恐怖があるのかと思いましたが、ほかのコミュニケーションには特段の問題が見られないこともあり、問題が「電話」にあることがだんだんと明らかになってきました。


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固定電話のある家庭は、年々減少してきており、幼少期に「家の固定電話に出たことがない」という人が増えてきています。仮に出た経験のある人もナンバー・ディスプレイの表示により「知っている人(両親や祖父母など)」からかかってきたときにのみ出るという傾向が強く、誰からかかってきたのかわからない電話への対応をまったく経験していないという状況です。

必然的に「取り次ぐ」「伝言を受ける」などの経験もなく、アルバイトで電話対応の経験がなければ、経験値ゼロのまま社会人になることになります。どんなに簡単なことでも経験したことのないことはハードルが高く、難しいものです。それでも柔軟に対応できる人もいれば、なかなか思うようにいかない人もいるでしょう。

とくに昨今は、クレーマーなどモンスターカスタマーの対応を強いられるケースも多く、慣れないうちに洗礼を受けてしまうと、心理的な要因も加わり、その後、怖くて電話を取れないということにもつながりかねません。

さらに、仕事としてのみならず、そもそも電話自体が苦手というケースも増えています。LINEなどの文字ツールが主流となった昨今、親しい友人たちとも文字でのやりとりが主流になり、よほどでないと電話で話をする機会がありません。2019年度卒の社会人を対象にした「マイナビ」実施のアンケートでは、友人との連絡に電話を使うという割合は、1%しかいないという結果が出ています。

電話はそもそもの伝達ツールとして役割を担わなくなってきたとも言えます。LINEなどはスタンプに頼ることもできますし、短いフレーズや単語でのやりとりが可能です。そうするとおのずからボキャブラリーが減ってしまい、瞬発的に出る言葉に詰まるということが出てきます。また、返事に戸惑ったりするときに文字ツールだと、時間稼ぎができます。場合によっては、少し考える時間を置くことさえ可能なわけです。

しかし、電話は相手と時間を共有しているので、ある意味、瞬発力が必要で、考える時間も多くはありません。失言したり、思わず意図しない返事をしてしまったときに、修正がきかずに苦しむことがあると、電話で話すこと自体に抵抗を感じるようになってしまうこともあります。

本来、電話はそういうものであり、同じことを伝えるにしても言い換えたり、修正したり、微妙にすり合わせたりを繰り返すことによってお互いの理解度を高めていくのですが、そのプロセスを踏むことに慣れていないので、一度答えてしまったら、修正できないと思い込んでいる節もあります。

あなたも「電話恐怖症」かもしれない

・固定電話の着信音が鳴ると緊張する
・自宅の固定電話にかかってきた場合は基本居留守
・非通知の電話には出ない
・お店の予約はウェブに限る
・友達に電話をする前には必ずLINEなどで確認する
・電話をする前に、一言目のセリフを考える
・留守番電話にメッセージを入れられない
・電話での「間」が耐えられない

上記に4つ以上当てはまれば、電話に対しての抵抗感が強いと言えます。

最近、電話は相手の時間を拘束してしまう悪しきツールと言われることも増えてきました。電話対応自体をなくしてしまう企業も出てきてはいます。確かに同じ時間を共有するという時間指定が、相手を拘束することにつながります。しかし、時間を奪うという点では、文字を打つほうがはるかに時間を要する場合もありますし、記録が残ることで、言葉選びに一層の注意が必要な場合もあります。

また、文字ツールの情報だけでは、なかなか伝わらないところがあったり、ニュアンスも伝わらないため誤解を招いてしまうこともあります。直接、話すことで安心できるというケースもあるので、電話応対がすっかりなくなるということは考えにくく、業種にもよりますが、今後さらに重要視されることも考えられます。

というのも、音声のやり取りがメールなどの文字ツールの補完と考えたときに、電話はより特別なものとなり、高度な対応力が求められるからです。基本的な受け答えはもとより、気持ちを受け止め、心を伝えるための感情伝達ツールとしての役割を担う要素が強くなる可能性も高いのです。これからも社会人スキルとしての電話対応能力が求められていくことと思いますので、苦手だからといって避けては通れないと思います。

自宅の電話には出ないで済んでも、職場ではそうはいきません。克服していくためには、教育が必要になります。昨今は、ハラスメント防止の観点からも「そのくらいのことできないでどうする!?」とハッパをかけるのではなく、できるように教える指導責任が職場にはあります。電話対応に関しては、「そのうちできるようになる」という教育ではなく、圧倒的に少ない経験値を上げるためのトレーニングが必須です。

そのためには、通常メールでやりとりする報告を何回かに1回は電話で行う、メールでは概要だけ送り、詳細は電話で伝える、欠勤の連絡は電話に限定する、などの日々の業務に電話を取り込んでいく必要があります。そして、単にツールを使うトレーニングだけでなく、自分の意思を言葉にして話すといったことも重要で、電話恐怖症をなくすためには、普段のコミュニケーションのあり方も見直していく必要があります。