バングラデシュの売春街ダウラトディアで、元性労働者の母ハミダ・ベガムさんの墓の前で祈る息子(2020年2月8日撮影)。(c)Munir UZ ZAMAN / AFP

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【AFP=時事】バングラデシュにある世界最大規模の売春街で働く性労働者たちは、しばしば人間以下の扱いを受け、尊厳を持って死に臨むことなどほとんどなかった。遺体は多くの場合、墓標なき墓に放り込まれるか、川に投げ捨てられてきた。

 イスラム教徒が人口の多数を占める同国において、売春は合法化されているものの、多くの人が不道徳なものとみなしてきた。

 だが、そうした長年のタブーが破られた。

 バングラデシュの売春街ダウラトディア(Daulatdia)で働いていた性労働者としては初めて、65歳で亡くなったハミダ・ベガム(Hamida Begum)さんに対して今月6日、正式なイスラム教式の葬儀が執り行われた。

  墓地の周りに集まった大勢の女性は、ベガムさんの死に対してだけでなく、ベガムさんの埋葬が開いた象徴的な突破口にも涙した。

 ベガムさんの娘で、母と同じくこの仕事に就いたラクシュミ(Laxmi Begum)さん(35)は、「母がこのように立派な告別の会を持てるなどとは夢にも思わなかった」「私の母が人間のように扱われている」と話す。

 イスラム教の指導者らは長年にわたり、売春が背徳行為であるとして、性労働者の葬送式を執り行うことを拒否してきた。

 ベガムさんが亡くなった際、遺族はベガムさんのような女性に対する一般的な習慣にならい、無縁墓地に埋葬するつもりだった。だが性労働者らのグループが地元警察に対し、ベガムさんが適切に埋葬されるために宗教指導者を説き伏せるよう求めた。

 交渉を取り仕切った地元警察のアシクール・ラーマン(Ashiqur Rahman)本部長は、「イマーム(宗教指導者)は当初、礼拝を執り行うことに消極的だった。だが、性労働者の葬儀に参列することはイスラムが禁じているのかイマームに尋ねると、彼は答えなかった」と述べた。

■レッテルと不名誉

 バングラデシュは、18歳以上の女性による売春を合法としている数少ないイスラム教国の一つ。同国の性労働者は、成人であることを示す証明書を所持し、この仕事に従事することへの同意が求められる。

 だが現実はもっといかがわしく、慈善団体はわずか7歳の少女たちが売春のためにおめかしさせられていたと報告。売春のための子どもたちの人身売買は増加しているとして警鐘を鳴らす。

 警察はしばしば、仲介業者や売春宿の経営者から賄賂を受け取って少女たちが18歳以上であることを示す証明書を提供するなど、共謀関係にあると非難されている。

 女性や少女1200人が日々最大で5000人の客を相手にするダウラトディア地区で、ベガムさんが性労働者として働き始めたのはわずか12歳の頃だった。

 バングラデシュの首都ダッカの約200キロ西方にある同地区は、全国に約12か所ある合法の売春街の一つで、路地が入り組みバラックが立ち並ぶ。

 この売春街は英国の統治下にあった100年前に開設されたが、1988年に地元の人々が元来の街に放火した後、現在の場所に移された。

 性労働者やその子どもたちは、パドマ(Padma)川の砂州に立つコンクリートやトタン製の小屋で暮らし、しばしば悪徳家主に法外な家賃を支払っている。

 この職業に従事することを強いられた人々は、膨れ上がって莫大(ばくだい)な額となった「借金」を、自分たちを連れてきた仲介業者や売春宿主に完済した場合にのみ辞めることができる。

 ただ、たとえそれが可能となっても、性労働にまつわるレッテルにより、多くの人は他の場所に行く当てなどないと感じている。

■犬のように埋葬

 バングラデシュでは長年にわたり、亡くなった性労働者の遺体は川に投げ捨てられるか、泥の中に埋められてきた。

 地元当局は2000年代初頭、無縁墓地としてごみ捨て場を数か所提供。遺族は麻薬中毒者にお金を支払い、正式な葬儀を執り行うことなく、通常は夜の間に遺体を埋葬していた。

 性労働者グループの代表者は、「もし朝の時間帯に遺体を埋めようとしたら、村人たちが竹の棒を持って追いかけてきたものだった」と振り返る。元性労働者で、今は娘が働く売春宿で暮らす別の女性は、「まるで犬が死んだかのようだった」と語った。

 しかし、ベガムさんの葬儀により、売春街の女性すべてにとって物事が変わるのではないかと希望が生まれた。

 地元警察のラーマン本部長によると、葬儀には200人超が参列し、葬儀後の食事会や礼拝にはさらに400人が参加した。同本部長は「前代未聞の光景だった。礼拝に参加するために、人々は夜遅くまで待っていた。性労働者たちの目には、涙があふれていた」と振り返った。

 地元当局者や議員、地元警察の幹部らは、「こうした差別的なタブーを打破するため」に同本部長の取り組みを支援していたという。

 ベガムさんが貯金して購入した、2部屋を持つ掘っ立て小屋の売春宿を経営するラクシュミさんは、「今後は私を含め、ここで働くすべての女性が、母のように葬送礼拝を受けられることを願っている」と語った。

 葬儀に参列した村議会議員のジャリル・ファキル(Jalil Fakir)氏は、死ぬ際の扱いをより公正にするため、性労働者の葬儀が今後も続けられていくと話す。

「結局のところ、彼女を裁くのは私ではない。もし彼女が何らかの罪を犯したのなら、彼女を来世で裁くのはわれわれではなく神だ」

【翻訳編集】AFPBB News

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