福田正博 フットボール原論
■今シーズンのJリーグがまもなく開幕する。各チームが補強や体制刷新を進めるなか、注目クラブはどこなのか。元日本代表の福田正博氏が新シーズンの展望を語った。

ACLも戦うヴィッセル神戸のイニエスタ。今季も注目の選手だ

 J1は今季、昇格組の横浜FCと柏レイソルを含めた18クラブのうち、3クラブが新監督を迎えてリーグ戦に臨む。

 鹿島アントラーズはザーゴ新監督が就任。ベガルタ仙台は、昨季までモンテディオ山形を指揮していた木山隆之監督を招聘した。清水エスパルスは、横浜F・マリノスでコーチを務めたピーター・クラモフスキー監督が指揮を執る。

 この3クラブは新たな戦術やシステムを取り入れることになると思うが、その一方で首脳陣の顔ぶれがほぼ変わらないクラブは、新戦力をチームに融合させながら、これまで築いてきたスタイルを熟成させていけるかがポイントになる。

 同一指揮官のもとであってもスタイルは普遍的なものではなく、日々進化と変化を遂げていくものだ。わかりやすいケースが、ジョゼップ・グアルディオラ監督だろう。彼は現在、マンチェスター・シティを指揮しているが、そのスタイルはバルセロナ時代、バイエルン時代と同じではない。基盤となる部分は変わらないものの、常に戦術に手を加えながら戦っている。チームにいる選手の能力や状態、相手チームとの兼ね合いのなかで、勝つために適応を続けているということだ。

 前シーズンにどれだけ好成績を残そうとも、翌シーズンに同様の結果を残せる保証はない。相手に研究され、対策を練られる。変化を恐れて歩みを止めた瞬間、転落が始まる。それがプロの世界だ。

 そうした点で、横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督に注目している。就任1年目となった2018年シーズンは極端なハイライン・ハイプレスを敷いたものの、攻守のバランスがとれず12位。昨シーズンは当初1ボランチの布陣で戦ったが、故障者が続出した影響もあり2ボランチに変更すると、攻撃力はそのままに守備が安定して15年ぶりの優勝を引き寄せた。

 状況に応じた柔軟な選手起用や戦い方のできるポステコグルー監督が、今季は2連覇を狙いながらACLも戦う。試合数が増えるなか、ハイライン・ハイプレスのスタイルを継続するには、ローテーションをしながら選手のコンディション維持が重要になるため、水沼宏太らの戦力補強を行なって選手層を厚くしている。ポステコグルー監督がどのような選手起用をしていくのか、しっかり見ていきたい。

 王者の横浜FMを追う一番手は、川崎フロンターレと見ている。今季はACLがないため、国内のタイトルに集中できることが、彼らにとって有利に働くはずだ。ただし、川崎はスタイルを変化・発展させる時期を迎えていると感じる。昨シーズンまでは風間八宏前監督が築いたパスワークで相手を崩すスタイルに、鬼木達監督の戦術を融合させながら戦ってきた。

 昨シーズンはリードを奪っても勝ち切れない、あるいは押し込みながらもゴールを奪えない試合がいくつかあった川崎。その状況を打破するには、世代交代を含め、これまでの戦い方に加えて、新たなエッセンスを取り入れられるかがカギだと考えている。

 川崎のサッカーは緻密なコンビネーションをベースにしているため、選手の顔ぶれが変わると機能しなくなるケースがある。それが表われていたのが、昨季の右サイドだった。エウシーニョ(清水エスパルス)が右SBをつとめた一昨年は、彼の前方にポジションを取る家長昭博との連係で右サイドを崩して攻撃が活性化していた。

 しかし、昨季はエウシーニョが清水に移籍し、新たに右SBで起用されたマギーニョ(横浜FC)や馬渡和彰(湘南ベルマーレ)はエウシーニョの穴を埋めることができなかった。結局、本職は別ポジションの守田英正や車屋紳太郎、登里享平も右SBで出場し、固定できなかった。

 今季、右SBにはジオゴ・マテウスが入る予定だ。ブラジル人らしい高い技術を持ち、精度の高いクロスを持ち味にしている。それだけにFWレアンドロ・ダミアンを活かすクロスボールや、カウンターからの速攻など、新たな攻撃パターンを視野に入れてもいいのではないか。

 また、川崎は中村憲剛を故障のために開幕から欠くことになる。そのため、新加入の旗手怜央らを含めた若手の出場機会が増えるはずで、彼らの成長を促していくことができればタイトル奪還も見えてくるはずだ。

 初のリーグタイトル奪取へ正念場の1年になりそうなのがFC東京だ。長谷川健太監督が就任1年目の2018年は6位、昨季は終盤に失速して2位。3年目の今季に優勝の期待が高まるが、戦い方を相手に研究されてきている難しさを乗り越えられるかが課題だろう。

 ディエゴ・オリベイラを軸にした攻撃陣がどれだけ得点を奪えるか。永井謙佑は故障で出遅れるものの、新たにアダイウトン(前磐田)と、レアンドロ(前鹿島)を獲得。Jリーグでの戦いを知る即戦力が持ち味を発揮できるか注目したい。

 天皇杯を手にし、ゼロックススーパーカップも初制覇したヴィッセル神戸からも目が離せない。ダビド・ビジャは引退、ルーカス・ポドルスキが退団し、ウェリントンや日本人選手も数名放出した。これはアンドレス・イニエスタ獲得後、トルステン・フィンク監督の体制が安定してきたことで、既存戦力を整理する狙いがあったのだと思う。

 主な補強では清水からドウグラスを獲得。年間10ゴール以上計算できることは戦力アップと言える。ただ、昨季のビジャのような目立った大型補強はなく、ACLとリーグ両方のタイトルを狙うには、選手層が気がかりな点だ。もちろん新たなビッグネーム獲得のために、ヨーロッパのシーズンが終わるのを待っている可能性は十分ある。

 台風の目になりそうな存在が柏レイソルだ。昨季途中加入でチームの中核になったマテウス・サヴィオが完全移籍で残留。ほかにユースからの昇格選手を含めて新戦力を補強した。昨年末に井原正巳コーチに会った際、彼は「ネルシーニョ監督の強みが出るはず」と自信をみなぎらせていた。

 ネルシーニョ監督は日本での指導歴が長く、新しい選手を使うことも巧みだ。ここぞという場面での勝負勘もある。J2優勝の翌年、J1に昇格した2011年シーズンにリーグを制覇した実績もある。スタートダッシュに成功して勢いに乗れば、『2011年の再現』は現実味を帯びる。

 スタートダッシュは、どのクラブも狙っているだろう。昨年の成績が芳しくなかったチームは、開幕から1カ月ほどの勝敗次第では、サポーターの信頼を失う危険性もある。その点で心配なのが浦和レッズと名古屋グランパスだ。

 浦和がこのオフに獲得した新戦力は、レオナルド(前新潟)、武田英寿(青森山田高)、トーマス・デン(前メルボルン)と、期限付き移籍から復帰した伊藤涼太郎ら。『2022年のJ1制覇』への1年目とはいえ、補強は万全だったのかという疑問は残る。スタートダッシュに失敗したら、サポーターの不満が噴出しかねないだけに、結果を残してもらいたい。

 名古屋はしっかり補強をした印象だ。川崎から阿部浩之、広島から稲垣祥、湘南から山崎凌吾らを獲得。昨季途中に就任した守備の構築に定評のあるマッシモ・フィッカデンティ監督が率いる。「風間前監督の攻撃的なスタイルをベースに、守備をしっかり構築して上位進出」という考えがあるのかもしれない。ただし、サッカーは攻守一体のスポーツで、守備力が高まったら、今度は得点が奪えなくなるということは十分ありうる。攻守のバランスがどうなるのか気になるところだ。

 どのクラブも成功を目指していくなか、順位という結果が出るのがプロの世界。だからこそ、成功すれば多くのものを手にでき、失敗すれば失うものもある。これは監督や選手だけではなく、チームづくりの根幹を担っているクラブのフロントにも言えるだろう。

 個人的に、今シーズンは各クラブの「フロント力」にとくに注目していきたい。選手補強や監督・コーチ獲得のためのネットワーク、育成や広報活動、資金の活用方法や海外クラブとの提携など、職員やスタッフ、GMや強化部長らを含めて総合力が高いクラブがどこなのか。さらに魅力的なJリーグになることを期待しながら、新シーズンの幕開けを楽しみにしたい。