漢字パズルや大人の塗り絵、数独、最近はITグッズも多い。認知症予防効果をうたう商品があふれている。いったいどれが有効なのか。

 認知トレーニングを20年以上研究してきた朝田隆・東京医科歯科大学医学部特任教授は、「日本では脳トレ商品が数多く市場に出回っていますが、ほとんどはエビデンス(医学的根拠)がない。楽しんでやるのなら大いに結構ですが、専門医から言わせていただくと、難易度を問わず有効なものは少ないですね」。

 かなり手厳しい。詰将棋や詰碁も脳の同じ部分を使うだけなので、脳トレとしての効果は疑問という。その朝田医師が注目しているのは米国で生まれた、コンピューターを使う「ブレインHQ」。2016年にカナダで行われた国際アルツハイマー病学会で「認知症防止に効果あり」と報告された。

 発表したのは、南フロリダ大学のジェリー・エドワーズ博士(老年学)。博士ら研究グループは65歳以上の高齢者2785人(平均年齢74歳)に記憶術や論理術、情報処理スピードトレーニングなどしてもらい、10年間追跡調査した。その結果、トレーニングをした人たちは、何もしない人たちよりも認知症発症率が低かった。

 このスピードトレーニングは、「ブレインHQ」の中で「ダブル・ディシジョン」と呼ばれる。車2台と道路標識が画面に現れる。スタートボタンを押すと、まず2台のうちの1台の車と標識が出て、数秒後に消える。車の種類と標識のあった場所を訓練者は画面で答える。正解すれば、画像の動きが速くなる。

 日本での販売権を持つのは、コーヒーなどで有名な「ネスレ」だ。僕はさっそく会員になった。ブレインHQは注意力、脳の処理速度、記憶力、人付き合い力、マルチタスク、空間認識力という6項目で構成されていて、各項目3〜5種の計23種のゲームからなる。

 僕はまずダブル・ディシジョンに挑戦した。最初は車と標識が画面から消えるまでに数秒あるので指先で正解をタッチできる。でも、速度は次第に上がり、何度やっても上達しない。

 人付き合い力や空間認識力では高得点を取れるのだが、ダブルデシジョンは苦手だ。焦れば焦るほど成績は落ちる。それでも継続しなければ、力にはならないのだ。今は朝に毎日15分やって自分のその日の調子を測るモノサシとして使っている。

 ブレインHQをすることで間違いなく敏捷(びんしょう)性はついたと思う。しかし3年前、僕は新幹線の中でゲームに熱中するあまり、他のことへの注意が散漫になったのだろう、財布を落とすという大失態も演じている。幸い、1週間後に財布は発見されたが、トレーニングにもふさわしい場所とやり方があると学んだ次第である。

 ■山本朋史(やまもと・ともふみ) 1952年生まれ。週刊朝日編集委員などを経て現在はフリー。2014年軽度認知障害と診断され早期治療に励む。著書に『悪党と政治屋 追跡KSD事件』『認知症がとまった ボケてたまるか実体験ルポ』など。