Jリーグの開幕が近づいてきた。すでにゼロックス杯が開催され、今週末からはルヴァンカップが開幕する。

 今シーズンは東京五輪の開催で、J1は7月初旬からおよそ1か月半の中断期間がある。J1より試合数の多いJ2でも、同時期におよそ3週間のインターバルが入る。さながら2ステージ制のようだ。

 どちらのリーグのどのクラブも、中断期間前にどれぐらい勝点を稼ぐのかがいつも以上に大切になる。開幕から勢いよく飛び出したいというのが、全チームに共通する思惑だろう。

 クラブのフロントにとっては、気になることがもうひとつある。今シーズンからファン拡大へのインセンティブとして、Jリーグが「ファン指標配分金」を導入したからだ。スタジアムの来場者数やダゾーン中継の視聴実績を数値化し、5億円の原資を数値に応じて配分される。今シーズンについては、開幕からの数節が対象になる。観客動員についても、スタートダッシュが求められるわけだ。

 より多くの観客動員を実現し、なおかつダゾーンの視聴者数をのばすために、クラブは何を考えるか。まずはとにかくチームに勝ってほしい、と考えるだろう。「ホームゲームのイベントがどんなに充実していても、勝てなければお客さんは来てくれない。アウェイへ行けないときに観てもらえない」という考えは根強いと感じる。

 それが間違いだ、とは言わない。

 ただ、サッカーは内容と結果が必ずしも一致しないスポーツである。自分たちが最高のパフォーマンスをしても、相手がさらに良いプレーをすることがある。リーグ戦で無敗街道を突き進む今シーズンのリバプールのようなチームは、本当に例外的と言っていい。

 だとすれば、結果以外の付加価値をいかにスタジアムで感じてもらえるのかが、来場者を増やすポイントになっていく。一回だけでなく2回、3回と足を運んでもらうためには、「あそこに行けば楽しい」と思わせるものが必要になってくる。

 たとえば、SNSで発信したくなるイベント、グルメ、モノなどがあるのは、余暇を選択する際の分かれ道になるはずだ。見たい、撮りたい、発信したい、シェアしたいといった思いを喚起させる仕掛けが、これからのイベントには欠かせないだろう。

 川崎フロンターレは分かりやすい。タイトルを狙えるチーム作りを継続しながら、ホームゲームを楽しめる空間に仕上げている。強さと面白さを両立させていった好例だ。

 もう少し長いスパンで観客動員について考えていくと、ホームゲーム以外の時間に何をするのかが大切になっていく。J1なら年間で17試合しかリーグ戦のホームゲームはない。カップ戦を含めても、25試合ぐらいだろうか。

 アウェイゲームに関連した取り組みとしては、バスによる応援ツアーが定番だ。ここでクラブには、アウェイまで行けない人にも、これまで以上に目を向けてほしいのである。

 観戦スタイルはいまや細分化されている。「スタジアムで観る」か「ダゾーンやテレビで観る」の二者択一ではない。「スマホを使って移動しながら観る、ちょっとした空き時間に観る」といった観戦方法は、かなりの数にのぼると想定される。

 じっくりと「観る」のではなくたまたま「目にする」人もいると思う。そういう人たちの取り込みを大切にしたい。

 たとえば、ショッピングモールのちょっとしたスペースで、リーグ戦の中継映像を流す。テレビモニターのそばにはテーブルがあって、チームのメンバーリストやその日のスタメン表が用意されている。試合映像をただ流すだけでなく、情報も用意しておくのがポイントだ。

 フルタイム観てもらわなくていい。前半だけでも、30分ぐらいでもいい。ファン・サポーターではない人にも試合を観てもらい、どんなチームなのかを知ってもらうことが、やがてはクラブの財産になっていく。観客動員もダゾーンの視聴回数も、突き詰めれば小さな積み重ねが土台になると思うのだ。