ムアントン・U時代の青山(左)とカウィン(右)。写真:青山直晃選手提供

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 カウィン・タンマサッチャーナン。名前を聞いて直ぐに誰だか分かるファンはそう多くはないはずだ。

 2月8日、北海道コンサドーレ札幌(以下、札幌)が獲得を発表したタイ人GKである。OHルーヴェン(ベルギー2部)からの期限付き移籍で、契約期間は1年だという。

 彼は一体どんな選手なのか、多くの札幌ファンが気になっているに違いない。

 18年に5年契約を結び移籍したOHルーヴェンは、英プレミアリーグのレスター・シティFCを持つタイ人一族(キングパワーグループ/タイ国内で免税小売市場を独占する大企業)が保有するクラブという背景がある。しかし、その泰色強いチームでも決して出場機会に恵まれていたとは言い難かった彼に、正GKの兵役問題を抱える札幌が声を掛けた格好だ。

 そして札幌には押しも押されもせぬ同郷のアイコン、MFチャナティップもいる。今回の札幌移籍という決断は、決して難しいものではなかっただろうと推測できる。

 トン(カウィンの愛称)とジェイ(チャナティップの愛称)、同じタイ人でもキャラクターは異なる。ジェイが万人に愛される三枚目キャラだとすれば、トンはクールで誠実な二枚目といえるだろうか。

 4年間、ムアントン・ユナイテッドでチームメイトとして、DFとGKの間柄で密接な関係を気付いてきた青山直晃(鹿児島ユナイテッド所属)の言葉からも、彼の人となりを感じることが出来る。

「真面目でストイック、筋トレと漫画ワンピースが大好き、兎に角いい奴なんです。悪いところを探すのが難しい程に。プレーは守備範囲が広く、PKセーブ率も非常に高い。闘争心溢れるビックセーブで何度も救われたことを覚えています。本当に頼りになる守護神です。J1で活躍する姿を楽しみにしてます。カテゴリーは違うけどお互い頑張ろう!家族で応援してます! スースー、トン!!』

 ロシア・ワールドカップ・アジア最終予選で日本代表とタイ代表は同組だった。ホーム&アウェーともにスタメン出場していたのがカウィンだ。

 また17年ACL、タイリーグ覇者として出場したムアントン・Uでは、グループステージで同組だった鹿島に土を付けて苦しめ、ラウンド16で相まみえた川崎相手にも最後の砦として奮闘してみせたのもカウィンだった。
 
 ミシャ監督は今季も、ク・ソンユンをGK一番手として起用するのは間違いないだろう。となると、二番手争いを演じるだろうカウィンと菅野孝憲は、ルヴァンカップでの出番が多くなるに違いない。

 しかしだ。カウィンは長らく正守護神の座を守り通してきた現役タイ代表選手でもある。Aマッチデーと被る日程の多いルヴァンカップでは不在となることも多いだろう。選手の拘束をめぐって、カタール・ワールドカップ・アジア最終予選出場へ向けた大事な試合が残るタイ代表(タイサッカー協会)との駆け引きもあるかもしれない。

 ピッチでの彼の佇まいを見ていると、ホセ・ルイス・チラベル(元パラグアイ代表GK)を思い出す。屈強な身体から放たれる、相手に脅威を与えるあの雰囲気が、どことなくパラグアイが生んだスーペルレジェンダを彷彿とさせるのだ。

 名実ともにトップレベルのタイ人GKのひとりであることは間違いない。今年1月に三十路を迎えた“暹羅のロボコップ”もまた先駆者たちのように、日本市場で認知された選手になれるのか。彼の札幌加入でまたひとつ今季の楽しみが増えた。(文中敬称略)

取材・文●佐々木裕介