コンビニの定番「鶏唐揚げ弁当」は、同じチェーンでも地域によって味付けが違う。流通ジャーナリストの梅澤聡氏は「今や、コンビニの地域限定メニューの割合は8割近くを占めている。こうした味付けの変化は、ご飯やおでんにも生かされている」と指摘する――。

※本稿は、梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/KPS
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■地区MDの仕事は「食習慣や味覚、生活習慣を把握する」

大手コンビニチェーンが全国に店舗網を築くにつれて、地域開発商品の役割が重要度を増してきた。ベースとなるタレやつゆ、米飯に添える漬け物まで、地域で好まれる味が確固としてあるはずだ。

かつてセブン‐イレブンで商品本部長に就いていた池田勝彦(いけだかつひこ)は、その著書の中で次のように記している。

メーカーと協力態勢を組み、マーチャンダイジングプロセスにのっとって開発された本部推奨の商品があるとすれば、それをベースに、それぞれの地区MDが、その地区のお客さまが好む味覚に応じて、レシピを修正して販売する。それが最も理想的な形だろう。(中略)

地区MDにとって最も重要な仕事は、その土地の食習慣や味覚、生活習慣をきっちり把握するということになる。(『コンビニの店舗経営と商品開発の鉄則』池田勝彦)

大切なのが本部MD(マーチャンダイザー)と地域MDが別個に動くのではなく、相乗効果を生み出せるようにすることだ。例えば、本部MDが天ぷらを商品開発して全国展開に移すときに、つゆで食べる地域だけでなく、塩や、場合によってはソースで食べるところもあることを念頭におく。同じうどんでも、硬い麺を好む地域もあれば、柔らかい麺を好む地域もある。そうした情報をつかんで、工場のレシピを変更していくのだ。

■セブンの「唐揚げ弁当」は地域によって下味が変わる

食材のサイズや価格も、地域開発商品に影響を与える。例えば、鮭の切り身を使用した弁当をチェーン本部が企画したとする。もともと北海道は鮭の消費量が多く、価格も安い。関東で販売する鮭と同じ大きさでは、北海道の客を満足させることができない。そこで弁当の具材と価格は同じでも、北海道版は鮭の切り身を大きめにするといった発想が用いられる。

ただ、提供する側がどれだけ地域性に注力しても、地域に住む消費者はその地域性に気がつかず、何事もなかったように食べて終わるであろう。コンビニが大切にする地域性とは、地域の人たちにとってごく日常的な当たり前の食生活を対象としている。こうした細部への熱意が2000年代に入ると、よりいっそう強くなる。

その代表格が、米飯弁当でいえば「鶏唐揚げ弁当」になる。どのコンビニでも常時品揃えしているベーシックアイテムである。セブン‐イレブンは2000年代の中盤、使用する鶏を中国産の冷凍から国産のチルド肉に切り替えている。その国産の生肉を全国の工場でカットする過程において、各々の地域で好まれている調味料を手もみにして、下ごしらえすることにより、地域特有の商品とした。

その独自の味付けを試みたのが、全国10地区の工場。例えば、北海道では、ほどよく生姜を利かせた「北海道味」に仕上げた。栃木・茨城では、茨城県の柴沼醤油を使用、長野・山梨では、信州味噌を隠し味にして、付け合わせに地区で馴染みのある野沢菜のピリ辛炒めを添えた。中国地区では、地元で好まれている「牡蠣だし醤油」で下味をつけている。

全国どこにでもある「鶏唐揚げ弁当」であるが、基本となる下味には、しっかりと地域性を盛り込んでいる。

■地域メニューの割合は全商品の7〜8割にも

また、セブン‐イレブンは、見た目からして「地域性」と「季節性」を前面に出したシリーズ「地域のご飯メニュー」も投入している。これは一食分のご飯の上に軽めの具材を乗せた商品であり、価格は全品295円(当時)に統一した。07年6月、7月には全国9つの地区で異なる商品を推奨した。鶏唐揚げ弁当と違って、地域の特徴を食材で表現している。いくつか紹介すると、

◎北海道:時しらず御飯
◎東北:さんま御飯
◎群馬・新潟:津南産アスパラ添え海老ピラフ
◎栃木・茨城:茨城県産しらす明太子御飯
◎長野・山梨:野沢菜鶏そぼろ御飯
◎東海:駿河湾産しらす御飯
◎関西:ちりめん山椒御飯
◎中国:焼さわら御飯
◎九州:明太子御飯
(『月刊コンビニ』2007年8月号より)

セブン‐イレブンは、それ以前は地域メニューを2〜3割程度としていたが、この時代は逆転して7〜8割としている。ちなみに全国統一メニューには、地域性を出しにくい、ネギ塩豚カルビ弁当や牛カルビ弁当、カレーライスといった商品がある。

コンビニが提供する弁当が地域の味ばかりでは、当の地域の人たちにとってつまらない。かといって、よく知らない流行のメニューばかりだと手を出しづらい。おそらく、地域のニーズを取り入れた食べ慣れた味と、多少は目新しい商品との程よいバランスが望まれているのだろう。

■日本の伝統食をコンビニに取り入れた「おでん」

一般には、「おでん」を購入する店は、スーパーマーケットの袋物を除けば、コンビニ以外は考えられないだろう。日本の伝統食がコンビニ食として定着し、アジア諸国にもコンビニのおでんは波及している。

70年代後半には、おにぎり、弁当といったデイリーフーズがコンビニの核売場として拡充されつつあった。こうした他の業態では扱っていない目的来店性の強い商品は、価格競争にさらされず、粗利益も高く店舗にとっては大歓迎であった。

そうした独自商品を拡充する流れの中に「おでん」がある。商店街の中には、おでん屋も存在していた時代であり、一定の需要は見込まれていた。ポイントはコンビニの従業員が、容易に販売できるかどうかにあった。

セブン‐イレブンは79年に専用の什器「おでんウォーマー」を開発、具材を並べて、つゆを希釈して、什器の中で温めるだけの「コンビニおでん」の販売を一部地域でスタート、82年には全国に展開させた。

■スーパーより管理しやすく、単価も上げられる

コンビニは「家庭の冷蔵庫」と呼ばれるくらい冷えた商品を品揃えしている。7月の後半が一年を通して最も売上が上がる一方で、秋冬の売上対策を求められていた。特に夕夜間は、時間に余裕のある消費者がスーパーマーケットに流れるため、秋冬の夕夜間に目的買いされる「コンビニおでん」はうってつけであった。

おでんはスーパーマーケットの差別化にもつながった。おでんの什器はカウンター上に設置するため、常に従業員の目が届く範囲にある。客がセルフでカップに取るか、従業員がサポートするか、店舗によって違いはあるものの、おでん什器を、しっかりと管理できるのがコンビニの強みであり、スーパーマーケットにはできない販売形態であった。

また、客単価の向上にもつながった。おでんの購入は1品だけではなく、3品、4品と複数の購入が一般的である。玉子、大根は必須アイテムとして、他の具材についてもバラエティをもって品揃えし、はんぺん、昆布巻き、厚揚げ、がんも、白滝、こんにゃくなど、充実させて客単価を高めていった。

おでんの具材と、ベースとなるつゆに関して、コンビニ大手チェーンが全国に店舗網を築く過程において、当然「地域性」に着目するようになる。明確に分かれる関東と関西の違いだけでなく、東海、北海道、九州はどうなのか。さらに細かく見ていけば具材にも地域性があるはずだ。

■中国ではおでんが“串刺し”の状態に

2000年代に入ると、各チェーンが具材とつゆの「地域性を競う」ようになった。外食チェーン大手が全国一律のメニューと味で店数を増やす時代ではあったが、外食が「ハレ」の需要であるのに対して、コンビニは「ケ」の需要であり、家庭の料理を代行する役割がある。全国各地に、コンビニ向けの専用工場や協力工場が組織化されるにつれて、おでんの具材もつゆも、その土地の工場が、地域特性を反映させて製造することが可能になった。

梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)

例えば、北海道では「フキ」、東北では「玉こんにゃく」、関西は「ごぼう天」、九州は「豚ナンコツ」といった具材。つゆについては、北海道は煮干しが強め、東海はむろ節を加え、関西は昆布を変えてさっぱりとした味にし、九州はあごだしを用いるなど、特徴を持たせていった。

話はやや飛ぶが、日本のコンビニとして中国本土に初めて出店したローソンは、上陸から一年後の97年に、上海の店舗で日本と同様の専用什器を用いて、おでんの販売をスタートさせた。当初は日本と変わらないメニューで臨んだが反応が鈍く、ローカライズの必要に迫られた。

そこで、現地のマーケットを調査した結果、購入後すぐに食べられる状態が必須とわかり、全品串に刺したおでんに切り替え、具材は魚や肉の練り物を中心とした。このことで、おでんの「ワンハンド」化がなされ、消費者の支持を得ていった。その後、ローソンに限らず、他のコンビニも追随することで、中国では串おでんを定着させている。

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梅澤 聡(うめざわ・さとし)
流通ジャーナリスト
1961年、札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店に入社し、ロフト業態立ち上げに参画する。1989年、商業界に入社すると、『販売革新』編集部へ。『月刊コンビニ』編集長、『飲食店経営』編集長、編集担当取締役を経てフリーランスに。現在は両誌の編集委員を務める。
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(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)