1年3カ月ほど前の2018年11月に、「ATR新CEOが語る日本におけるリージョナル機の売り込み方とは?」という記事を執筆した。そのCEO、ステファノ・ボルテリ氏が再び来日して、2月5日に都内で記者会見が行われたので、本稿では、その模様をお届けしよう。

○前回の記事より後のATRの動き

2018年11月の時点では、天草エアライン(AMX)がATR42-600を1機、日本エアコミューター(JAC)がATR42-600を8機とATR72-600を1機、そして北海道エアシステム(HAC)がATR42-600を確定2機・オプション1機、それぞれ導入する話が決まっていた。

北海道エアシステムのATR42-600初号機(JA01HC) 写真: ATR

後に、JACはATR42-600のうち1機をATR72-600に切り替えたので、ATR42-600を7機とATR72-600を2機という布陣になっている。ともあれ、これらを合計するとATR42-600が10機、ATR72-600が2機、合計で12機となる(さらにHACのオプション契約分が1機)。

これら以外で、このクラスの機体の代替が見込まれているのは、長崎県を拠点とするオリエンタルエアブリッジ(ORC)。現用中のDHC-8 Q200・2機は2001年の導入で、そろそろ代替機を必要としている。ATR42が有力候補との報道も出ているが、正式決定には至っていない。すでに、さしあたりの代替用として中古機を1機導入するとの報道が出ている。

ATRからすれば当然、ORCにも接触はしていそうだが、進行中の商談についていちいち明らかにされることはないのが通例だ。だから、こちらの状況については、しかとはわからない。

このほか、同等クラスの機体を使用しているのは、ANAウィングスと琉球エアコミューター(RAC)のDHC-8 Q400。しかしこれらは、代替の話が出るほど古い機体ではない。ANAウィングスは、最も古い機体で2003年の登録だが、継続的にDHC-8 Q400の導入が続いているので、ここで新機種が割り込む余地はなさそうだ。一方、RACの機体は2016〜2017年の登録だから、まだ新品に近い。

○ATR42-600Sで新規需要開拓か

こうした状況からすると、既存の40席級ターボプロップ機に対する代替需要はあまり期待できないので、むしろ新規開拓を図りたいところではないかと思われる。

実際、今回の記者会見で多くの時間が割かれていたのは、短距離離着陸型のATR42-600Sに関する話だった。ATR42-600Sについては、「「特別編・ATR42-600レポート(4)短距離用機材ならではの特徴」で取り上げたことがある。

ATR42-600Sのイメージ図。外観はATR42-600とほとんど同じ 資料:ATR

基本的にはATR42-600と同じ機体だが、エンジンやフラップ、方向舵などに手を入れて、短距離離着陸性能を高めた機体である。800mの滑走路があれば運用できる。SはもちろんSTOL(Short Take-Off and Landing)の頭文字。

前回の記事を掲載した時点では、ATR42-600Sはまだ構想段階だったが、昨年に複数のエアラインから合計20機のコミットメントを得て、正式にローンチが決まった。開発は予定通りに進行しており、遅れはないとの説明であった。2022年の納入開始を予定している。

もともと、ATR42-600でも1,000m級の滑走路があれば運用できるが、それを800m級の滑走路から飛ばすとなると、離着陸時の滑走距離を縮めるために機体を軽くする必要があるため、乗客22名で200nm(約370km)、つまり定員は半減してしまう。しかしATR42-600Sなら乗客48名で200nm(約370km)のフライトが可能になる。

そして、記者会見では具体的に名前を挙げて、滑走路が短い離島空港・12カ所がリストアップされていた。この内容からすれば、「ATR42-600Sで離島空路の開設はどうですか」と考えていることは容易に推察できる。

○事業を成立させられる機体

そこで気になったのが、需要である。短い滑走路の空港しかないような場所は人口も少ない。するとおそらくは、航空輸送の需要も少ない。48席でもオーバーキャパシティにならないだろうか?

なお、ATR42-600には貨物型もあり、すでにフェデックスで就航が決まっている。離島でも、急いで貨物を運ぶニーズは考えられるが、継続的に満載にできるかどうか。

すると、「旅客型」「貨物型」ではなく、RACのDHC8-Q400がそうしているように、「貨客混載型」(いわゆるコンビ型)にする手も考えられるのではないか。そう考えたため、ボルテリCEOに質問してみた。

すると「機内の仕様はカスタマー次第。フレキシブルな選択が可能になっている」という回答。なんだか、うまいことかわされてしまったような気もする。

とはいえ、もともとATR42-600でも意外と大きな貨物室を備えているので、旅客型のままでも、若干の貨物混載なら実現できるかも知れない。腰掛を1列か2列減らし、貨物室とキャビンの仕切りを少し後方に移動することが可能であれば、さらに貨物室を大きくできる。

ATR24-600の貨物室は意外と大きい。キャビンより前に配置しているところが変わっている

それに加え、ATRには、すでにJACが導入している、医療空輸を想定したストレッチャー設置という武器もある。出入口から最も近い左舷後端に、座席の背ズリを倒してストレッチャーを設置、そこをカーテンで囲うというもの。

JACの機体が導入している、客室設置用ストレッチャー。周囲をカーテンで囲めるようになっている 写真 : ATR

多くの需要を見込めない可能性があるルートで、事業として空路を成立させるためには、多様なニーズを組み合わせる必要がある。ATRの機体には、それを実現するポテンシャルはあると思われる。しかも現在、実質的にはライバル不在である。

なお、「2025年までの間に100機の需要を見込む」という見通しは以前と同じだという。その中には、既存ジェット機の代替需要・30機が含まれている。今回、こちらについては詳しい言及がなかったが、日本の短・中距離路線でジェット機の代替を必要としており、かつ候補機種が未確定というケースがないためだろうか。

ATR機のコックピット。ATR42とATR72の共通性は高い 写真 : ATR